第11話 唯との賭け勝負(夏祭り中編)

 


 てっきり4人でお祭りを回ると思ったのだが、怜奈が何かを唯に耳打ちした事により、俺

は唯と2人でお祭りを回る事になった。

 当然残った彰と怜奈も同様に2人で回る事になり、彰は満面の笑顔。だが怜奈は相変

わらずの無表情のために心中を察する事は出来ない。

 それでも怜奈が何かを言ったために決まった事なので、彰と2人になるのが嫌ではない

はずだ。

 彰たちと別れた後、怜奈はさっき何て言ったのかを聞いてみると、『彰は引き受けるか

ら、お姉ちゃんは彼氏と遊んで来い』と言っていたらしい。

 きっと彼女なりに気を利かせてくれたんだろう。変な気を利かせなくても良かったんだけ

どな。

 さっき会った時はそれほど意識はしていなかったが、さっき唯がキスしようとしてきた事

もあってだろう。

 こうして2人きりになったらこの前の事を鮮明に思い出してしまい、どうにも気まずい気

持ちになってくる。顔を見づらい。

 唯の顔を見れば、あのマシュマロのように柔らかく、暖かい温もりを持った唇の事をつ

いつい思い出してしまうのだ。

 だが、見づらいくせに無意識のうちに唯の唇に目線がいってしまうのは何でだろう。

 またしたいと思っている俺がどこかにいるのか。

 そんな俺の心中をいざ知らず、唯はこの前の事がまるで無かったかのようにごく普通

に接してくる。

 俺のようにどこか気まずい気持ちにはなっていないのだろうか。

 さっきも普通に冗談(?)でキスしようとしてきたし、やっぱり俺には唯の思考が理解出

来ないな。

 

 

 花火大会の開始時間なのか、唯と一緒に回り始めた頃には神社の境内にいる人の数

が少なくなっていた。

 さっきよりも見やすくなった夜店をブラブラと見て回っていると、「あれやろうよ」と唯が

1つの夜店を指差す。

 その指の先にあるもの。それは射的屋だった。

 専用の鉄砲にコルク栓を詰め、目の前に並べられている景品を狙って撃ち、その景品

を倒したらそれを得られる遊び夜店。

 神社のお祭りとしては、かなり定番的な夜店だ。

「あれ、欲しいな。取ってくれない?」

 唯はその並べられている商品の中の、一番難易度が高そうな20センチくらいの大きさ

をしたクマのヌイグルミが欲しいらしい。 

「あれは客引き用の商品だから倒れないって。大きすぎて無理があるだろ」

「智幸なら出来るよ。頑張ってみて!」

 そんな期待に満ちた目をされたら断るにも断れない。

 俺も興味がないわけではないし、やるだけやってみるか。

 店のおやじに金を払い、俺は三発のコルク栓を手渡された。

 それを鉄砲の銃口に詰め込み、クマに狙いを定めて引き金を引く。

 ポンという音と共にコルク弾が飛び出したが、

 一発目、ハズレ。

 二発目、目標物の横に置かれていた小さいお菓子の箱に命中。

 三発目、クマに当たったものの、僅かに前後揺れるだけで倒れる気配はなかった。

 結局狙ったクマは取れなかった。それでもお菓子の収穫があっただけマシか。

「なっ。ダメだっただろ?」

 仮に弾が当たったとしても倒れない事が分かっただろ? という意味で言ったのだが、

「うぅぅ。もう一回!」

「何回やっても無理だって。あれは大きすぎていくら当てようとも倒れない」

「きっと倒せるよ。男っていうのは好きな人のためになら普段の何倍もの力が出せる生き

物なんでしょ? だから私のために頑張って!」

 そんな事を真剣に言ってくる唯。

 周りに人がいるというのに大声で言われると俺は恥ずかしくてたまらない。

 好きだというのは、もう否定しようとは思わない。前から薄々分かっていた事だし、この

前の事でそれは確信した。

 でも正面向いてその気持ちを伝えるような勇気はないわけで、ここで素直に「分かっ

た。任せろ」と言えるはずも無い。

 俺は何も言わずに再びおやじから弾を貰って、無理だとは分かってもクマを狙う事にし

た。 

 

 

