第1話 コスプレガール現る

 


 すべての事の始まりはあの日の出来事だった。

 それまではどこにでもいるような普通の『生徒A』だったのに・・・。

 それなのに今では、学校中に知られるほどの有名人になっていた。

 しかし、何で俺はあいつに目をつけられたのだろうか。

 今でもそれは謎である。

 とにかく俺は、あいつに気に入られてしまったのだ。

 あいつ――― 美坂唯(みさかゆい)に。

 

 

 

 

 

 あいつとの出逢いは、高校2年の春。

 新学期になってクラス替えした俺のクラスにあいつは転校してやってきた。

 朝のHR。担任に呼ばれてクラスに入ってきたあいつを見て、俺は自分の目を疑った。

 それは他のやつもそうらしく、クラス全体がどよめいた。

 そして不思議な事にここまで連れてきたはずの担任までが、あいつを見て不思議そうな

顔をしていた。

 確かに俺の学校は指定の制服など無く、自由に私服姿で登校が許されている。

 しかし、まさかあんな格好で学校にやってくるやつがいるとは誰が予想できただろうか。

 服装だけなら白いシャツに大きめの赤いブレザー、それに少し短めなスカートで、おか

しいところはない。

 だが、あいつの頭には大きな天使の輪っか、髪は水色。そして右手には突起がたくさん

ついた大きな金属バットが握られていたのだった。

 俺はその手の方向には詳しくないが、あいつの格好はいわゆるコスプレだった。

 そんな自分の姿を見て、異様な気配を放つクラスの雰囲気などは全然気付いていない

らしく、あいつはそのまま溢れんばかりの笑顔で自己紹介を始める。

「はじめまして。三塚井唯(みつかいゆい)です!身長は145で、好きな食べ物は甘いも

の全般、好きな事は自分が気に入った服を着てその人の真似をする事です」

 さらにあいつはいきなり胸を持ち上げて、

「上から86!」

 両手を腰にかけて、

「55!」

 体を反転させてお尻を突き出す感じで、

「78!です」

 そして最後にVサインをして、「これからみんなよろしくね♪」と言い、自己紹介を終わら

せた。

 すると担任が不思議そうに、「苗字は『美坂』じゃなかったかしら?それにさっきまでは

変な格好してなかったはずなのに・・・」と呟く。

「この姿の時は『三塚井』なんです。今の私は撲殺堕天使ユイちゃんなのですよ♪」

「・・・・・・はい?」

 担任はあいつが言ってる意味が分かっていないようでかなり戸惑っている。

 そして少しの間をおき、クラスメイトの1人であり、俺の親友でもある彰(あきら)が突然

叫び立ち上がった。

「おお〜!やっぱりそれはあの『撲殺堕天使ルシファーちゃん』のコスプレなのか!」

「あ〜!君は知ってるの〜♪」

「もちろんさ。あれは結構いろいろな意味で有名な作品だからね」

「一部の人しか知らないみたいだから、知ってる人がいてくれて嬉しいな〜♪」

「あの呪文はなかなか印象的だしね〜。なかなか忘れられないよ」

「うんうん、そうだよね〜。」

 そしてバットを器用に右手でクルクル回しながら、意味不明な呪文を唱える。

 まあ彰の言うように、印象的な呪文に思えなくも無いが、全くもって意味不明だ。

 だが、彰にはそれが最高に良かったらしく絶叫して、感動の嵐に包まれていた。

「ビバ最高だよ!声までそっくりだ!」

「あはは。ありがと〜♪君の名前はなんて言うの?」

「僕?僕の名前は草木彰(くさきあきら)。君とはいい話相手になれそうな気がするよ。こ

れからよろしく、唯さん」

「うん。よろしくね、草木君!」

 2人だけが違う空間で話をしていた。

 そういえば彰は昔からアニメとか詳しかったからな〜。

 初対面で早くも意気投合するとは、かなり相性がいいのかもしれない。

 しかしそんな2人の空間を壊すように担任は、

「えーっとね、とりあえずちゃんと自己紹介してもらっていいかしら?本名は『美坂唯』さん

でしょう?」

「は〜い」

 するとあいつは大人しく天使の輪と、ウイッグと、バットを教卓の上に置こうとする。

 だが、バットを置く時にあいつはバランスを崩し、結果的に先生が立っていた目の前に

ある教卓に向かってバットを振り下ろす形となった。

バキッ!

 驚く事に振り下ろされたバットにより、なんと教卓が破壊された。

 クラス全員がその光景を見て言葉を失う。

「あれれ?先生。この教卓古くなってましたよ?」

 何の疑いもない純粋な瞳であいつは言った。

「そ、そんなはずはないんだけどね〜」

 担任は真っ青な顔をし、冷や汗をかきながらそれに答えた。

 無理もないな。命の危機が迫っていたのだから。

 そもそもあの教卓は古くなどない。あれは今日新調したばっかりなのだ。

 そんな教卓を破壊するほどの凶器になるバット。

 少しでも振り下ろされる場所がズレてたら、自分が教卓と同じ運命になっていたのは目

に見えている。

 しかしあれはかなり重いのだろうに、軽々と右手で振り回していたあいつは何者。

 とにかく、こんな感じであいつは俺のクラスへやってきたのだ。

 

