哀れな青年

 
 それは近くのスーパーで雑誌を立ち読みしていた時の事だった。
 

 

 

 その日はちょうど毎週読む雑誌の発売日であったため、外出したついでにスーパーに

立ち寄っていた。

 そんな雑誌を熱心に読んでいる俺に近づいてくる一人の少女。

 俺はあまりにも熱心に雑誌を読んでいたために、すぐにその少女には気付かなかった。

とはいっても、少女は俺の前方からやってきたために、やや下を向いていた俺の視界の

上の方から誰かがやってくるって事くらいは認知できていた。



「……久しぶり」



 近くで声がした。俺の前方からだ。

 反射的に声に反応した俺は雑誌から視線を離し、顔を上げて声のした方を見た。

 そこには俺の良く知る少女が立っていた。

 それは――俺が昔付き合っていた少女。もう別れて二年以上経つ。

 付き合っていた当時はすごく好きだったし、愛していたと思う。

 しかし今はその思いも色褪せてしまい、残念ながら昔ほどの感情の昂りは感じられな

かった。

 別れてから二年以上経つが、それからも度々会う事はあった。元カノの兄が俺の親友

だったために、家に遊びに行った時などにたまに会う事があったのだ。

 それでも最近は親友の家にも遊びに行く事がなく、元カノの顔を見るのは随分と久しぶ

りの事だった。

 最後に会った時はいつだっただろう?

 偶然、男と一緒に楽しそうにしている場面を最近見た事はあるが、その時はあまりしっ

かりは見ていなかった。あの時はうまく表現出来ない、モヤモヤしたものが胸いっぱいに

広がり、あまりしっかり見るような気にはなれなかったから。

 実際に会話をしたのはもう三ヵ月は軽く前になるだろう。

 今日は親と一緒に買い物に来たらしく、親が買い物をしている間、俺たちは久しぶりの

会話をした。
 

 

 

「学校はどう? ちゃんと勉強してんの?」

「行ってるよ。でも勉強の方は……」

 元カノは少し苦笑いをする。

「ダメなの?」

「うちの学校は勉強出来なくても、頑張る気があれば何とかなる学校だから」

「いい加減な学校だな」

 確か通ってる学校は『高校』ではなく、『専修学校』だったような気がする。

 本人から聞いた話によると、あまり勉強の出来ないような人が行くらしい。でもあの頃

の元カノは自虐的な性格だったし、それが本当なのかは実際分からない。でも今日聞い

た話によると、休学や退学者が多くいるようで、あながち嘘ではないのかもしれない。中

にはバイト疲れで全然登校してこない人までいるらしい。

 そのためなのか、ちゃんと来てくれればそれでいい、って感じらしく、本当にいい加減で

ある。

 でもこの学校は卒業予定の生徒に職業の斡旋――学校側での生徒に対しての職場へ

の配慮――はないらしく、就職先なり進学先なりは「勝手に探してください」という事らし

い。高校生にしたらやや厳しい感じも否めない。

 もしかしたら、ただ単に三年間在籍していれば卒業証書をくれるような学校なのかもし

れない。

 学校のネタはあまり話が進みそうもないと思っていると、



「グラビアになろうかな」



 突然、元カノはそんな事を言い出した。

 どうやら俺の読んでいた雑誌の、表表紙を見て出た言葉のようだ。その表紙には不思

議系キャラの人物が載っていた。確かどっかの星のお姫様って設定を持ったキャラだった

ように記憶している。外見だけで見れば可愛いものの、中身は……まあそれはいいや。

「へぇ〜。グラビアね〜。しかし、なるにしても体の問題が……」

 体を見てみるものの、水着を着ても大して強調されるようなものはないように見える。

 幼児体系とは言わないが、胸の谷間は皆無なために揉むほどの膨らみもなさそうだ。

それでも付き合っていた当時よりは膨らんでいるとは思うけど。

「それはそうだし、グラビアって大変そうだしな〜」

「それはなってみなければ分からないって。試しにオーディションを受けるだけ受けてみた

ら?」

 何事もやってみなければ分からない。行動なくして結果はないものだ。

 俺はそう言ってみたものの、

「ん〜。……止めとくよ」

 少し考えた末に、やっぱり受ける気はないようだった。

 

 

