何でか分からないが、唯に付きまとわれるようになった俺。
そんな俺の事は、3日も経たず学校中に知れ渡っていた。
みんなのアイドル的存在だった唯。
それがいきなりメイド服を着て、俺に対して「ご主人様〜☆」だったのだ。
唯に好意を持っていた奴らには、かなりショッキングな出来事だっただろう。
おかげで俺は数多くの敵を一瞬で作ってしまった。
全くもっていい迷惑だ。
しかし始めの頃は今まで誰からも告白された事がないために、好意を持って接してくれ
る唯を完全には邪険に出来なかった。
だが、どうしても俺に対する視線が痛かった。
迷惑な服を着て付きまとってくる事に関しても内心では嫌なわけで、次第に俺は唯を邪
険にしていくようになっていった。
今日も朝から専属メイドな唯。
俺が教室に入ってくるのに気付くと、すぐに俺の元へやってきた。
「おはようございますですぅ〜」
「・・・・・・」
俺はあえて無視。
最初から馴れなれしく接すると、とても周りの反応が良くないためだ。
それなのだが、逆に唯の事を無視する事も周りからは良く思われない。
現に今も俺に対しての痛い視線が、いくつが降り注がれていた。
はぁ〜。一体俺はどうすればいいんだよ。
「ご主人様〜。おはようですぅ〜」
「・・・おはよう」
仕方ないので俺は挨拶し返す。
そして唯はいつも通り、嬉しそうに一方的な話をしてくるのだった。
俺が適当に話を聞き流してる事も気付かずに。
俺は唯に対して優しく接している事はないのに、
何で唯は俺の事を嫌いにならないの
だろうか?
そもそも何で俺は唯に好かれる事になったのだろう?
2週間経った今、俺はすごく不思議に思っていた。
当たり障り無く嫌われる事は不器用な俺には出来ないために、多少唯に好意を持って
る奴らには不愉快に思われようとも、愛想を尽かされるように頑張っているのに。
そんなわけで俺は屋上に唯を連れて行き、直球勝負で聞いてみる事にした。
そして俺の事は諦めてもらおう。
「なあ?俺がお前の事を邪険にしてる事知ってるだろ?」
「知ってますよぉ〜」
さも当たり前のように答える唯。
てっきり気付いていないと思っていたのに、実は知っていた事がちょっと意外だった。
「知ってるなら、何でまだ俺に付きまとうんだ。俺はお前と付き合う気はないんだぞ?」
「ご主人様は唯の事嫌いですかぁ〜?」
唯は涙目になりながら、上目遣いで俺を見る。
うっ!そんな仕草は卑怯だ。
下手な事は言えないじゃないか。
「いや、お前の事自体は嫌いじゃないけど・・・」
「ですよね?それなら問題無(モウマンタイ)ですよぉ〜。私が勝手に付きまとってるだけ
ですし、あまり唯の事は気にしないでくださいですぅ〜」
曇りの無い笑顔でそう言われると、罪悪感みたいな感情がフツフツと沸いてくる。
「私はご主人様の側にいられればそれだけで・・・」
そして唯は俺の腕に寄り添ってきたのだった。
そんな事を言われると・・・こんな事をされてしまうと・・・もう何も言えないよな〜。
唯の思いを知ってしまい、俺は唯を邪険にし辛くなってしまった。
それなのだが、やっぱり迷惑な服でいられるのは勘弁して欲しい。
それに「ご主人様」なんて呼ばれ続けられていると、今に嫉妬に狂った奴らに後ろから
刺されかねない。それが怖いのだ。
その事に関しては思い切って言おう。
この前みたいに何気に遠回しに言うのではなく、それこそ本当に直球で。
そして、思い切って言ってやる、って事で、放課後になった教室で言う事にした。
「俺はメイド服なんか着て側にいられるのは嫌なんだ。それに「ご主人様」なんて呼ばれ
るのも嫌なんだよ」
よし、言ってやったぞ。
「そ、そうなんですかぁ〜?」
また涙目で上目遣いをしながら聞き返してきた。
うっ、ここで折れたら負けだ。ここは我慢。心を鬼に。
「ああ、そうだ」
俺ははっきりと言い返してやった。
すぐに周りから殺気が沸き起こるが、ここは怖くても言うべきだ。
「そもそも迷惑なんだ。この学校は私服が認められているから、お前がどんな服を着ても
文句を言うつもりはないさ。でも、今着てる服は『俺のための専用服』なんだろ?それは
はっきり言って迷惑なんだ。俺はそんな服着ることを頼んだ覚えはないし、いつも「ご主
人様」なんて呼ぶから周りから変な誤解を受けていつも視線が痛いんだぞ!これ以上俺
に迷惑をかけるな!」
「それなら・・・私はどうすればいいんですかぁ〜?」
懇願するように唯は俺の服を掴む。
そんな唯に俺はビシッと言ってやった。
「学校ではお前が昔―――小学校の時に着てたような私服を着て過ごしてくれないか?