 

 

 

 

 転校して1週間もしないうちに、全校であいつを知らないやつは誰もいなかった。

 あんな印象的な格好して校内を歩いていれば、嫌でも目に入るしな。

 それにコスプレしてるってとこを抜いても、あいつは普通に可愛いかったので、中には

あいつを狙おうと、自ら茨の道へと突き進むやつも出るほどだった。

 いや、あいつの認知度は学校だけなんて、そんな小さな範囲じゃないな。

 あいつは毎日コスプレ姿で学校まで登校してくるのだ。

 すでに学校周辺の人たちにも、あいつの存在は知れ渡っていた。

 その証拠に、下校時になると正門のところでは男女混じった集団がいる。

 それはもちろん、あいつを一目見ようという集団が群がっているのに違いなかった。

 しかし、ずっと『撲殺堕天使ルシファーちゃん』の格好をしているわけではない。

 あいつの気分と、その場の状況によって衣装を変えていた。

 だが、その姿の大半は俺の全然知らない格好で、特に興味などを持ちようもなく、どう

でも良かった。

 しかし、彰は全部のキャラの名前を答えていたので、あいつはすごいやつだな、と思っ

たりもした。

 ある意味、彰と言う人間を見直した。

 とにかく、服装は自由な学校だし勝手にやってくれ、って感じで俺はあいつを見ていた

はずなのだ。

 全然彰みたいにお近づきになろうなんて思っていなかったはずなのだ。

 それなのに・・・それなのに・・・。

 

 

 

 

 

 ある日、いつも通りに登校してきて教室に入ると、いつもと教室の雰囲気が違った。

 主に男子集団から、どんよりと暗く重い空気が流れていた。

「どうしたんだ?」

 教室全体に問いかけるような感じで聞くと、彰が泣きそうな声で答える。

「僕たちのアイドル、唯ちゃんに好きな人が出来たんだって・・・」

「そうなのか?でも誰でも好きなやつくらいは出来るもんだろ。それは仕方ないさ」

「それはそうなんだけど、昨日はそんな素振りは無かったんだよ・・・。昨日のうちに何が

あったんだろう?」

「それを俺が知るかよ。まあ女は1人じゃないし、他のやつを探せばいいじゃないか」

「でもな〜。あんなに話が合う女の子はなかなかいないって。それにさ、唯ちゃんは僕と

話が合うし、よく話してたじゃん?これは僕に気があると思ってたんだけどな〜」

 俺にはあいつの良さは分からないのだが、ずごく残念そうな顔をしているのを見ると、

彰は本当に惚れていたんだな〜、というのが分かった。

「ふーん。で、誰を好きになったんだって?」

 あいつが惚れたのが誰なのか気になったので聞いてみると、

「それは分からないんだ。この学校にいるのは確かなんだけどね」

「何でこの学校にいるって分かるんだ?」

「朝来てみんなにその事を告白すると、その人専用の服に着替えるために、すぐに更衣

室に入っていっちゃったらしいから」

「なるほど。しかしある意味、そいつは可哀相なやつだな。

 これからそいつはみんなから嫉妬の目で見られるだろうし」

 誰かも分からない奴に俺は哀れみの言葉を送る。

 

 

 しばらくすると、何やら廊下が騒がしくなってきた。

 HRまでは暇だし、何事かと廊下に出てみようとすると、メイド服を着た誰かが俺の目の

前に突然現れた。

 もうメイド服ってとこだけで、それが誰なのかは顔は見ずとも分かった。

 なぜかメイド服を着たあいつが、俺を見て放った第一声は、

「あっ、ご主人様〜☆ おはようございますですぅ〜」

「「「ええ〜?!」」」

 あいつのその言葉を聞き、クラス中が、あいつの後を追って廊下にいた集団が、そして

俺が声を揃えて一斉に叫んだ。

 何がどうなってるんだ?

 今のは俺に向かって言ったのか?それとも他のやつにか?

 すぐに後ろを振り向くが、俺の側には誰もいなかった。

 俺は再びあいつに視線を戻して、恐る恐る尋ねる。

「『ご主人様』って・・・俺の事・・・なのか?」

 あいつは可愛く首を軽くかしげると、

「はいですぅ〜。私のご主人様は『草薙智幸(くさなぎともゆき)』様ですぅ〜☆」

 すると突然全方位からの痛いほどの視線と、そしていくつもの殺気を俺は感じた。 

 そんな視線が発せられている事にあいつは全く気付かず、さらに強調するようにもう一

度言った。

「今日から私はご主人様の専属メイドさんなのですぅ〜☆」
 

 

 

 

 

 

 こうして俺はあいつ―――美坂唯に気に入られてしまったのだ。
 

 

 

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あとがき

これって何かしらの某作品のネタを流用しつつ、それをアレンジする事になるので、
著作権を侵害するような事態にならないか不安になりつつ書きました(笑)

しかし最初に使った作品ネタって一部の人しか知らない作品ですよね。
次回はもっと人気度の高い某作品を出すように努力しますね〜♪

次回をこうご期待!

※文字色を薄くしてありますが、もし黒の方がいい場合はこっそり報告してください♪