第29話 神剣 VS 魔剣


「さすがは神剣の力、と言ったところか。これを受けて生きていたのは貴様だけだ」

「それはどうも」

 何ともないような口調で答えてはいるが、力の差があり過ぎる。

 あの凄まじい禁呪を使っていながらもあっちはまだ全然余裕そうなのだが、こっちは今

のシールドを張るだけでもかなりの力を消費した。

 あれを連続で使われるとヤバイ。もう少し時間稼ぎをしなければ。

 俺はすかさずシールドを解除し、男に向かって斬りかかる。

「この期に及んでまだ剣撃を繰り出すか。なぜ魔法を使わん」

 男は俺の剣を受けずに後ろへ飛んだ。そして再び魔剣の魔力が増大し、

「禁呪『流星』」

 またもや天から小隕石の雨が無数に降り注いでくる。

 それを再びシールドを張り防ぐ。しかしさっきほどのシールドは張れなく、シールドにヒ

ビが入ってしまった。

 だがどうにかシールドを破られる前に攻撃は止まり、俺は命拾いをした。

「つまらん。まさか神剣の魔法を使えないのではないのだろうな?」

「さあね。俺はやりたいように戦うさ」

 まだ使ってはいないが、俺は神剣の魔法を使えることは出来る。

 しかし今の力ではまだ対抗するには力が足りないのだ。

 さっき男が言ったように 融合体になるために、神剣の力の一部を使ってしまっていたの

もあるが、それが無くても今のままでは勝てない。

 だからといって対抗手段がないわけではないのだが、それにはもう少し時間がかかっ

てしまうのだ。

 それなので、それまでは節約して戦わなければならないのだが、節約なんて言ってる

場合じゃないほど魔剣の力は強かった。

 あと1回『流星』を使われたら命は無いな。

『感じる、感じるぞ!貴様もうほとんど力が残っていないな!』

 ヤバイ。あっちに力がないのがバレてる!

『さあ、ジェイドよ。止めの一撃を喰らわせろ!』

「もう終わりか。神剣も大した事無かったな」

 ジェイドと呼ばれた男は抑揚も無い声でそう言うと、再び魔剣の魔力が増大させた。そ

の魔力はさっきより以上にドンドン増大していく。

 おいおい。ここまで来てさらに魔力が上昇していくのかよ。

 これが今来たらシールドなんて軽く破られてしまう。

 時間稼ぎをするつもりだったのだが、間に合わずにこのままやられるのか!?

「禁呪『暗黒』」

 ジェイドが禁呪を発動させる。が、特に何も魔剣から放たれるような事は無かった。

 まさか失敗か?

『目の前です!すぐに避けて!』

 ゼクシアが叫ぶと同時に俺の腹辺りに小さな漆黒の球体が現れ、それが一気に増大

していき、俺は逃れることも出来ずにその漆黒の球体に飲み込まれていった。

 

 

 漆黒の球体の中は全く光の無い闇だった。

 その闇の中にいる俺は絶え間なく、まるで体が膨張と縮小を繰り返しているような激し

い痛みに襲われている。

「ぐわあぁぁぁぁ!!!」

 ゼクシアがいうには膨張・縮小は錯覚らしいのだが、まるでそうとは思えない。

 これでも神剣のシールドを張ったのだが、それでもまるでお構いなしに激痛は襲う。

 このままここにい続けると5分も持たずにショック死にでもなりそうだ。

『苦しい・・・。痛いよ・・・』

『ああ・・・。何とかここから抜け・・・出さない・・・と、ヤバイ・・・ぜ・・・』

 神剣の力が完全になっていればここから簡単に抜け出せるのだが、まだ神剣は完全

な力になっていないのだ。

『おい!まだなのか!もう・・・そろそろヤバイ・・・』

 俺が最後の気力を絞ってゼクシアに問いかけると、

『来ました!仲間たちの力が!これで思う存分戦えます!』

 ゼクシアの声と共に、溢れるような力を神剣から感じた。

「やっとか・・・。今までの借りを・・・返してやるぜ!」

 そして俺たちはこの漆黒の闇から抜け出した。

 

