第20話 思い出の場所

 


  電車に乗って早二時間が経った。過去にこれほど長く電車に乗ったのは数え切れ

ないほどしかないだろう。いくら長くても一時間が上限くらいだった。自分のお金で乗る

とすれば、これが初めての長距離移動になる。

 窓の外を見てみればすでに人工物と呼べるものはほとんどなく、田んぼや山などが

そこには存在し、田舎としか表現出来ないような風景が絶えず広がっていた。

 俺の住むところも都会とは言い難く、どちらかと言えば田舎に近いと思っていたが、こ

の風景を見てしまうと田舎と呼ぶには忍びがたい。どこを基準で考えるかによるが、俺

の住むところは都会に近いのかもしれないと考えが改まってしまう風景だった。

 俺たちは正面で向き合うように座っているのだが、不思議と唯は首を窓側に向けて

静かに外の景色を眺めている。だから俺も窓の外を見ていたのだが、こうも代わり映え

のない景色では最初は珍しいと思ってもすぐに飽きてしまった。

 唯に話しかけようにも、心がどこか他にあるような唯の横顔を見ていると躊躇してしま

う。一体今日の唯はどうしたんだろうか。朝は元気があったから調子が悪いわけでは

ないはず。しかし昨日の電話も様子がおかしかった。何か悩み事でも――

「ん? どうしたの?」

 不意に唯が俺の方に顔を向けた。唯の横顔を見ていた俺と視線が交差する。

「あ、何でもない」

 別に逸らさなくてもいいのに、なぜか反射的に唯から視線を外してしまう。

 すると唯は「そう」と一言言い、また窓の外へ視線を戻した。

やはり何かがおかしい。朝のテンションと全然違う。いつもの唯と違う。

電車に乗った当初は色々話しかけてきていたのに、景色が田舎っぽくなり始めてから

急に無言で静かになってしまった。果たして目的地に何があるのだろう。

 

 

 目的地の駅に降りてみれば、これが駅なのかと思えるくらい寂れた印象を持った。ア

ナウンスはかろうじてあるものの、改札は駅員さんが切符を切っているし、そもそも

ホームと道路が低い金網フェンスだけで仕切られており、その気になれば無賃乗車と

か出来そうな場所だった。

 時刻表を見れば一時間に一本しか電車が来ないような場所だし、利用する人もほと

んどいないのだろう。というか、この辺に住む人の人数自体少ないのだろうから、設備

にお金をかけると大赤字になってしまうのが目に見えて分かる。需要と供給のバラン

スを考えると、必然的にこんな簡素な作りが限度なんだろうな。それにこんな古い駅も

田舎ならではの赴きだし、無理して新しくしないで欲しいとも思う。

 改札を出ると唯に連れられ、舗装されていない砂利道やあぜ道を歩く。

 さらに歩いて今度は山道を登ることになったのだが、慣れない坂道に俺の足は重くな

る。山登りなんて子供の頃にやったくらいだ。普段使わない筋肉を使わされるし、足場

も土のために多少なりと滑ってしまい余計に体力を消耗してしまう。

 それは唯も同じようで少し辛そうな顔をしていた。さらに唯は着ている服も履いている

靴も山登りには不適なために、もしかしたら俺よりも幾分か辛さが増しているのかもし

れない。白いゴスロリ服も土で汚れ始めているし、これは俺がおんぶをしてあげたほう

がいいような気がする。体力的にキツイことになるが。

「辛いなら俺の背中に乗るか?」

「ううん、大丈夫。もう少しで頂上に着くはずだから」

 やはりおかしい。いつもの唯なら俺に密着出来るチャンスを逃すはずがない。それな

のに断るとは本当にどうしたのだろう。

 そう思ってみたが何となく口に出すことが躊躇われ、俺はそのまま唯に連れられるが

ままに山の頂上へ向けて足を進めていった。

 

 

 頂上には緑に生い茂る一本の大木が立ちそびえていた。まるで神社にある樹齢ン百

年のご神木のように太く、俺と唯が一緒になって手を広げたとしても一周すら出来ない

太さ。圧倒されてしまう。

 唯は小走りにその大木へと近づくと、感慨深げにそっと手を添えた。その姿を見てま

た何かが脳裏をよぎる。一瞬何かの映像がダブって見えた。

 天にも昇るような大木。変わった白い服の少女。少女には不釣合いの大きな麦わら

帽子。

 何だ、この映像は。俺の……過去の記憶……なのか?

 そうすると、俺は過去ですでに唯と出会っていたというのか?

