学校の無い、自由な日曜。
予定も無く暇していた俺は、電車に乗って出かける事にした。
いつもなら3駅離れたところに遊びに行くのだが、そこばっかり毎回行くのでいい加減飽
きていた。
それなので、それなりに手持ちがあった俺は「たまには逆方向の13駅先にある遠い場
所へ行ってみるか」と思い、そっちへ遊びに行く事にした。
電車に1時間ほど揺られ目的地に着いた。
前に来たのはいつだっけ?雰囲気がかなり変わってるな。
駅を出ると昔とは景色が変わっており、見知らぬ建物やお店が目の前にはあった。
久しぶりに来たために、ここの地理はほとんど覚えていない。
仕方なく、まずは俺はブラブラとその辺りを歩く事にした。
ブラブラ歩いていて気付いたのだが、こっちは俺がいつも行く場所よりも大きなデパート
やCDショップ、本屋があった。
とてもじゃないが全部を1日で見て回れそうにない。
自分が見たい場所にだけ足を運ぶ事にしよう。
そしてその道中で事件が起きた。
そろそろ昼頃なのでどこかのお店で食事をしようと思ったのだが、気付くと人通りの少
ない場所に迷い込んでいた。
どうやら道を違って迷子になったらしい。
少し近道しようとして裏路地に入ったのが失敗だったな。
何とか元の道に戻ろうと、デパートの看板を探して上の方を見ていた俺。
そのため自分の近くを見ていなかった俺は、道の真ん中に置かれていたバイクを蹴っ
てしまった。
しかし軽く蹴っただけなので、そのバイクが倒れたわけでも凹んだわけでも無い。
それなのでこのまま知らん振りして、さっさとこの場を去ってしまおうと思った。
でも運が悪かった。すぐ側にそのバイクの持ち主がいたのだ。
そしてそれが運悪く不良な男だったわけで、不覚にも厄介事に巻き込まれてしまった。
「俺のバイクに何しやがる!」
「すいません」
元はといえば、歩道の真ん中に置いてあったバイクが悪いと思ったが、下手に逆らうと
後が面倒なので大人しく謝っておく。
しかし「壊れた」だの「傷が付いた」だのと言って、弁償金を貰おうとしてきた。
参ったな〜。走って逃げるのが吉か。
「おいおい。どうしたんだ?」
「兄貴!このガキが俺のバイクを蹴りやがったんだよ!」
マズい。仲間がいたのか。
いかにも武闘派っぽいガタイのいい2人組がやってきた。
「いい度胸だな。ブラックウルフの俺たちに喧嘩を売るとは。お仕置きが必要だな」
指をポキポキ鳴らしながら俺に近づいてくる。
「あ、いや。喧嘩を売ったつもりはないですよ?」
ここでまともに戦っても俺に勝ち目は無い。
ズリズリと後ずさりをしながら距離を縮めないようにするが、相手から感じるプレッシャ
ーに負けて俺は急いで逃げ出した。
しかし地理に関しては、当然地元に住んでるあっちの方にある。
うまい具合に行き止まりの道に誘導されてしまった。
「へへっ、もう逃げれないぜ。観念しな」
ジリジリと距離を詰めてくる不良たち。
俺は何とかして逃げようと考えるが、前以外は行き止まりなのだ。
逃げるには不良たちを何とかするしかなかった。
ここで戦うしかないのか?
しかし考える暇なく不良たちが殴りかかってきた。
反射的に何とか避けるが、その次の蹴りは避けれずにその場に倒れこむ。
そして倒れた俺に容赦なく蹴りが襲い掛かり、無様にも袋叩きにあってしまった。
しばらく蹴りの嵐を浴びていると、
「待ちなさい!」
俺たちの上の方から誰かの声が聞こえた。
「な、何だ?」
不良たちが声のした方を一斉に見る。
俺もその方向を体を上げて見ようとしたが、塀の上に立っている誰かの姿は逆行のた
めにシルエットしか見えなかった。
しかし、その『誰か』が放った言葉によって俺の頭の中にある人物が浮かんだ。
「何だ、かんだ、と聞かれたら・・・答えてあげるが我が情け―――」
こ、このセリフは!?某アニメの・・・。
まさか『あいつ』か?!
