第18話 約束(お家ネタ後編2)

 


 時間も頃合になり、俺は唯に食堂へ案内された。

 異様に黒い長テーブルに、黒い四脚の椅子。壁にはいくつもの額が飾られており、凝っ

た彫刻や装飾品も置かれている。

 テーブルの上には三叉(さんさ)に分かれた燭台(しょくだい)が一定間隔に置かれてお

り、そのすべてに蝋燭(ろうそく)の火が灯されていた。

 その光景を見ていると、自分が中世の時代へタイムスリップしたような気になってくる。

「私は母様のお手伝いに少し行ってくるから、ここで少し待っててね」

 唯が側にあった椅子を引く。

 どうやらここに座れという事のようだ。

 俺がその椅子に腰掛けると、

「もし暇だったら、部屋に飾られている写真を見ているといいよ」

 そういい残し、唯は入ってきたのとは違うドア――おそらく厨房に続くドア――へと姿を

消していった。

 

 

 部屋に飾られている写真。

 それは疑うまでもなく、壁に飾ってある額の中のものなのだろう。

 椅子からは立ち上がらず、体だけ少し捻り、自分のちょうど後ろに飾ってある額の中を

見てみる。

 確かに額の中には、引き伸ばしたと思われる大きめな写真が収められていた。

 7人の人物がそこには映っており、その中の何人かは俺の知っている顔。どうやらこれ

は家族写真らしい。

 写真の中の唯は、前に見せてもらったアルバム同様、やっぱりゴスロリ姿だった。一番

に目の中へ飛び込んでくるほど、唯の姿は目立っている。

 見て思わず苦笑してしまう。

 そして順々に写真の中の人物を見ていく。

 一番左側には、さっき会った時と同じ格好をした愛さんと、明治時代あたりの人が着て

いそうな和服を纏った男の人が寄り添いあうように映っていた。

 どうやら見た感じの歳具合からして、この男の人が唯の父親のようだ。温厚そうな顔を

しており、外見からではそれほど怖そうには見えない。

 その隣には怜奈が相変わらずの無表情で移っており、その隣には翔が怜奈と手を繋

いでいる。そしてもう片方の手は、怜奈とは逆にいる唯と手を繋いでいた。

 さらにその隣には、長髪の若い男の人が映っている。これは唯の兄らしい。

 長い髪はくせ毛にはなっておらず、ストレートにまっすぐ伸びていた。

 前髪が長いため、顔がしっかり見えないが、この人も結構な美系に見える。

 この家族は全員、『顔に関して』は文句のない人たちらしい。

 最後に一番に右には、Tシャツに少し破けたジーパンという、さっきとは全然違うラフな

格好をした佐祐理さんの姿があった。

 写真の中の佐祐理さんの肌は白い。どうやら小麦色の肌は元からではなく、本当に焼

けたために付いた肌の色のようだ。

 額縁の下の壁には小さなプラスチックの板が貼り付けられており、その板には「唯・高

校入学記念」の文字が黒く書かれている。

 去年撮った写真らしい。

 しかし、佐祐理さんのあの肌が一年であそこまで焼けたと考えると、結構すごい事だと

思う。

 日本にいても、そうは簡単に全身焼ける事は不可能だと思うんだけど。

「おやおや? もしかして佐祐理の姿に見惚れているのかな?」

「うわっ!」

 いつの間にやら俺の背後に回っていた、佐祐理さんの突然の声に俺は驚く。

 全然気配とかそんなのを感じなかった。

「別に佐祐理さんを見ていたわけじゃないですから」

 ここで肯定の言葉を返したら、また変な妄想とかが始まりそうだ。

 そう思い、きっぱりと否定したのだが、

「それならまさか……恭耶(きょうや)兄さんに見惚れていたの?! あぁ、やっぱりトミー

は危ない道に足を踏み入れていた人だったのね。そりゃあ、恭耶兄さんは佐祐理の目か

ら見てもカッコいいと思うよ? でもね、佐祐理はそういうの良くないと思うな。ううん。別

にゲイなのがいけないとか言ってるんじゃないの。どっちを好きになるかはその人次第だ

しね。ただね、それだと唯ちゃんが可哀相だと思うわけ」

 何やらまたもやおかしな方向に話が流れていく。

 誰も恭耶兄さん(?)を見ていたなんて言ってないのに、佐祐理さんは勝手にどんどん

話を盛り上がらせてしまう。

 しかも真剣にそんなことを言われているために、俺の突っ込むタイミングが無かった。

「トミーもさ、唯ちゃんに気があるんでしょ? キスした仲なんでしょ? それならきっぱりと

男色趣味を止めないと。そうだ。お姉さんが一肌脱いで協力してあげるよ。うん。それが

いいよ。お姉さんに任せとけば大丈夫。女のほうが男よりも素晴らしい事を、ゆっくりと

ベットの上で一晩中教えてあげるから。こう見えても――」

「結構ですから! それに俺はゲイではないってさっき言ったでしょ!」

 話がシリアスからエロスに変わり始めたことで、やっと俺は突っ込む事が出来た。

 きっと何も考えてなく喋っているんだろうな。その時の気持ちできっとペラペラ喋ってい

るに違いない。

 そして、佐祐理さんは何の話だったとしても、最後はこういう話に繋げるんだろうな。 

 

 

