それはクリスマスが終わった次の日。夕食後の団欒の一時での事だった。
5歳になる私の可愛い子供である優が、私の旦那――優の父親にある一つの質問をし
た。
「ねえ、パパ。サンタさんはどこにいるの?」
「それはね、サンタの国にいるんだよ」
子供ながらの可愛い質問。まだ幼いために、サンタさんの存在を疑っていない。
それに対し旦那は、子供の夢を壊してはいけないと思い、そう答えた。
旦那の言うことに全く疑いを持たない優はさらに質問を続ける。
「サンタの国ってどこにあるの?」
「えーっと、確かフィンランドだったかな」
優は分かったような分からないような、そんな難しい顔をしている。
無理もない。まだ幼い優に外国の名前を出しても理解出来ないだろう。
そもそも外国だと理解しているのかも怪しいところである。
そのために旦那は「雪がたくさん降る、すごく寒いところだよ」と付け加えた。
「それはどこにあるの?」
「ここよりもずっと遠い、他の国にあるんだよ。パパも言った事ないから正確な位置は知
らないけどね」
「遠いところからどうやってやってくるの?」
「それは、トナカイに引かれてソリでやってくるんだよ」
「トナカイって空飛ばないよ?」
尤もな意見だ。
普通に考えたらトナカイは鹿なので、空を飛ぶことは決して出来ない。
いくら幼い優でも、サンタクロースは信じられても、トナカイが空を飛ぶ事までは信じら
れなくなってしまったみたいだ。
世間の常識を知るたびに、子供だからこそ出来る可愛い考えが無くなっていくのを少し
寂しく感じた。
「そんな事ないぞ。サンタさんのトナカイは特別なんだ」
「へぇ〜、そうなんだ」
それでもやっぱり優はまだ幼い子供だった。
旦那のその言葉を真に受けてしまったようで、トナカイが空を飛ぶ事を簡単に納得して
しまった。
しかし次の瞬間、優は信じられない言葉を口に出した。
「じゃあさ、日本に来るには"びざ"が必要なんだよね?」
「え?」
「だってさ、そうしないと"ふほうにゅうこく"で捕まっちゃうんでしょ?」
優の言葉に驚く旦那。
面を喰らったように目をパチパチと瞬きさせている。
これには旦那だけでなく、私も驚いた。
サンタクロースを信じてるのに、こんなところはすでに完全に現実的な考えを持ってい
たのだから。
一体どこでそんな事を覚えたのだろう。
「あ…いや、サンタさんは特別なんだよ。だからビザが無くても捕まったりしないんだ」
少し返答に困りながらも答えを返す旦那。
さらに追い討ちをかけるように優は質問を続ける。
「ふーん。じゃあサンタさんはみんな"ふぃんらんど"の人なの? 他の国の人はサンタさ
んになれないの? "ふぃんらんど"で暮らせばボクもサンタさんになれるの?」
また返答に困る質問が飛び出してきたために、旦那は心底困って口を閉ざしてしまう。
真実を言ってしまうのはマズイと思っているのだろう。
何て誤魔化そうかすごく悩んでいる様子だ。眉間に皺がよりまくっている。
さて、これにどう答えを返すのだろうか。
私は助け舟を出すつもりなど微塵も無かった。
ここは旦那のお手並み拝見で、ただ静かに優と共に答えを待つ。
そして必死に考えて旦那が出した答えとは、
「……それはだな……実はサンタさんな、普段宇宙に住んでいるんだ。それでクリスマス
の日にだけ、サンタの星からフィンランドにあるサンタの国にやって来るんだよ。だから、
正確にはフィンランドの人がサンタさんってわけではないんだ」
心の中で笑ってしまった。
また随分とスケールが大きいことを言い出したものだ。宇宙にまで話を持っていくとは
予想もつかなかった。
今まで気付かなかったが、私の旦那はなかなかの空想家だったのかもしれない。
「サンタさんって宇宙に住んでたんだ〜。どこの星に住んでるの?」
そんな旦那の宇宙にまで飛んだ空想話を真に受ける優。
子供は純粋で可愛いものだ。
それゆえに、さらに突っ込んだ質問をしてきた。
これにはどう悩んで返すのかと思いきや、旦那はその質問を予想していたらしく即答で
答えを返す。
「それはだな……M78星雲の隣にある星だ。あのウルトラマンが住んでいる星の横に、
サンタの星はあるんだよ。だからサンタさんはウルトラマンとは大の仲良しなんだぞ」
「そうだったんだ〜。パパは物知りだね」
「そうか? いや、まあな〜。あっはっは」
こんな2人の会話を聞いていて私は思った。
旦那も、優同様に可愛いやつだな、と。
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