僕はすごく疑問に思っていた。
なんで唯ちゃんは智幸の事が好きなんだろう、と。
別に智幸が唯ちゃんと釣り合わないって言うつもりはない。
誰を好きになるのかは個人の自由だ。
でも智幸は特に唯ちゃんと接したわけでもないのに、突然みんなの前で唯ちゃんに告
白された。
みんなそうだったがあれには驚いた。
唯ちゃんには大して興味を示してなかった智幸。
そんな智幸に唯ちゃんが惚れたのだから。
こんな事は誰が予想出来ただろうか。
ちょっと羨ましくもあり、かなり恨めしかった。
みんなの憧れのアイドルだった唯ちゃんに惚れられた智幸。
僕だったら泣いて飛び回るほどの喜びなのに対し、智幸の反応はあまり好ましくなか
った。
みんなのアイドルだった唯ちゃんを知らないうちに奪ったため、周りの男からの視線が
痛いらしい。
それに智幸からすれば唯ちゃんがコスプレして付きまとうのは、この上なく迷惑らしい
と言う事を言っていたような気がする。
智幸は僕とは違い、あまりアニメとかは見ない。
むしろ特撮物を好んで見ているような気がする。
特に昔の特撮物が好きらしいく、時々レンタルしてしては見ていると聞いた事がある。
しかし智幸の好きな特撮物は、僕からすればみんなコスプレした人たちばっかの集団
に思える。
それと唯ちゃんはどう違うのだろうか。はっきり言って疑問だ。
そして自分を邪険にしていると分かっているにも関わらず、それでもなお気持ち変わら
ず智幸を好きでいられる唯ちゃんも疑問だった。
なんであの時「コスプレするな」って智幸の言った事を、ノイローゼになるまで我慢して
守ろうとしたのだろうか。
僕には全く持って分からなかった。
なんでそこまで智幸を好きでいられるんだろう。
唯ちゃんがノイローゼになった後くらいだっただろうか。
徐々に智幸に対する痛い視線が和らいできていた。
皆言葉に出しては言わないが、おそらく唯ちゃんの智幸に対する思いが本当だと感じ
たのだろう。
そのために唯ちゃんのためを思って、泣く泣く暖かく見守ろうと言う結論になったのだと
僕は思う。
そう。僕もそういう結論に達したのだから。
それに親友の彼女を横取りするのは流石にマズいだろう。
最初はそう思って諦めた。
しかし僕は親友の智幸といる限りは、確実に唯ちゃんと接する事になる。
おそらくこの学校の男の中で、智幸に次いで2番目に唯ちゃんに接している男だろう。
それがいけなかった。あまりにも僕と唯ちゃんとの距離が近すぎたのだ。
僕の中で、一時は押さえ込んだ気持ちが再び膨れ上がってきていた。
何で話が一番合う僕じゃなくて、邪険にしている智幸の方がいいんだ?
唯ちゃんは何か間違ってる。普通なら智幸よりも気の合う僕に惚れるはずなのに。
気付くとそんな事を頭の中で思うようになっていた。
誰がなんと言おうとも、僕はやっぱり唯ちゃんが好きだ。
でも智幸は僕の親友。付き合っていないとはいえ、唯ちゃんを取ろうとする行為には気
が引ける。
それに唯ちゃんは心底智幸に惚れているのだ。その心を動かす事が僕に出来るのだ
ろうか。
考えれば考えるほどに、悩み苦しむ事となっていた。
しかし僕の中にはこのまま諦めるという選択肢はすでに無かった。
唯ちゃんが心底智幸に惚れているように、僕もまた唯ちゃんに心底惚れたのだから。
智幸がまだ登校してこない朝の僅かな時間。
僕は毎日唯ちゃんと話す事にした。
少ない希望ながらも、僅かでも可能性があると信じ、好感度を上げようと考えたのだ。
幸いな事に、趣味が同じなために話題が尽きる事は無かったし、智幸が好きと言って
ても、そのために他の男との関わりを拒むような事も無かった。
むしろ話が合うために、唯ちゃんから話題を持ってくる事もあった。
僕に対して向けてくれる笑顔。その時間はすごく幸せだ。
