麗華の欲しいもの(前編)

 
 昼休み、クラスメイトの里香と一緒に昼食を取っていると、

「そういえばさ、明日ってホワイトデーじゃん。うちは先月いっぱいチョコを上げたからお返

し楽しみぃ〜。きっとブランド物で帰ってくるだろうしぃ」

 里香は嬉々として私に言った。

「何人にあげたわけ?」

「ん〜、何人だったかな? ちょっと待って。調べるから」

 すると机の横にかけてあった鞄の中から、里香は小さな手帳を取り出した。そしてペー

ジをペラペラと捲っていき、

「えーっと……あ、あった。

 真一郎、隼人、俊也、啓介、明彦、孝太……」

 次々と男の名前をあげていく。その数は軽く10人を超えている。

 なるほど。手帳を見ないと分からないわけだ。

 私は呆れ返る。

「そんなにあげて馬鹿みたい。どうせ義理なんでしょ?」

「まぁ……ね。

 でも心の篭ってない手抜き手作りチョコで男を騙し、お返しとして心とお金の篭った物を

貰う。

 バレンタインデーとホワイトデーのペアイベントは、うちにとっては馬鹿な男どもに貢が

せられるいいイベントだよぉ?」

「……そう」

 男が聞いたら殺されかねないようなセリフをさも当然のように言う。

 今のセリフ、私が女だから良かったものの、男だったら裸にひん剥いて――と、くだらな

い。そんな事はどうでもいい。

 幸い、ここは女子高のために男はいない。だから例え大声で叫んでも全く問題はない。

 そのためにこの学校は女の醜い欲望などがあちこちに漂っている。正直、醜く過ぎて反

吐が出る。何でこいつらはこんなに醜いのだろうか。

 目の前にいるこの女もそうだ。

 矢代里香。

 中学からの付き合いで、それなりに親しい仲ではある。しかし決して親友ではない。い

つも接して話している意味での『親しい』だ。

 親友とは互いに信頼し合える仲だと記憶している。だから里香は違う。

 私が信頼出来る――それ以上に、心許せるような人間はこの世にたった一人しか存在

しない。

 そもそも里香を信頼しようだなんて私は微塵も思わない。さっきの言葉がすべてを物

語っている。

 簡単に言えば、里香は悪女である。

 親しい友達という立場を利用して、私に言い寄ろうと集まってくる男を横から根こそぎ

奪ってしまう相当の男ったらし。

 普通に里香を狙ってくる男もいるが、さっきの連ねられた名前の男の大半は私から奪っ

た男なんだろう。

 訂正、奪ったというのは不適切な言葉だ。元から私のものでは無い。

 でも別にそれをどうこうするつもりは微塵もない。誘惑されてそっちに転ぶようならそれ

までの想いだっという事。

 それに私にはあいつがいるから、私の周りに群がろうとする害虫を駆除するには丁度い

い女である。ほっとけば勝手に害虫を私から引き離すのだから。

 ちなみにこの里香、何人もの男を誑かせるだけあって容姿は悪くない。が、性格は最

悪。性根が腐ってると思う。きっと本来持っているはずの性格の良さが、すべて容姿へと

いったに違いない。だからこの女はこうもまで醜い心をしているのだ。一度生まれ変わっ

きた方がきっといい。

 しかし勿論、男といる時はこんな性悪な性格はなりを潜める。

 普段は自分の事を「うち」と呼んだりするが、男の前では「わたくし」などどお嬢様言葉を

巧みに使い淑女を装う。実に裏表のある女だ。

 で、その偽りの姿に男は惹かれてしまい、里香の餌食になって貢がされるわけだ。ホン

ト、馬鹿みたい。男なんてみんな馬鹿だ。

 …………。

 でも、あいつは例外。あいつだけは馬鹿じゃない。

 ……私が馬鹿にはさせない。

「それで、麗華は何人からお返し貰える予定なの?」

「別に誰からも」

 里香は話の対象を私に移し、興味津々に聞いてきた。それに私は素っ気無く答える。

「嘘だぁ〜。麗華は彼氏がいるんでしょ?」

「いるけど……あげてないから」

 勿論それは嘘である。しっかりあいつにあげている。

 だがそれを里香にわざわざ言うつもりは無かった。

 先月にキリスト教じゃないやつらがバレンタインデーにチョコを渡すのはおかしいと言っ

た手前、結局あげましたなんて事が知られたら色々五月蝿い事になるだろう。だから言う

気はない。

 しかし私の言葉を聞いた里香は、私の言葉を否定した。