 

 闇から抜け出し現実世界に戻ってくると、私の意識が外に出ていた。

『アス?どうしたの?』

『・・・・・・』

 問いかけてみても返事が無い。まさか・・・さっきの闇のせいで・・・。

『大丈夫。単に気を失ってるだけです。それよりも目の前の敵を!』

 そっか。さっきのせいで死んだかと思ったが、気を失っただけなのか。

 私はホッと安心すると、すぐにジェイドに向かって神剣を構える。

 私たちの姿を見てジェイドは驚きの様子だが、それ以上に魔剣カオスが驚いていた。

『馬鹿な!なぜ生きて戻ってこれた?それに魔力が回復しているのはなぜだ?!』

『これが我ら神剣の本当の力です。あなたたち魔剣は個々として存在していますが、我

ら神剣は必要があれば他の異世界にある神剣たちから力を供給することが出来るので

す。いくらあなたが強かろうと、これで負けることはありません!』

 そうなのだ。今まで私たちが時間稼ぎをしていたのはこのためだった。

 他の神剣から供給を受けるには時間が必要だった。

 しかしゼクシア自身がその供給を受けるための準備をするには時間がかかりすぎるた

めに、アリシアたちに協力してもらいゼクシアへの魔力供給をなるべく早くしてもらうよう

に頼んでおいたのだった。

『おのれ、それでも俺は勝ってみせるぞ!』

 再び魔剣の力が増幅する。

「禁呪『流星』」

 それと同時に神剣の力も増幅させ、

「神聖魔法『光壁』」

 小隕石が地面に落ちるよりも早く、空に巨大な光の壁を張った。

 天から降り注ぐ小隕石は、すべて上空に張ったその光の壁にぶつかりすべて消滅。

 小隕石が地表に落ちることは無かった。

『ぐぬぬ。これならどうだ!』

「禁呪『暗黒』」

 再び漆黒の球体に飲み込まれそうになるが、

『それはもう無駄と証明済みのはず』

「神聖魔法『閃光』」

 神剣から放たれる閃光により、一瞬にして漆黒の球体は消え去った。

 自分で使っててなんだけど、神剣魔法って強い。これが神剣の力。

 魔剣に劣らぬ、それどころか勝るほどの力だ。

『まだだ。それなら貴様の魔力が尽きるまでやるのみだ!』

「禁呪『流星』」

『愚かな持久戦に持ち込んでもあなたに勝ち目はありません!』

「神聖魔法『光壁』」

 再び光の壁に阻まれ、小隕石は上空にて消え去った。

 

 