 結果としては、二回――六発――やっても倒れる事はなかった。

 目標のクマ自体は大きいために命中はしていたのだが、やはり重さや重心の関係でい

くら当てても倒れてはくれないのだ。

「もういいだろ? いくら当たっても無理だって」

 俺が諦めた口調で言うと、唯は悔しそうな顔をしてクマを見つめた。

 しばらく見つめていると何かを決意した表情になり、「それなら私がやる」と言って俺の

持っていた鉄砲を手に取る。

 単なる金の無駄だから止めろと言ったのだが、唯は倒す気満々らしく、

「そこまでいうなら賭けをしよっか?」

 そんな提案を持ちかけてきた。

「賭け?」

「うん。私がクマを倒せなかったら智幸のいう事を何でも一つ聞いて、私がもし倒せたら

智幸が何でも一ついう事を聞くの。どう?」

 唯のいう事を一つ聞くのは、何を言われるか分からないので怖い。

 でも倒れる確率は奇跡が起きない限りゼロに近いわけで、賭けとしては成り立ってると

も言えなくないな。

 滅多に唯が賭けを持ち出すなんて事はないし、たまにはこんなゲームもいいだろう。ど

うせ俺の勝ちだろうし。

「よし、のった。お前があれを倒せたら何でも一ついう事を聞いてやるよ。ただし、チャン

スは俺と同じで最高九発までだからな」

 唯は俺が賭けにのると思ってなかったようで一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間に

は両手で「やった」とガッツポーズをした。

「さて何をお願いしようか考えないと〜」

 すでに倒した後の事を考えて上機嫌の唯。

 白衣の袖を捲り上げてクマに狙いを定め、次々と撃っていく。

 が、どれも見当違いの方へ飛んでいき、クマに掠ることすらなかった。

「クマを狙わないと何発撃っても倒れないぞ」

 すこし嫌味っぽく俺が言ってみると、唯は可愛く頬を膨らませた。

「ちゃんと狙ってるもん。次こそ当てて、絶対に願いを聞いてもらうんだから!」

 唯は白衣の懐に手を突っ込むと、中から黒いつまみ帽を取り出した。

 それを被る唯。

 その姿は萌え度の高い巫女服に、ホードボイルドな黒い帽子。

 全然合ってない。唯の可愛さを加えても、この違和感は拭いきれていなかった。

 そんな事を気にせず唯は、帽子を小まめに動かしてちょうどいい位置を決めている。

「この秘密兵器で絶対に倒すんだから!」

 唯はどうやらつまみ帽のつば先で狙いをつけているようだった。

 それで俺は閃いた。どうやら某怪盗の孫が活躍するアニメに出てくる、相棒のガンマン

の真似をしているらしい。

 確かに作中では命中率はピカ一ではあるが、いくら命中しようとも威力がアレでは倒す

のは無理だろう。

 だが、その考えは大間違いだった。

 倒してしまったのだ。唯は。あのクマを。

「やったー! 見てた? 見てたよね? ちゃんと約束守ってよね!」

 隣で喜ぶ唯を横目に、俺は信じられなく唖然としていた。それは店のおやじも、周りで

見ていた観客もそうだっただろう。

 最後の唯の弾は明らかにありえなかった。

 つまみ帽を使って役になりきり、命中率が格段に上がったのはこの際気にしない。唯を

知っていればありえない事ではない。

 しかしだ、しかし。

 本来、ポンと可愛く飛ぶはずのコルク弾が、ズドンと轟音をあげて飛んでいったのはど

ういう事だ。

 ありえない。いくら役になりきっていたとしても……ありえる事ではなかった。

 店のおやじは我に返って唯が使った鉄砲を確かめるが、やっぱりポンと飛ぶだけで別

段変わったところはなかった。

「お前、あの鉄砲に何細工したんだよ? ……普通にありえない事が起きてたぞ」

 真相を知ろうと唯の耳元で聞いてみるが、

「何も細工してないよ。あえていうなら――賭けに負けたくない思いが奇跡を生んだんだ

よ!」

 唯は笑顔で嘘を言い誤魔化した。

 あれは奇跡なんかじゃない。絶対に何か仕掛けを仕組んだに違いない。

 しかし種が分からなければどうしようもないわけで、

「倒したんだから約束守ってね」

 俺は唯の言う事を一つ聞く事になってしまったのだった。
 

 

 

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あとがき

ガンマンっていうかスナイパーってカッコいいと思います。

高層ビルの屋上から一人の男が階下を見下ろす。
手にはライフルが持たれていた。
そして男の瞳に映る者は一人の青年。
「今回のターゲットはアレか」
その姿を確認すると、手に持っていたライフルを構え、青年に焦点を合わせる。
そして、ただ一発の弾丸に自分のすべてを込めて引き金を引く。
カチッ ヒュン! ドスッ!
ライフルから放たれた弾丸はターゲットの頚椎を正確に撃ち抜く。
勿論ターゲットは即死。
青年は何が起きたかも分からずに声もなく倒れた。
「悪く思うな。恨みはないがこれが俺の仕事なんだ」
スナイパーだった男はそう呟くと、どこへともなく姿を消していった。

基本無口で冷酷にただ依頼をこなす非情極まりないスナイパー。
うん。やっぱりカッコいいな。

今回の話、気付いた人はすぐに気付くんですが文字数が少ないです。
ほんの1/4ほど……。
しかし別に手を抜いたわけではなく、ネタを盛り込むと
さらに話が大きくなって前中後編で収まらなかっただけの話です。
そう思うと今回は神社のお祭りだけの話の設定にしておけば良かったと思いますね。

なので猿みたいに壁に手をついて反省でもしときます(笑)