 雑誌置き場の近くにはチョコレートがいっぱい置かれていた。

 それに気付いた元カノはポツリと「バレンタインデーか……」と言った。

「ああ、もうすぐだね。誰かにあげる予定はあるの?」

「ないよ」

「あ、逆に欲しいとか?」

「まあね。でも最近お菓子は食べなくなっちゃったんだ。どうも甘いものが苦手になったみ

たい」

 女性にしては珍しい発言だ。

 普通の年頃の子なら「甘いものは別腹〜」って言ってバクバク食べて、「どうしよ、太っ

たみたい」って言って食料制限ダイエットして、戻ったって言ってはまた食べて、ダイエット

して――てな繰り返しをするもんだと思うのだが。

 あ、でもダイエットしたいって思っているがために、無意識のうちに甘いものを拒絶して

いるのかもしれない。いい例に自分がいるし。

 俺も無駄に体重を増やしたくない――糖尿病とかの成人病が怖い――ために、気付く

とお菓子類をほとんど食べる事が無くなっていたのだ。

 「どうせなら俺にチョコ頂戴よ」と言おうとしたが、どうも冗談でも言い辛かった。いや、冗

談抜きの本気で思っていたからこそ、その言葉を言えなかったんだろう。まだ吹っ切れて

いない証拠だな。

 そんな自分に少し呆れていると、ふと一つの疑問が浮かび上がった。



 誰にもチョコをあげないって事は、この前楽しそうに一緒の食べ物を食べていた男はどう

なるんだろう?



 それを無性に聞きたくなった。

 しかしその場面を俺が見ていた事は言ってないし、あっちももちろん俺が見ていたこと

は知らないはず。

 さて、どうしたものか。聞きにくいな。

 一番有力な予想としては、彼氏をいる事を隠したいためにチョコをあげる事を内緒にして

いた、だと思う。俺に彼女がまだ出来ていない遠慮と、元彼にあたる俺には言い辛かっ

たとかそんな感じの理由かな。

 他には、あの男は単なる友達でチョコをあげるような関係じゃない、とか。

 でもそれだと俺の知らないうちに随分と軽い女になったものだ。付き合っていた当時に

は、まだ綺麗な心を持っていたのに。

 時間と共に人間は変わっていくものなんだろうか。少し悲しい。

 でもそれが今の子には普通で、俺が古いだけなのかも。

 しかしちょうど本人が目の前にいるんだから勇気を出して聞いてみよう。

 …………。

 ……やっぱり無理っぽい。

 結局色々考え悩んだ末、聞くのは止めておいた。下手に踏み込んだような事を聞いて

嫌われたら嫌だ。

 情けないがあの事は俺の胸のうちだけにしまっておくことにしよう。

 

 

 久しぶりに会ったというのに、積もり積もったほどの話が無い事に気付く。

 社会人と学生の違いのために共通の話が出来ないのだ。

 そのために割と早くに会話が終了してしまう。まだ元カノの親は買い物を終わらせるよう

な感じではない。

 お互いにあまり会話上手ではないし、これは仕方ないのだろうか。

 そう考えたものの、付き合っていた当時も同じ社会人と学生の身。それなのに会話は

あったように記憶する。

 だから世間体の違いは理由になっていないと思う。それなら何で会話が続かないのだ

ろう。考えてもその理由は思いつかない。

 しかしゆっくり考えてみると、僅かな短い時間でも元カノは変わっていた事に気付いた。

 まだ高校生のために成長期という事もあるだろう。大人の色香がだんだんと出てきたよ

うに感じる。

 それに性格が前よりも外向的になっていたように感じた。昔はあまり自分からでは話さ

なかったのに、今日会ってみれば自分の事を自分の方から話してきたり、自分の意見を

言えるようになっていたのだ。

 やはり女というものは早成熟である。こんな短期間で変わってしまうのだから。

  

 

 会話が無くなったためだろう。

 元カノが「スーパーの中を見て回ってくる」と言った。そしてさらに「そっちはどうする?」

と聞いてきた。

 俺はまだ雑誌の読み途中だったのでこのまま読もうとも思ったのだが、俺のこの口が

勝手にこんな言葉を出しやがった。



「じゃあ一緒に見て回ろうかな」



 無意識。そう無意識に、とっさに出た言葉だった。

 何でこんな事を言ったのだろう。言うつもり無かったのに。

 これでオッケーが出たら、またやり直せる可能性があるとでも考えたのだろうか。

 未練がましい男だ。自分でそう思う。

 しかし、そんな俺の微かな希望を元カノは軽く打ち砕いた。



「嫌。止めて!」



 一瞬、俺の言葉に驚いたような顔をしたものの、次の瞬間にはキッパリと言い切ってく

れちゃったのだ。

 そんなにキッパリ言われたらかなりショックである。凹んだ。

 しかしそれを表に出すのは嫌だった。あまりにも情けなすぎるし、空しすぎた。

 冗談で言ったならまだしも、さっきのセリフは無意識に出た本音だったのだから。そして

それを拒否されたのだから。

 そんな俺はもう雑誌を読む気分ではなくなり、

「あはは。じゃあ俺は帰ろうかな」

 と誤魔化しながら、内心は暗い心模様になりつつ、その場を去っていったのだった。

 

 

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あとがき

この話は(10%未満の)フィクションです。
そして題名はてけとー(笑)

え〜、なんと言いますか……他に書く事ないっぽいです。

ああ、一つあった。
ちょっと重要っぽい文章は上と下の隙間(行間)を広くしてみました。
日日日の真似です。
でも慣れてないから違和感を感じちゃうかも。