 ゼクシアの言うように今では完全に私がたちの力が勝っていた。すべての魔法があっ

ちより今は上回っている。

 それに持久戦で勝負しても、こっちは絶え間なく他の神剣から魔力の供給をされてい

るのだ。こっちが圧倒的に有利である。

『ぐぬぬ。魔法が効かぬなら接近戦でやれ!』

 ジェイドは何も言わずに私に迫り斬りかかる。

 私はそれを避けて反撃に出るが、それはあえなくかわされた。

「貴様、女の方か。さっきまでの剣の型ではないな」

「そうだよ。それがどうかしたの?」

「ふん。さっきの男で互角の腕だったのだ。今の貴様相手なら楽に勝ててしまう。さっき

の男を出せ」

『何を言っている!?今がチャンスだ。すぐに殺せ!』

 ジェイドの言葉にカオスが驚きの声を上げた。

 無理もない。今なら接近戦ではあっちの方が有利になっているのだから、カオスにとっ

てはここで勝負をつけないと危険なのだ。

「うるさい。俺は強いものと戦いたいのだ。それで朽ち果てるなら本望だ」

『俺に逆らうというのか?!』

「俺は俺のやりたいようにやる。口出しをするな」

『そうか。それならば―――』

 ジェイドとカオスが仲違いを始めた。これはチャンスなのか。

「神聖魔法『聖光弾』」

 私は今までの守勢から攻勢に切り替え、光の弾を無数に撃ち出す。

「・・・・・・」

 しかしジェイドの放った漆黒の弾が私の放った光の弾と衝突し、そのまま私の光の弾

をかき消して向かってくる。

「何で打ち負けたの?!」

 今までの状況から見てこっちの力のほうが上回っているはず。それなのにどうして打ち

負けたんだ?こっちは手を抜いていたつもりはないのに。

『驚いている場合ではありません。来ます!』

「神聖魔法『光壁』!」

 ゼクシアに言われすぐに守りに入り漆黒の弾を防ぐが、なんと驚くことに光壁にヒビが

入った。

 聖光弾で威力が軽減されて弱まっているはずなのに、それでもこの威力。

 さっきまでとはまるで比べ物にならない。何が起こったのだ?

『敵に集中して!さらに来ます!』

 再び漆黒の弾が絶え間なく私に向かって襲い掛かってきた。

 すぐに護りに入ろうとしたが、さっきの攻撃で光壁では防ぎきれないことは実証済み。

 ここはかわすしかないか。

「神聖魔法『空間転移』」

 普通ではかわすことも防ぐことも出来ないと判断し、異空間に逃げ込みジェイドの後方

に転移した。が、読まれていたらしい。

 転移した先にも漆黒の弾が迫ってきていたのだ。

「くっ!」

 すぐに再び空間転移するのだが、また転移した先にはまたもや漆黒の弾が迫ってきて

いた。

 どうやら完全に出現場所が読まれているらしい。

 即座にシールドを張るがそれはすぐに破られ、私は直撃を食らって宙を舞った。

 

 

「つ、強い。何で急に強くなったんだ?」

 直撃を食らったものの、シールドで威力は落ちており、神剣の護りの加護もあったので

即死になること無かった。だが、かなりのダメージを受けた上に、地面に叩きつけられそ

の衝撃で立つことが出来ない。

『人間の命を食らって人間に取り付いたのです』

「どういう事?」

『神剣も魔剣もそうなのですが、本来の力を出すと並みの人間の体では耐えれません。

それなので自分の力を存分に出せるような人間を我らは持ち主に選ぶのです。そうする

事によって100%の力を出すことが出来るのですが、ある1つの方法によってさらに力を

出すことが出来るのです。それが持ち主である人間の命を食らうこと。それによって限界

を超えさせた力を出せるのです。ああなると今の状態で勝つのは困難かもしれません』

「それならこっちも同じように―――」

 私が「同じように乗っ取ればいい」と言おうとすると、ゼクシアはそれを拒んだ。

『それはダメです!同じことをすればあなたは死にますよ?』

「でも他に方法は無いんでしょ?この世界が滅ぶくらいなら私の命くらい・・・」

 このダメージを負った体では痛みも激しく、ほとんど自分で動かすことが出来なかった。

『しかし我のすべての力を引き出すにはもう1人の持ち主の命も消えることになります』

「アスの命も?」

 私だけならまだしもアスの命も無くなる・・・。それはダメだ。せめてアスにだけでも生き

残って欲しい。でも他に手段は・・・・。

『気にするな。世界が救えるなら俺の命くらいやるぜ。お前1人じゃいかせないさ』

 アスの声が頭の中で聞こえた。

『それにこの体ではもう長いこと動けない。それならもうそうするしかない』

「そうだね。それしか手がないなら・・・」

『本当にいいんですか?命を失っても』

『『ああ、いいよ。そうしないと世界が滅ぶというなら喜んでやる!』』

 

 

 もう決めたのだ。私たちに迷いはない。
     

 

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