 食堂には現在、7人の人間が席について座っている。

 唯の両親に、佐祐理さん・唯・怜奈・翔。そして俺だ。

 本来ならもう一人、さっき写真に写っていた恭耶さんが帰ってくる予定だったらしいのだ

が、仕事の関係で今日は戻ってこれないようだった。

 最初はみんな改めて簡単な自己紹介――佐祐理さんは愛さんに止められるまで喋り

続けていたが――をしてから、食事を始めた。  

 何と言うか、娘が男を連れて来たという事で、父親から何かしら厳しい事を言われた

り、そうでなくても、威圧感を放ったりされるのではないのかと内心ビクビクしていたが、

全然そんな気配は無かった。

 逆に好意的に接してくれ、すごく居心地が良く感じる。

  ……ただ1人のちびっこは除くが。

 そんな穏やかな食卓の中、佐祐理さんがひたすら仕事について家族に話を聞かせてい

た。

「――とかあったわけよ。もう赤道直下近くの撮影に付き合わされるのは止めて欲しかっ

たんだけど、どうしても監督が「君のメイク技術が必要なんだ!」とか力説されちゃって

ね……。おかげでこんなに黒くなったわけ。はぁ、日焼け止めなんて気休め程度の効果

しか無かったな〜。その辺で売ってるようなものじゃなくて、もっと本格的なものを塗れば

良かったと今更ながらに後悔しているよ。それでも佐祐理が褐色の肌になって違う魅力

を醸し出した事によって、また佐祐理に惚れた子とかいて、それはそれで面白かったり

はしたけどね」

 佐祐理さんは最近まで、赤道近くにある島で仕事をしていたらしい。

 どんな仕事かというと、驚いた事に高い能力を買われているらしく「映画の撮影」との事

だった。

 それも日本映画ではなく、ハリウッド映画である。

 それを知って、少し佐祐理さんの好感度が回復したのだが、

「どう? 佐祐理と一緒にいるようになれば、色んな俳優に会えるし、佐祐理に乗り換え

たりしない?」

 などというセリフを言うために、一度上がったものが再び急降下していった。

「佐祐理姉様! 智幸は私のものだって言ってるでしょ!」

 当然の如く、そのセリフに反応して唯が怒り出し、喧嘩の開始。

 もう勝手にやってくれとばかりに無視を決め込もうと思っていたのだが、

「ところで草薙さん。式の予定はいつなのかしら?」

 という愛さんのセリフに、口に含んでいたのを思わず吹き出してしまった。

 しかもすかさず、佐祐理さんが「佐祐理の?」と聞き、翔が「唯は俺のもんだ!」と騒ぎ

出す。

 勿論唯も反応したのだが、その言葉がまたなんというか……。

「高校卒業したら、だよ」

 勝手に唯の中で話が進んでいるではないか。

 そんな約束した覚えはさらさらないのだが。

「あらまあ。それは早いこと。ねぇ、琢磨さん?」

「あと1年半後か。早いと言えば早いな」

 唯と愛さんの言葉を聞き、唯の父親――琢磨さんがゆっくりと俺の方を見ながら言っ

た。

「う〜、佐祐理の言葉を無視しないでよ」

「そうだぞー」

 隣の方では言葉を無視されてぶーたれる佐祐理さんと翔。

 しかしそんな些細な2人の事は全然気にならなかった。

 琢磨さんに鋭い視線で何かを見抜くように見据えられており、緊張の渦に巻き込まれ

ていたからだ。

 さすがにいきなり会った知らない人間と、自分の大事な娘が結婚するような会話をして

いるのだ。内心穏やかな気持ちではいられないのだろう。

 俺はこれから何を言われるのかと思い、心臓の高鳴りは限界にまで達しかけていた。

 だが、やはりこの家族は変わっている。おかしいほどに変わっている。

「あぁ、まさか今日という日が来ようとは……。つい最近までは「パパ」と読んでいたかと

思えば「父様」と呼ぶようになったのと同じで、まだ子供かと思っていればすでに大人に

なっていたんだな。嬉しいような悲しいような……。わたしはまだ君の事をよく知らない。

だが、唯が君と一緒になりたいと思い、君も同様に一緒になりたいと言うのなら…………

正直、胸が引き裂かれそうな気持ちだが…………君にうちの唯をやろうではないか。

しっかりと幸せにしてくれよ!」

 何ー! 普通はそんな事言わないでしょ……。

 こう、もっと「見ず知らずの男に、うちの可愛い唯をおいそれとやれるものではない!」

と、反対するのが普通なのでは……。

「父様、それは違うよ。智幸に幸せにしてもらうんじゃなくて、私と智幸の2人でこれから

ゆっくりと想いを培い合いながら幸せになっていくんだから」

「おお、そうだったな。「幸せは誰かから与えられるものではなく、自分で培っていくもの」

と唯は口癖のように言っていたんだったな。はっはっは」

 とことん俺の意見は無視して話が進行しているな、これは。

 そろそろしっかり言わないと危ない予感だ。

「あのですね。俺は――」

「草薙君だったかな」

「――え、あ、はい」

 琢磨さんは席を立って、俺のところまで歩いてやってくる。

「うちの唯を君に任せる。泣かせたりしたら承知しないぞ。それはしっかり守ってくれたま

え」

 そう言って肩をポンポンと叩いてきた。

「……あ、えーっと……」

 これは……もしやすでに最終段階あたりにまで来ているのでは……。

 そしてかなりヤバイ状態に立たされているのではないのだろうか。

 返事を返さない俺に、琢磨さんは念を押すようにしっかりと言ってきた。

「唯を悲しませて泣かせないと、しっかり約束してくれよ」

 断れない。完全に今更断れるような雰囲気では無かった。

 だから……だから俺は、

「…………はい。分かりました」

 

 

 そう答えることしか出来なかった。
 

 

 

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あとがき

お家ネタ編はこれで終了です。
キャラクターが多すぎて、全員を操る事出来ませんでしたね。
やっぱり今の力じゃ、同時に操るのは3人が限界っぽいです。

この壁がなかなか乗り越えられない私。
いつになったら次のステップに移行できるのか未だに謎ですな。