「嘘言っちゃダメだよぉ」

「何で嘘って思う」

 すると里香はニヤリと含み笑いをしながら、

「他の子からチョコを貰った罰がデコピンなんて、意外と麗華も可愛い事するよねぇ」

「なっ――!」 

 里香のセリフに一瞬唖然とした。

 誰にも話していないはずなのになぜこの女がそれを知っている。

 心の動揺に追い討ちをかけるように里香はそのまま言葉を続け、

「それに渡す時も素直に渡せないなんて――麗華純情過ぎで可愛いぞぉ」

「……なんでその事を知っている……」

「ふふふ。うちの情報網をなめたらいけないよぉ」

 手に持っていた手帳をヒラヒラと揺らす里香を見て私は理解した。

「なるほど。あの学校にいる、里香の何番目かの男から聞いたんだな」

「セーカイ。

 ただでさえ麗華はあの学校では有名なんだから。どこで誰が見ているか分からないん

だぞぉ」

 おどけた様子で言う里香。

 何だか私で遊ばれたような気がする。実に不愉快だった。

 やられ一方では気がすむはずが無い。仕返しはきっちりとする。

「それを言うならそっちも気をつけた方がいいんじゃない? さっきの会話が誰かの口か

ら外部に漏れたら――誰かも分からない男の子供を身篭る事になるような事態になるか

もしれないし」

 すばやく里香の手にあった手帳を奪い、中に書かれている内容を盗み見る。

 中にはビッシリと男の名前が書かれてあった。所々名前の上に斜線が引かれているの

は用済みになった男なのだろうか。かなりの数に斜線が引かれてあるが、それに負けず

に斜線の引いていない男の名前の数も存在している。

 一体この女は何人の男を食えば気が済むのだろうか。実に貪欲過ぎる。早く痛いしっ

ぺ返しをくらえとひたすら願ってあげたい。

 そう考えたためか私の口元が微かに三日月形へと変わる。

 するとさっきまでのおどけた様子はどこへやら。里香は一変して恐怖の表情へと変化し

ていった。

「そんな怖い事言わないでよぉ。てか、バラさないでよぉ?」

「一つ条件がある」

 里香の言葉に直接答えるような事はしなかった。だが遠回しに答えてやったつもり。

 ――条件を飲めないならバラすと。

 これは冗談なんかじゃない。本当に条件を飲まなかったら私はバラすつもりだ。それくら

い私は頭にキていた。

 あれは人に知られたくない――普段は隠している私の素の感情が溢れ出てしまった場

面だ。

 それを見られてしまった。この私には到底許せる事ではない。

 そして出した条件。

 ――里香にあの事を教えた人物を教える事。

 その人物は絶対に許さない。何かしらの報復をしてやらなくては気が済まないのだ。

 里香は私の条件をすぐに飲んですぐに男の名前を教えてくれた。

 青い顔をしながら答えていたあたり、里香にも私の本気度合いが理解出来たのだろう。

 最後に、私は麗華を裏切らない、信じてよ、と言っていたあたりからもそれが窺えた。

 とりあえず今日中にこの問題は解決させておこう。どんな報復するか放課後までに考え

ておかなければいけないな。

 私は里香に手帳を返すと、さっきの話の事を思い返した。

 そうだ。明日はホワイトデーだ。あいつは何をくれるのだろうか。いや、もしかしたらくれ

ないのかもしれない可能性もある。

 思い返してみれば恥ずかしさのあまりに「バレンタインデーのチョコなんかじゃない」と言

い張ったような記憶がある。

 今になって後悔だ。しかしもう一度やり直せたとしても、きっと私は同じ事を言うだろう。

 いや、何千何万回繰り返しても変わらないと思う。

 自分の気持ちを素直に表現出来ない自分が嫌になる。でも昔からこうだった私だ。未

来永劫変化する事はないだろう。

 しかしだ。

 いざ真剣に考えてみるとどうにも気になって、そして、プレゼントが欲しくなってくる。

 さて、どうしたものか……。
 
  

 

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あとがき

ホワイトデー短編前編です。

ツンデレ娘の内心を書いてみようと思った前編。
ですが、どうも方向性がズレていたようで毒吐き娘っぽくなりました(汗)
でも私は好きかな、このキャラ。

※後編更新時に題名変更になりました。