それは幼馴染とのいつもの学校帰りに突然告げられた。

「俺さ、転校することになった・・・来週・・・」

「え?・・・」

 

 

 約束

 

 

「・・・突然だね」

「ああ。昨日突然決まったんだ」

「そうなんだ。転校しちゃうのか・・・」

 え?転校・・・?来週・・・?何・・・?どうなってるの・・・?そんな・・・。

 ああ。なんかすごい頭の中が混乱してる?・・・かも。

「美沙(みさ)?」

 突然呼びかけられて焦る。

「えーっと、えーっとね・・・。私・・・」

 ああ、何言ってるんだろ、私。

 頭の中が真っ白になって何も考えられなくなってきた。

「美沙?」

「・・・ゴメン!私、先に帰るね!」

「え・・・?おい、美沙。美沙!」

 私は思わずその場から逃げるように走り出した。

 走り去る私の背中の方から明(あきら)が何か言っているけど、私はそれを無視して家

に向かって走っていった。

 

 

 嘘だよ、そんなの嘘だよ!勝手すぎるよ!

 ずっと一緒にいられると思ってたのに・・・。そう信じていたのに・・・。

 それなのに急に転校するだなんてあんまりだよ・・・。

 夢なら覚めてよ・・・。覚めてよ!

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 お願い・・・。夢なら早く覚めて・・・。

 

 

 

 

 

「木村」

「はい」

「小林」

「はーい」

 担任が朝の点呼を取っていた。

 順番に名前を呼ばれていき、名前を呼ばれた生徒は返事をするのだが、

「鈴原」

「・・・・・・」

「ん?鈴原?」

「美沙ちゃんは来てませーん」

「あっ、そうか。しかし珍しいな〜、鈴原が休むとは」

 俺が転校すると告げた次の日。美沙は学校には来なかった。

 理由は何となく分かる。

 あいつが風邪とか引くようなやつじゃないのは良く知っている。

 だからきっと昨日の事が原因で学校には来なかったんだ。そうに違いない。

 まだ話の続きがあったのに、いきなり逃げるように帰っていったしな。

 

 

プルルルル・・・

 電話が鳴っている。それが分かってても私は電話には出ない。

 いや、出る元気もないのだ。何だか今は何もしたくない気分だった。

 このままずっとベットの上で寝ていたい。

 少しの間電話の音が鳴り響いていたが、相手が諦めたのか電話の音は止んだ。

「電話・・・切れちゃった・・・。誰からだったのかな?」

 相手が気になったが、すぐにそんな事はどうでも良くなった。

 何でかな?何で私こんな落ち込んでるんだろう?

―――いや、そんな事はもう分かってる。ずっと前から分かっていた。

 今まで意識した事なかったはずなのに・・・。

―――それはいつも一緒にいすぎたから。

 私・・・これからどうすればいいのかな?

―――考えるまでもない。

 明の事を考えるだけで胸が苦しくなってくる。

 会いたい。今すごく明に会いたいよ。でも・・・。

ガラガラ

「美沙!」

「―――!?」

 突然部屋の窓が開いたかと思うと、明が部屋に入ってきた。

「え・・・?明・・・?」

 私が予想にもしていないところからの、突然の訪問で呆気に取られていると、

「バカ!」

 突然明がいつにもなく真剣な表情で怒鳴りつけてきた。

 私はビックリして思わず目を瞑ってしまった。

 すると次の瞬間、明が私の手を引っ張って自分の胸に抱き寄せてきた。

 目を瞑ってしたし、とっさの事だったので、何の抵抗もなく私は明の胸の中へ抱き寄せ

られてしまっていた。

 え?抱き寄せられたの?今私明の胸の中に・・・?
 
 その行動に驚き、また頭の中が混乱してきた。

 すると明が私の耳元で、

「まったく心配かけさせるなよ。電話は出ないし、家の鍵はかかってるし・・・」

「だって・・・私・・・」

 私が喋ろうとすると、明は私の口を人差し指で押さえてしまい喋れなくなった。

「いいから俺の話を聞いてくれ」

「うん」

「昨日言い損なったんだけど、俺たち今度受験だろ?大学はこっち受けるからさ。だから

それまでは我慢して待っててくれないか?」

「・・・え?それって・・・」

「ああ。いちお告白のつもりだから・・・」

 私の言いたいことが分かったみたいで、顔を赤くしながら明は答えてくれた。

「だから待っててくれないか?」

 明は真剣な眼差しで私を見て改めて言った。

 それに対して私は、

「うん!待ってる!絶対待ってるよ!」

 今までで一番と言える笑みで答えた。

 そして私たちはお互いの気持ちを確かめるように何度も何度もキスを交わした。

 

 

「そういえば覚えてた?あのときの約束」

「約束?」

 明はさっぱり分からないような顔で聞き返してきた。

「あー、忘れちゃってるんだ。ほら、子供の頃したじゃない。ゆびきりの約束を」

「ん〜?思い出せないな・・・」

「なんだ。私だけ健気に覚えていたのか。ちょっとショックだな〜」

「どんな約束したんだっけ?」

「いいよ、思い出さなくても。もうその約束は叶ったようなものだしね」

「何だよ。自分だけ満足そうな顔して。気になるじゃん」

「ダ〜メ〜。忘れた方がいけないの。気になるなら自力で思い出しなさい」

「うー、仕方ない。頑張って思い出そう・・・」

「そうそう。頑張って」

 

 

「ねえ、アキラ君。私大きくなったらアキラ君のお嫁さんになってあげるね」

「ホントに?」

「うん。ホントだよ。だからゆびきりしよ」

「うん」

「「ゆーびきりげんまん、うーそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった!」」

「約束だね」

「うん」

 

 

 

 

 

 あれから随分の時間が経った。

 たまに電話をくれたりするけど、転校してからは1度も会っていない。

 だから会いたくて会いたくてたまらなくなるときがあったりした。

 けれど、それももうすぐ終わりを告げる。

 だってもうすぐ新しい約束の時なんだもん。

 ああ、早く明に会いたいな。
 


戻る  TOP

掲示板

←面白かったらポチッとボタン押してください。

ネット小説ランキング恋愛小説 シリアス
← 良かったら投票してください^^

← 良かったら投票してください^^