そうすれば俺は文句言わない」
普通の学校だとしたら、私生活で着てるような私服を着てくれればいい、って言うのだ
ろう。
しかし、この学校は私服OKであるため、私生活で着る服を着てくる奴ばっかりなのだ。
それはコスプレ好きな唯も同様なのだ。前にそんな話を聞いた。
そんなために、俺はあえてバカみたいな事を言ってると分かりつつも、まだまともであっ
ただろう幼き頃に着ていた私服を着てくるように言ったのだった。
「はい。分かったですぅ〜。明日から小学校の頃着てたような私服を着てくるですぅ〜」
渋るかと思ったが、俺に嫌われたくない唯は即決でOK。
明日から約束通り、まともな私服を着てくる事になった。
これで一安心。明日からは多少はまともな生活が送れそうだ。
しかしそう思ったのは俺の大間違い。
唯は俺の想像してた以上に筋金入りのコスプレ娘だったのだ。
約束した次の日にあいつが着てきた私服は―――黒地に白レースのスカート、黒のブ
ラウス、頭にはヘッドドレスが付いている。
俗に言う『ゴスロリ』キャラの服装だった。
これはまたかなりの男子集団に好評だった。
彰も俺の側で、「うお〜。萌え萌え〜!」と歓喜の叫び声をあげていた。
そんな彰を俺は当然の如く無視。
「何で今日もコスプレなんだよ。昨日『まともな服着てくる』って約束しただろ?」
俺はかなり呆れながら言うのだが、唯は不思議そうな顔で、
「そんな約束はしてないよ?約束したのは『小学校の頃着てたような私服』でしょ?」
それは確かにそうだが、つまりは『まともな服』のはずだ。
まさか小学校の頃からこんな人間のやつはいないはず。
すると唯は、何かの本みたいな物を俺に差し出した。
俺が唯から受け取った物。それは小さなアルバムだった。
「何これ?」
「中見れば約束を守ってるって分かるよ」
渡されたアルバムの中を見ると、幼稚園の頃からの唯がその中にいた。
パラパラとページをめくるごとに段々成長していく唯の姿。
全部家族に撮られた写真なのだろうか。
同じ大人の男女や少年少女が、何枚か唯と一緒に写っていた。家族だろうか?
こうして見てると、昔から唯は可愛かったのが分かる。
しかし、どの写真を見ても唯は私服らしき物を着ていない。
さらにはどれも似たような服を着ていた。
そう。まさしくゴスロリ服だ。
「分かった?これが私の幼稚園の頃からの私服だって」
もう呆れを通り越して笑えてきた。
「お前ってさ、昔からこんな服着てたんだな」
「そうだよ〜。昔から着てたせいかな?これが一番好きな服だね」
唯は華麗にクルリと回転した。
とりあえずこれが唯の私服ってのはよく分かった。
そして唯がこんな人間になったのは、親が原因なのもよ〜く分かった。
一体どんな親なのか、一度会って話してみたいものだな。
しばらくは約束通り、ゴスロリ・白ロリ・甘ロリ姿をランダムで着て過ごす唯。
俺にはなんともないのだが、どうやらこの姿はかなりの人気のようだ。
それに疑問を持って彰に聞いてみると、「ロリは萌えるよ〜。それに滅多に甘ロリなん
て見れないから、貴重な姿だよ。これに何も感じない智幸はおかしい!」などと断言され
てしまった。
そんな事言われても、俺にはあの服装の良さが分からないのだから仕方が無い。
しかし俺から見れば、そっちがおかしいんだけどな。
だけど、あいつらの言う「唯(本人)が可愛い」ってのはそれなりに同感出来る。
ちなみに、白ロリは白一色で統一、甘ロリはピンクや花柄を基調とした服を着たロリー
タ・ファッションらしい。
最近は唯といると、自然と色々な雑学を覚えていくような気がする。
あまり必要ない知識なんだけどな〜。
しかしその日々は長く続かなかった。
なんと2週間もしないうちに、唯はノイローゼになってしまったのだ。
原因はコスプレが出来ないために、ストレスが臨界点に到達したとの事。
俺から見れば、あれの姿も十分コスプレ姿なのだが、果たして唯の基準はどうなってい
るんだろうか・・・。
ともかくこんな事態になったために、結局は俺が折れてしまい、唯はコスプレ解禁となっ
たのだった。
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