第10話 4人の顔合わせ(夏祭り前編)

 


 夏といえば、やっぱりお祭りは欠かせないイベントの1つだろう。

 そんなわけで、俺と彰は近くの神社でやっているお祭りに来ていた。

 

 

「結構な人がいるな」

「それはそうでしょ。花火大会を兼ねたお祭りだもん」

 俺の住んでいる場所では、花火大会の日に合わせて神社のお祭りが開催される。

 その理由は非常に現実的な話である。

 ちょうど神社の隣は河川敷になっていて、そこから花火がよく見えるために毎年この場

所に人が集まってくるのだ。

 だから神社単体でのお祭りをやるよりも、花火大会で他の場所から来るときを狙った

方が神社のお祭りも賑わってくれるらしい。

 そのためにあちらこちらに夜店へ並ぶ列が見受けられた。

「こうも人が多いと、歩くのも一苦労だ」

「こういう賑わいはいいんじゃない? いかにも『お祭り』って感じがして」

 それは分かっているのだが、これはさすがに多すぎだ。

 どうやら河川敷の方に出ている夜店の方も人がいっぱいの様子で、仕方なく神社の方

まで足を運んできているらしい。

 恐らく花火が始まれば、こっちの方は人が少なくなると思うのだが、それまではこの混

み具合が続きそうだ。

 夜店は鳥居を抜けて本殿へ向かうその道の左右に立ち並んでおり、向かい合った夜

店同士で長蛇の列が出来てしまうとお手上げ状態。

 いくら真ん中を歩こうとも、両方からの人垣で道が塞がれてしまう。

 長蛇の列にならないように夜店は配置されているはずなのにこうなっているって事は、

多分主催者側がテキトーに手を抜いたのだろう。

 全くもって迷惑である。

 必死に人込みを掻き分け、縫うようにして先へと進んでいると、彰が知り合いを見つけ

たらしい。

「あっ、怜奈ちゃんだ」

 彰は女の名前を口に出すと、いましがた通過した夜店の方へと逆戻りし始めた。

「ちょ……おい! いきなり戻るなよ!」

 俺も戻ろうとしたが、なにぶん人の流れに逆らう事は容易ではない。

 彰のように器用に流れに逆らう事が出来なかった俺は、彰を置いて先へと行く羽目に

なってしまったのだった。

 

 

  さて、どうしたものか。結局流れに流されて本殿まで来ちまったじゃんか。

 来た道を戻るのも一つの手ではあるが、その場合は先程同様に、彰を見つけたとして

も流れに逆らえずにそのまま通過しそうだ。

 このままここで待つのが得策……だと思う。知り合いにあったらしいが、それでも俺が

いない事に気付いて彰ももうすぐこっちへやってくるだろう。

 そう考えた俺は、本殿の側にあった大木に寄りかかる様にして座り、溢れ返るような人

混みの中をボーッと見ながら待つ事にした。

 しばらくボーッと待っていると、やっと人込みの中から彰の姿を見つけた。ついでに知ら

ない浴衣姿の可愛い女も一緒だった。てか、手なんかしっかり繋いでるし。

 まさか彰の彼女か? そんな話は初耳だぞ。

「あ、いたいた」

 彰も俺の姿を見つけたようで、こっちから声をかける前に近づいてきた。俺も立ち上が

り、彰の方へと向かっていく。

「お待たせ。ごめんね。ちょっと怜奈ちゃんがいたから、思わず戻っちゃったよ」

 この女の名前は怜奈というらしい。さっきは遠くから見たために分からなかったが、女と

いうよりは少女と言ったほうが合っていた。

 長く綺麗な黒髪を可愛く左右のツインテールで分け、まだ幼さの残ったような綺麗で可

愛い顔。笑顔がないのが気になるが、唯といい勝負になるのでは、と思える美少女には

違いない。 

 そうなると、どうしても聞きたくなるこの質問。

「随分可愛い子と知り合いみたいだけど、もしかしてお前のコレ?」

 小指を立てて彰に見せると、彰は動揺した。

「ち、違うよ……。まだそんなんじゃない……じゃなくて、友達だよ! そう、友達!」

 あ〜、聞いちゃマズかったか? メチャクチャ「僕は怜奈ちゃんに気があります」って気

持ちが伝わってきたんですが……。

 それに「まだ」って言うなよ、本人の前で。

 心の中で苦笑してしまった。

「彰とはどこで知り合ったの?」

 今度は浴衣の美少女――怜奈に聞いてみた。

 だが返事が返ってこない。

 なぜかチラッチラッと瞳を動かしながら彰の方を見ているだけ。何をしているだろうか?