でもこんな遠い場所にあいつがいるはずがない。
そう思ったのだが、
「愛と正義のセーラー服プリティー戦士、セーラー唯!」
そして塀の上から飛び降り、
「智幸に代わって・・・おしおきよ!」
決め言葉と決めポーズを決めた『誰か』は、誰も疑いようがなく唯だった。
しかし最初のセリフと今のセリフは物が違うのでは・・・。
唯は今日もバッチリコスプレ姿。
さっきのセリフを言うキャラ通り、金髪の長いツインテール・胸にでっかいリボンのセー
ラー服・白い手袋にブーツなどを装着していた。
いきなり現れたコスプレ姿の唯を見て、不良たちは唖然としている。
当然の反応ではあるな。
「そこのあなたたち。よくも私の智幸をイジメてくれたわね。許さないんだから!」
「ば、バカ。お前が敵うような相手じゃ―――」
男3人相手に、唯1人で戦えるわけが無い。
止めようとしたのだが、唯は颯爽と立ち向かっていく。
そして隙だらけの不良1人をすばやく蹴り飛ばした。
お。あいつ意外と強いのか?
「ぐあ!」
この事で残りの不良たちが気を取り戻す。
「このアマ!ふざけやがって!」
唯に襲い掛かる不良たち。
さっきは隙を狙って倒したのだが、今回はバッチリ正気を取り戻している。
残り2人はガタイもいいし、今度は危険だ。
すぐに助けに入ろうと思ったが、体が思うように動かない。
しかし俺の心配を他所に、唯は不良と互角にやり合っていた。
パンチをうまく側転しながら避けて・・・・・・。
突然俺の目に『ある物』が見えて、思わず唯から目を逸らして目を閉じた。
心臓がドキドキしている。
あの服で側転はヤバいだろ。
そんな事を頭の中で考えていると、
「―――ゆき。もしも〜し」
唯が倒れている俺の前にやってきているようだ。
という事は、すでに不良は唯によって倒されたらしい。
女に助けられるとはな。情けないぜ。
とりあえず起きようと思い、閉じてた目を開けると、唯が俺の頭のとこで俺を見下ろして
いた。
だが、その位置だととてもマズイものも俺の目の中に入ってしまうわけで・・・・・・俺は
再び目を閉じてしまった。
「ん?どしたの?」
その行動を不思議がる唯。
「その格好でその場所に立ってるなよ。その・・・アレが見えるだろうが。起きるから少し
離れててくれ」
「ん?この格好?何が見え―――ああ、スカートの中の事ね。大丈夫。これは見られても
いいやつだから」
全然恥ずかしがる様子も無く答える唯。
そっちが良くてもこっちは良くない。
さっきだって側転なんかするせいで、スカートが捲れて白い物が見えていた。
この姿は全く持って目の毒だ。
袋叩きにあったために、俺はまだすぐには動けなかった。
そのために唯に支えられて近くの公園で休む事にした。
そしてなぜか俺は今、ベンチで唯に膝枕をされている。
この状態で普通に前を見ると唯の顔が見えてしまうので恥ずかしい。
しかし顔を横にするわけにもいかなく、俺はとても緊張しつつ目を瞑っていた。
逆に唯は幸せそうな顔をして、俺の髪を撫でている。
それはとても気持ち良かった。
しかしこのまま無言も辛いので、気を紛らわすために唯に話しかける事にした。
「お前って強いんだな。俺なんか怖くて戦えなかったのに」
「この姿なら戦えるよ。『プリティー戦士』だしね。でも戦えないキャラの服を着てたときは
ちょっと無理かな〜」
「何だそれ?」
「私は着てる服のキャラの真似する事が出来るんだよ。だから強いキャラの服を着れ
ば、非現実的な事じゃなければほとんど真似出来るの」
「嘘っぽい」
「あはは。すぐには信じれなくても、それはいずれ分かると思うよ」
「ふ〜ん。そうなのか」
俺はしばらく膝枕をされた後、体の自由が戻ったところで、唯と一緒に電車で帰る事に
した。
しかし、やっぱり帰りの電車の中では俺たちへの視線が痛かった。
ただのセーラー服ならまだ良かったのだが、唯は金髪カツラに妙なブーツなどを履いて
いてために浮いていたのだ。
そこにいるだけで注目を浴びているのに、子供に「あ〜。セーラー○ーンだ〜」と指を指
された唯は、調子に乗って決めゼリフにポーズなんかもやってしまった。
はぁ〜。もう勘弁してくれ。
こいつといると神経が削れ過ぎて早死にしそうだぞ。
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