しかしそれでもやっぱり、唯ちゃんは変わらず智幸を見ていた。
何でだろう。話す回数なら智幸に負けてはいない。それは自信があった。
それでも唯ちゃんは僕よりも智幸が好きらしい。
あれはいつからだったろうか。
唯ちゃんと話す話題が智幸関係になってきて、智幸の好きな物とか趣味を僕に聞くよ
うになってきた。
唯ちゃんが知りたくて、僕が知ってる事なら喜んで答えてあげたい。
しかしこの質問を答えるのには抵抗があった。
それでも唯ちゃんが知りたがっているのだ。正直に答えてあげるしかなかった。
考え悩んだ末に僕は決意した。
この想いを唯ちゃんにちゃんと伝えよう。
もう親友との関係とかは気にするもんか。自分に正直でいくんだ。
そうさ。それ以外に僕の気持ちを整理する方法は思いつかないんだ。
それでフラれれば諦めもつくものさ。
・・・・・・何となく答えは聞かずとも分かるけど。
それでも僕は自分の気持ちを整理するため、それを行動に移す事にした。
「僕は唯ちゃんの事が好きだ」
放課後の屋上に呼び出し、僕は唯ちゃんに告白をした。生まれて初めての告白。
それに対して唯ちゃんの言った言葉とは、
「うん。私も草木君の事好きだよ」
いつもの笑顔で、さも当然のように答える。
予想していたのとは正反対の言葉。
驚きもあったが、すぐに天にも昇る気持ちになった。
しかしその後すぐ、
「話の合ういい友達だもん。嫌いなわけないって♪」
一気に地獄へ急降下。
「そ、そうじゃなくて!」
「ん?」
いきなり声を大きくした僕を不思議そうに見る唯ちゃん。
確実に僕と唯ちゃんの「好き」の意味が違っていた。
「僕の言う『好き』は、唯ちゃんと付き合いたい・・・彼女にしたい、って意味なんだよ!」
今度は語弊(ごへい)がないように言うと、唯ちゃんは目を大きく見開きすごく驚いた顔
をした後、
「ダメダメダメ。それはダメだよ!私は智幸の事が好きなんだから、草木君とは付き合え
ないよ!それは草木君がよく知ってるはずでしょ?!」
「それはよく知ってるよ。それが分かってても僕はやっぱり唯ちゃんが好きなんだ!」
困った顔をする唯ちゃんに気後れしそうになるが、それを堪えて僕は想いを伝える。
そして更に言葉を続けた。
「肝心の智幸は唯ちゃんの事を真剣に見ていないじゃないか!その事に唯ちゃんは辛く
ないの?叶わない恋を無理にする事ないよ。僕とならいい恋人になれるはずだよ。いつ
も話せば会話が尽きる事なく弾むし、すごく気が合っていて相性がいいと思うよ?だから
僕と付き合ってくれないかな?」
「・・・そんな事言われても・・・」
戸惑う唯ちゃんに僕は想いのたけを唯ちゃんにぶつけた。
今自分に出来るすべてをぶつけたと思う。
だがそれでも、唯ちゃんは「うん」と言ってくれなかった。
悔しいが、やっぱり僕ではダメなようだ。
「ゴメン。無理なら無理でもいいんだ。ただきっぱりと僕をフッて諦めをつかせて欲しい。
そうしてくれないとこれからも僕は唯ちゃんの事を思い続けると思うから・・・」
「・・・うん。分かったよ」
一言そう言うと目を閉じ、唯ちゃんは大きく深呼吸をする。
そして覚悟を決めたように目を開き、僕の願い通りキッパリと断ってくれた。
「私は智幸の事しか好きになれない。それに草―――彰君の事は友達以上には見る事
が出来ないよ。だから付き合う事は出来ない。ごめんなさい!」
それが僕の生まれて初めての失恋だった。
しかしこれで僕は諦めがついた。今日一晩泣いたらもう大丈夫。
明日からはまたいつも通りに、何事も無かったように接せれるさ。
うん。これからは唯ちゃんのために、智幸と唯ちゃんをくっ付けるキューピットになろう。
それが僕に出来る唯一の唯ちゃんへの愛の形だと思うから。
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