 するとその視線に気付いた彰が、怜奈の代わりに答えてきた。

「ほら。この前、遊園地行ったでしょ? あそこで偶然知り合ったんだよ」

「遊園地でか? まさか、ナンパでもしたのか?」

「違うって。僕にそんな勇気はないから」

 彰は苦笑しながら言った。

「じゃあどうやって知り合ったんだよ」

「うん。それがね、これが面白い話で――」

「うぉ!?」

 急に俺の視界が真っ暗になった。

 夜店などの電気が停電で一斉に消えたわけではない。誰かが後ろから両手で目隠しを

したのだ。

 顔に柔らかい感触と人肌の温もりを感じる。

「だ〜れだっ!」

 直後に、後ろからイタズラっぽく言う声が聞こえた。

 考えるまでもない。こんな事しそうなやつは一人しかいないのだから。

「どこに行ってもお前に会うよな、唯」

「それはきっと運命の赤い糸で結ばれてるんだよ!」

 名前を呼ばれると唯は俺の顔から手を離し、横へと移動してすばやく腕を組んできた。

 白衣に赤い袴姿。それは神社で見ることのある衣装。

 そう。今日の唯は巫女姿だった。

 しかし、普通の巫女装束とは違って袴の長さがミニである。普通は足首まで袴がある

はずなのだが、唯の袴は膝が見えてしまうほど短い。さらに、見えている足の部分は膝

まである白い靴下――オーバーニーソックス――を履いていた。

 何だか巫女の清楚なイメージを崩している感じが否めないが、頭の後ろに付けている

大きい赤いリボンを付けている唯の姿はなかなか似合っているように思える。

 これもバイトの一環なんだろうか。

 唯は彰たちの方を向くと挨拶をしたのだが、

「彰君、こんばんわ。それと…………あれれ? 何で怜が智幸たちと一緒にいるの?」

 唯が怜奈の姿を見て驚きの声を上げた。

 どうやら唯もこの怜奈という少女と知り合いらしい。しかも『怜』と呼んでいるあたり、か

なり親しい仲のようだ。

 唯に質問された怜奈は、今度は彰の方を見るような事はせずに答える。

「……彰は……友達だから」

「ええー! いつの間に彰君と友達になったの?」

「……遊園地で」

「あ、そっか。あの時に彰君も来てたんだよね」

 唯は納得すると、少しイタズラっぽい笑みを浮かべ、

「で、何々? もしかしてナンパされたりしちゃたのかな? かな?」

「……うん。された」

 唯の冗談の言葉に真顔で答える怜奈。そしてその言葉を聞いて焦る彰。

「ちょ、ちょっと怜奈ちゃん。あれはナンパじゃなくて、単に人違いで声かけただけなん

だって……。それに今考えてみれば、結果的に逆ナンされたような気もしなくないよ?

 「一緒に回ろう」って言ったのは怜奈ちゃんだったし」

「……………………気のせい」

 怜奈は喋る時に若干間があるが、今の間は随分と長かった。

 どうやら図星……だったんだろう。

 案外、大人しそうなフリして実はやり手なのだろうか。

「あはは。でも、そっか。怜に彰君を紹介しないといけないな〜、とは思っていたんだけ

ど、もうその必要はないみたいだね」

「……っ!」

 突然怜奈が瞳を大きく見開き、今まで無かったその顔に驚きの表情が生まれた。

「え? 今のどういう意味?」

 今の言葉の意味を理解出来なかった彰は唯に聞いてみるが、

「……お姉ちゃん……もう作ってあげないよ?」

「はわわ。それは困るよぉ」

 怜奈のこの一言で、唯は答えるのを止めてしまった。

 『もう作ってあげないよ』はどういう意味なんだろうか?

 …………というか、ちょっと待て。今『お姉ちゃん』って今言ったよな? 

 じゃあ怜奈って少女は――唯の妹だったのか!

 知らず知らずのうちに蚊帳の外にいた俺にも、やっと色々な疑問が理解出来た。

 つまりは、俺と彰が遊園地にいた時に唯と怜奈が同じくいて、俺が唯を追いかけて彰と

別れた後、彰は怜奈と出会ったわけだ。

 それで多分、楽しそうに遊園地を回ったんだろうな。

 怜奈を見ていると無愛想な感じがして一緒にいて面白いのかは分からない。でも、遊

園地帰りのあの気持ち悪い彰の笑いを見れば……彰は確実に楽しめてたのだろう。

 しかし唯の妹だと分かってよく見れば、どことなく似ているところがあるよな。

 そんな事を思いながら怜奈の顔を見ていると、突然唯が俺の前に立ち視界を塞いだ。

「ダメダメ! 怜に惚れちゃダメなんだからね!」

「何だよ、いきなり」

「だって今、怜の方をジーッと見て笑ってたもん」

「変な事で嫉妬するなよ。姉妹だけあって、似ているところがあるな〜、って思ってただけ

だから」

「本当に?」

「ああ」

「じゃあその証拠として……ん〜」

 いきなり唯は目を瞑ると、口を尖らせて俺の顔へと近づけさせてきた。

 全くこいつは何を考えてるんだ。こんな人前――彰や妹の前でそんな事をするのが俺

には理解出来ない。

 ほら見てみろ。彰も怜奈もジーッと息を殺して(というか興味深々で)、静かにこっちを見

ているじゃないか。そんな場所で出来るはずがない。

「まあ……なんだ。せっかくだから4人でお祭り回ろうか」

「あぅ〜。無視した〜」

「な〜んだ。キスすると思ったのに……。ねっ、怜奈ちゃん?」

 そんな俺の行動に非難の声を上げる唯。そして不服そうに呟く彰。

 怜奈も彰に答えるように首を縦に振っていた。

「うるさいうるさい! こんな人の多い場所で出来るかってんだ!」
   

 

 

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あとがき

今回はお祭りの話です。
やっぱりお祭りは色々書く事ありますね〜。
予定としては3話に分かれたお話になりそうです。

とりあえず今回でやっと4人を絡める事が出来ました。
第3話作ったあたりからこの話を考えていたわけですが、
執筆速度が亀な私には結構時間かかっちゃいましたね。
しかし、4人が絡んだのに主人公の影薄い感じが……。

よしよし。とりあえずやっと目標を果たせた私。
残り2話あるわけですが、なぜか満足感溢れていますよ(笑)