『ほう。まだ生きていたのか。だがもうその体では満足に動けまい。すぐに止めを刺して
やる』
余裕ぶってカオスが倒れている私に近づいてくる。
『ふん。これで終わりだ』
カオスは最後の止めとばかりに魔剣の魔力を増大させ、流星と漆黒の弾を同時に放っ
てきた。
ドゴォォォォォン!
『やっと終わったか』
「まだだ!」
『何っ?!』
私があの攻撃で死んだと思い油断していた魔剣カオスに向けて、私は思いっきり神剣
を振り下ろした。
そして神剣は魔剣カオスの刀身を破壊した。
『何だと?!完全に力を引き出しているはずの俺が、不完全な力しか出せないやつに折
られるとは!』
突然魔剣を折られ驚きを隠せないカオス。
「それは違うよ、カオス。今のこの神剣は本来の力さ。だからこそ折れたんだ」
『そんなはずはない。現に貴様は死んでいないではないか!』
「私たちの変わりになってくれた人がいたんだ。そのおかげで私たちは生きている」
『バカな!変わりになっただと?!そんな事が出来るはずが―――』
「もう話はお終いだよ。無に帰れ、カオス」
そして私は神剣で最後の魔法を使った。
「神聖魔法『無』」
『おのれ!ここまで来てやられるとは!』
神剣から出た眩い光が折れたカオスを包み込む。
そして眩い光に包まれたカオスは光に溶け込むように消えて無へと帰っていった。
こうして神剣と魔剣との戦いは幕を閉じたのだった。
それから2週間が経った。
あの戦いの後私たちは負った傷のために意識を失った。
そして私が気付いた時はイース国の懐かしい自分の部屋のベットの上だった。
コンコン
「入るぞー」
私の部屋のドアが叩かれ、アスが部屋に入ってきた。
どうやら体はもう元通りの2人に分かれているらしい。
「・・・アス」
「気が付いたって聞いたからな。調子はどうだ?」
アスの体はまだ傷が癒えてないらしく私と同じように包帯であちこち巻かれていた。
部屋に入ってくると、私のベット越しに来て近くにあったイスに腰掛ける。
「起きたばっかりで体がダルイ。それに体の傷も癒えてないみたい」
「そうだな。傷の方は魔剣の魔法だったから普通よりも治りが遅いんだってよ。俺もまだ
あちこち痛いぜ。まあお互いもう少しは安静にしていないとだな」
「うん」
コンコン
また部屋のドアが叩かれた。
「はい」
今度はロイとエスペリアが部屋へ入ってきた。
ロイも体のあちこちに包帯が巻かれていた。
「リンさん、起きたんだってね。調子はどうです?」
「まだ少し安静にしてないといけないみたい」
体の包帯を指差しながら答えた。
「王様はその方がいいと喜んでいましたよ」
「え?」
「このまま大人しくしていれば頭を悩ませることはないのに、ってさっき呟いていました」
「あはは。そっか」
ロイはあの後ルイを連れて逃げてサテラから逃げていた。
しかし人一人背負って走るのは困難なわけで、かなりの傷を負わされたらしい。
もうダメかと思った時にアリシアたちによって転送されてきたエスペリアが現れ、エスペ
リアによってサテラは倒されたらしい。
「しかしリン王女とアスが神剣の持ち主だとはアリシアに聞いて驚きましたね」
エスペリアは微かな笑みを浮かべて言った。
「うん。アレは私も驚いた。でもまあこんな私たちでも役目は果たせて良かったよ」
ここで思い出したようにロイが私たちに聞いてきた。
「そうだ。あの戦いの後に2人の傷を治そうと泉の水を汲みにエスペリアと聖域に行って
みたんだけど、結界がないどころかあの2人もいなくなってたんだ。それに泉も枯れてた
んだ。アスたちはどうなってるのか知らないか?」
「それは・・・」
私は言いづらくて口を紡いだ。そんな私の変わりにアスが答える。
「あいつらはもういない。あの時の戦いで俺たちの代わりに命を落としたんだ」
そう。もう私たちの命を捨ててでも魔剣を滅ぼそうと決意した時、突如アリシアとシンシ
アが現れた。
そして言ったのだ。
「私たちがあなた方の代わりに命を神剣に捧げましょう」
「あたしたちならそれが出来るんだよ。出会ったばかりでお別れになっちゃうけど、さよな
ら。また転生して会えるといいな」
そう2人は告げると私たちの意見も聞かぬままに神剣の中へと姿を消してしまった。
そして神剣に、私に、今まで以上の力が宿り、私たちは魔剣に勝ったのだ。
「多分守護者がいなくなったために聖域の力が無くなったんだと思う」
「そうなのか」
少しの間、静寂な時が過ぎる。
「そうだ。神剣はどこにあるの?」
私はふとその事が気になった。
「それなんだけど、僕たちがリンさんたちを見つけた時にはもう無かったんだ。もしかした
ら役目を終えて、どこかに消えたのかもしれない」
「そっか・・・。そうかもしれないね」
その後も戦いの後の事を色々教えてもらった。
どうやらグラン城の消滅の事に関しては、王族はうまく逃げていたようで無事らしく、魔
族がすり替わられていた本当のザキオス王も城の別室で閉じ込められているのを発見し
れたらしく無事だという事だった。
しかし王家に死者は無くとも、一般人には多大な死者が出ていた。
特にラクーン・シティが酷かったらしい。
あの場所にいた人は全員『流星』で死んだのに加え、激しい神剣と魔剣の戦いで完全
に地形が変わってしまったらしかった。
あそこに住んでいた人にはすごく悪いことをしたと思う。
それからさらに1ヵ月後―――
イース国の謁見の間に王宮兵士が慌てて入ってきた。
「王様大変です!」
「何事じゃ?」
「リン王女が王宮のどこにもいません!」
その兵士の言葉を聞き、イース王は呆れた顔をした。
「全くあのじゃじゃ馬娘め。傷が癒えたとたんにまた家出か。仕方ない。アスに後を追わ
せて―――」
そう言いかけたイース王の言葉を遮り、兵士はさらに言葉を続けた。
「そのアスもどこにも姿がありません!」
「ほぅ。それなら心配はいらん。アスが一緒に旅しているというなら、少しの間は目を瞑っ
ててやろうではないか」
イース王は笑いながらそう言った。
イース国の国境付近に私たちはいた。
「全く。傷が癒えたらすぐにこれだもんな〜」
「もう、うるさいな。別に私はついてきてなんて頼んだわけじゃないんだから、無理につい
て来なくていいんだよ?」
もうさっきから文句ばっかり。そんな文句言うならさっさと帰れ。
そんな事を心の中で考えていると、アスが私の耳元で囁いた。
「そうもいかないだろ。お前は大事な俺のお姫様だからな」
「えっ?」
「大事な俺の」って言葉に過剰に反応してしまい顔が真っ赤になってしまった。
それじゃあ、アスも私の事を・・・・・・。
「今のって・・・その・・・ホントな―――」
「うん。これが一番それっぽい理由だな」
アスが私の声を遮って言った言葉。それは私の淡い期待を粉々に砕いた。
なんか昔もこんな事あったような気がする。
少しでもアスに期待した私がバカだった。
そして私の中で強い怒りがこみ上げて、
「この!馬鹿騎士がー!!!」
ドゴッ!
「ぐはぁぁぁ!」
私はいつもの如く、アスを思いっきり殴り飛ばしてやった。
こうして私たちはまた新しい旅に旅立つのだった。
END
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