 俺が覚えのない記憶に困惑していると、大木を真下から見上げていた唯が俺に向

かって意味深な言葉を投げかけてきた。

「何か思い出してくれたかな?」

 その言葉の意味するところは、やはり過去に俺がここに来て、唯と出会っていたとい

うことなのだろう。だが、俺はここに来たような記憶はなかった。単に忘れているのかも

しれない。しかし断片的に映像が頭の中にあるのだから、そこから記憶を引き出せそう

なものだ。しかしそれが俺には出来なかった。

「もしかして俺は子供の頃、ここに来たことがあるのか?」

 唯は一瞬目を大きく見開くと、すぐに期待に満ちたような笑みを作った。

「思い出してくれたの?! そうだよ。智幸は昔、ここで私と一緒に遊んでいたんだ

よ!」

 やはりそうらしい。しかし実際にそうだと言われても、あの断片以上の記憶は引き出

すことが出来ない。必死に掴もうとするのだが、見えない何かに弾かれてしまうような

感じだ。

「悪い。ほとんど思い出せない。記憶には微かに残ってる気もするけど、そもそもこの

辺に来た記憶がないような……。いや、俺が忘れているだけかもしれないんだぞ?」

 俺の言葉を聞き、表情を曇らせてしまう唯。

 きっとここに連れてきたのは何かを思い出してもらうためだったのだろう。

 ここに連れてきさえすれば――多分、定番の昔のヤクソクとやらを俺が思い出し、二

人は年月を越えて再びこの大木の下で想いを交わしてハッピーエンドとか、そんな感じ

になったのかもしれない。そう唯は思い描いていたのかもしれない。

 しかし肝心の過去の記憶が戻らない限りはそれも叶わぬ話。

 むぅ。考えてみれば俺にとっても、これはいいきっかけになったかもしれないのに。

 自分から「付き合おう」なんて言うのはどこか恥ずかしい。かと言って、逆に唯から言

われるのを待とうにも、最近は「付き合って」の言葉が出てこなくなっていた。何か普通

に告白出来るような雰囲気にならなければ無理だと思っていた。

 だからまさに今は運命の分かれ道のようなもの。

 素直にこのまま思い出せないことを言うか、あえて嘘をついて思い出したことにする

か。

 ……良心が多少痛むが、この際お互いのためを思って後者を選ぶことにしよう。

「ああ、思い出した! 思い出したぞ! 確かにここで一緒に遊んでいたよな!」

「うん! そうだよ!」

 俺がいかにも思い出したような素振りを見せたため、唯は完全に思い出したと錯覚し

てくれたようだ。これでいい。

「それならあの時の約束も覚えているよね?」

「ああ。覚えているさ」

 実際は覚えていないけど。

 それに気付かず唯は嬉しそうに続ける。その眩しいほどの笑顔を見るのが辛い。

「子供の頃の約束だしね。ずっと離れていたし、約束をしていても叶うことがない、って

半分諦めていたけど、偶然転校した先に智幸がいて運命を感じたよ」

「だから転校早々、俺に告白なんてしてきたのか?」

 唯は首を縦に振る。そして苦笑いを作りながら「ついつい歓喜のあまりに」と言った。

 なるほど。これでやっと、今まで不思議で仕方がなかった過去の出来事に納得が

いった。そういう過去があったからこそ、あんな行動に出たのか。しかしあそこまで異常

な告白の仕方はどうかと思う。もっとシンプルに行動すれば最初の印象も悪くなかった

だろうに。

「あの時の約束を果たそうよ」

 不意に唯が言った。俺は頷く。心臓はバクバクだった。いよいよ告白だと思うと、緊張

して顔が嫌でも強張ってしまう。

 このまま何もしなければ唯から行動を起こすのだろうが、出来れば今この瞬間、この

時は俺から行動を起こしたい。勇気を出して俺は唯に想いを伝えようと、急速的に心へ

力を溜める。

 チャージが完了し、「よし、いくぞ」と覚悟を決めたところで、不覚にも唯が先に言葉を

発してしまった。

「じゃあ――はい、これ」

 そして何かを差し出される。小さな園芸用のシャベルだった。

「…………はい?」

 わけが分からず、差し出されたシャベルを見たまま硬直してしまう。理解不能。何で

俺はこれを渡されようとしているんだ?

 告白するのにこんなものは全然必要ないはず。必要なのは心に宿る想いと、それを

伝える言葉だけ。他には何もいらない。ならばこれが意味するものとは……。

 考えてみるが理解出来ない。再度思い出そうとするが思い出せない。八方塞りだっ

た。

 仕方ないので、とりあえずシャベルを受け取る。で、そのまま動かず、唯の次の行動

を見ることにした。

 唯は俺がシャベルを受け取ると、もう一つのシャベルを取り出した。そして大木の下

でしゃがみこむと、手に持つシャベルを地面に突き刺し始める。

 えーっと……一体どういうことだろう? 『約束』ってのは告白じゃなかったのか? 

 何をしているのかと困惑混じりに聞いてみると、返ってきた言葉は何と言うか……。

 

 

「何って、昔一緒に埋めたタイムカプセルを掘ってるんでしょ? 智幸も早く一緒に掘ろ

うよ!」
 

 

 

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あとがき

えらく久しぶりの更新です。
投稿小説を書き始める前くらいに前話を書いたので、
更新は実に約4ヶ月ぶりですね。
こうも毎回時間をおいて書くと、書いている人も話を忘れてしまいます。
それに力量も日々変動しているので、読む話によって全然実力が……。
上手と下手の差をもっと減らしたいです。というか、なぜ下がる(汗)

今回はテンポ速いかな、と思います。
もっとゆっくりとした流れで書きたかったですが、
書くための資料もほとんどなく、なによりも一番の理由は
時間がない
からだったり。

「くっそー。書きたいけど毎日疲れてロクにかけねー」
と、もどかしい日々の中で書いた作品です。

前話の流れでなんとなく話の展開が読める人もいたはず。
かくいう私もその展開で書いていこうかな、と思っていました。
でもなんかそれじゃあつまらないということで急遽変更。
話はわけの分からない方向へと流れ出しました(笑)

次回更新はいつになるか不明ですが、最後の展開はやっぱりアレだよね!