第6話 プール開き

 


 俺の学校は決められた指定の制服は無いので、基本的に私服で過ごしていて問題は

無い。

 しかし体育の授業では少し違っていた。

 体育の授業というのは、体を動かす事を目的とした授業であるために、動きづらい格

好をして授業を受ける事は校則で禁じられている。

 そのため、体育の時間に限っては学校指定の体育着か、授業でやるスポーツに適した

格好(テニスの場合でいえば、テニスウェアで授業を受けて良い)でやる事になるのだ。

 しかし授業でやるスポーツが自分の所属している部活でもない限りは、わざわざ専用

の服を用意する物好きなどいなく、全校生徒のほとんどが体育着で授業を受けているの

だった。

 ただ1人、お着替え大好きな物好きの唯を除いて。

 

 

 

 

 

 今日は今年初であるプール開きの日。

 例年はまだ夏に少し早いこの時期にプールへ入るのは寒くて抵抗があったが、今年は

むしろ暑いくらいで大歓迎な気分だった。

 さっそく前の授業が終わり、彰や他のクラスメイトと一緒にプールへ向かい、更衣室で

水着に着替える。

 そして着替え終わり、プールサイドへ足を運んだ。

 すると何やらみんながプールの中央辺りを見ている事に気付く。

 何となく嫌な予感がしつつも、みんなの視線の先を見てみると、プールの水中で何かが

泳いでいた。

 

 

 最初、プールで泳いでいるのは大きな魚かと思った。

 時折水面から飛び出るものが、魚の尾ひれに見えたからだ。

 もちろん大きな魚がプールで泳いでいるなんて事、普通に考えればありえない事であ

るわけで俺の見間違いだ。

 確かに今プールの中で泳いでいるのは人間である事は間違いない。

 しかし、『魚の尾ひれが見えた』。これは見間違いなんかではなかった。  

 泳いでる何者かの足には、確実に魚の尾ひれが付いているのだ。

「人魚かよ。あいつ何考えてるんだか」

 思わずそんな言葉が口から零れる。

 すると、今まで気持ち良さそうに水の中を泳いでいた何者かが、突然俺のいる方へ向

かって進路を変更してきた。

 俺はもうそれが誰であるのか、顔を見ずとも分かっていた。もちろん俺だけではなくて、

みんな分かっているはずだ。

 そう。こんな事をするのは1人しかいないのだから。

「ぷはっ!」

 水際に到着すると唯は顔だけを水面から出した。

 てっきり人魚の格好は尾ひれだけかと思いきや、耳にも鱗で出来たような尖った耳を

付けていた。

 相変わらず手が込んでいるのもだ。

 そして近づいてきた俺に向かって、

「今日は人魚になってみました〜。どうかな?似合うかな?」

 期待に満ちたような目で聞いてくる。

 多分褒められたいんだろうと分かりつつ、俺は褒める事はしなかった。

「授業に合った格好してこい。そんな格好じゃ先生に怒られるぞ」

「今日のはちょっと頑張ってみたんだよ〜。特にこの尾ひれ。今回は耐水性にしないとい

けないし、鱗とかの複雑なところもあるから作るの苦労したよ〜。でもね、智幸に見てもら

えると思ったらそんなの全然苦じゃなかったんだから♪」

 そして器用に尾ひれを水面でパチパチと遊ばせる。

「お前人の話聞―――って、えっ?!」

 人の言う事を聞き流した唯に文句を言おうとしたが、その途中で驚きの言葉になってし

まった。

 唯がさらに胸の辺りまで水面上に体を出してきたからだ。

 胸が思ってたよりも大きいって部分もあったが、それよりも胸の部分には2つの貝殻で

出来たビキニ(?)を付けていたのだ。

 いくら何でもこれは露出し過ぎだろ。

 これだと角度によっては見える可能性が・・・。

 悲しいかな、男の性。

 無意識のうちに胸に視線は置いたまま、角度を変えようと体を移動させてしまう俺がい

た。

 すぐに俺が胸を凝視している事に気付く唯だったが、特に恥ずかしがる様子も無く、

「ん?貝殻ビキニが気に入ったの?」
 
 と、見当違いな事を言っていた。

 こんな危険な格好をしていて羞恥心を感じないなんて本当に変わったやつだ。

 とりあえず今の行動の本当の意味が悟られていないなら幸いだ。

 何か話題を振って今の事は忘れてもらう事にしよう。

 そしてさっき無視された事をもう一度言おうとした矢先、

「智幸は唯ちゃんの胸を見てるんだよ」

 彰が後ろから余計な一言を放った。

「えっ?私の・・・胸?」

「そうそう。その際どい貝殻ビキ―――わっ!」

バシャン!

 余計な事は言うな、って気持ちを込めて、想いっきり彰の腕を引っ張りプールの中へ落

とした。

 しかしもう遅かった。さっきの俺の行動の意味を唯に知られてしまったようだ。
 
 その証拠に、

「もう、智幸ったら♪胸を見たなら見たいって言えば特別に見せるのに〜♪」

 すごく嬉しそうな声でとんでもない事を言い放つ。

 そして少しモジモジしながら、

「でもね、今は無理かな。だってここには他にも人いるし、それにニップレス付けてるから

これ取っても―――」

「「「えっ!?」」」

 唯を見ていた誰もがこの瞬間驚きの声を上げた。

 なんと唯は喋りながら突然貝殻ビキニを外そうと、後ろで結んであるビキニの紐を解こ

うとしたのだ。  

「ちょ、ま、待て!それは外すな!」

 ここでそんな事は完全に非常識だろ?何考えてんだ、こいつは。

 俺はすかさず唯の行動を止めるように叫んだ。

 そして間一髪のところで、唯は紐を解こうしていた手を前に戻した。

 はぁ〜。こいつとは絶対に価値観が合いそうにないな。

 

 

 俺の心が落ち着いたところで唯に水から出るように言うと、

「じゃあプールから出して」

 唯は両手を俺に差し出した。

「自分で出ろって」

「自分ではここから出れないの〜。今は足が使えないんだからさ〜」

「じゃあその尾を外して出て来いよ」

「それは無理な相談だよ。だってさ、人魚は尾ひれが乾かないと人間の足になれないん

だから。だから、智幸がここから出して。ねっ♪」

「何を馬鹿な事を。大体―――はぁ〜。まあいいや。じゃあ引っ張り上げるぞ」

 何を言っても無駄だろうと諦め、俺は唯の言う通りに大人しく引っ張り上げる事にした。

 そして唯の手を握った瞬間、

「えいっ♪」

「おわっ!」

 手を引くはずの俺が逆に引かれてしまい、そのままプールへ落下させられた。

バシャン!

「何すんだよ!」

「えへへ。何となくやりたくなっちゃった♪ほら、智幸の手を握るのなんて滅多にない機会

だし嬉しくて」

 俺が怒っているにも関わらず、全然悪気が無かったような笑顔で唯は答える。

 何気に俺はいいように遊ばれているのだろうか。

「いい加減に迷惑な事は止めてくれ」

 毎回毎回振り回されるのは勘弁して欲しい。

 そんな想いから愚痴を言おうとしたのだが、

「ほほぅ。それはこっちのセリフだな。草薙、それに美坂」

 上の方からクラスメイトではない声が聞こえた。

 声の主を見上げて見ると、そこには体育教師の姿が。

「授業は始まってる時間にも関わらず、何を勝手にプールでイチャイチャしているんだ?

それに美坂。その不埒な格好は何だ。汚らわしい。罰としてお前ら2人ともプールサイドで

正座だ!」

 あっちゃ〜。やっちまったよ。授業開始ベル鳴ったの全然気付かなかった。

 全くこいつと一緒にいるとロクな事が起きないぜ。

 

 

 体育教師に大目玉を食らい、俺と唯はプールサイドで正座をしているのだが、唯はこの

状況をすごく幸せそうな顔で過ごしていた。

 理由は簡単。俺と並んで座っている現状が嬉しいらしいのだ。

 俺と一緒にいて嬉しい、って言われるのは純粋に考えれば、少し嬉しかった。

 そうなのだが、唯のせいで俺が巻き添え食らったのに、唯だけそんな幸せそうな顔をさ

れていられると何だか納得いかない気持ちになった。

 だから俺は唯から距離を置く事を思いつく。

 正座は崩さずに手だけで移動。そうして徐々に離れていこうとした。

 しかしいくら距離を置こうとしても、唯は俺と同じように動いて後を付いてくる。

 逃げては追われ、また逃げてはまた追われ。

 すでに鬼ごっこ状態になっていた。

 そんな事をしているうちに気付くと、俺たちはプール周りを1周してしまっていた。

 さすがにこんな事をしていれば、体育教師の目にも入るわけで、

「お前ら、俺の授業を何だと思ってるんだ!遊んでるんじゃない!2人とも授業終わるま

でずっと正座してろ!」

 こうして俺は唯のせいで授業が終わるまで正座をさせられるはめになったのだった。
 

 

 

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あとがき

『学校』で夏をイメージさせるものと考えて、一番に出てきたのがプールでした。
そして『泳ぐ』って事でイメージされたキャラは人魚になりました。

しかしここだけの話、本来なら人魚は海での話で出そうと思っていました。
でも海の話を書くのか不明だったので、今回のプールの話で人魚を出してみたのです。

ちなみに今回はちょっと苦労しました。
私の人魚のイメージはエロイ格好って先入観があるので、
普通に書いたらかなりエッチな印象を受けるような話になっていました。
そのためになるべく余計なとこは削ったんですよ。
胸の谷間や、男子集団が唯の格好を見て前かがみになった、などを(笑)

すると今度は文字数が明らかに足りなくなってしまったんですよ(汗)

最後の鬼ごっこ(?)は予定外の急遽入れた文章だったりします。