第1章 出会い・告白 第3話


 こ、告白されちゃったよ〜。うわぁ〜、どうしよ。

 私は初めての告白に少し戸惑っていた。

 チラッと男子の方を見ると私をずっと見ている。きっと私の返事を待っているんだろう。
 
 うーん。初めて会っていきなり殴り倒したのに告白してくれるって事は私の事をそれだ

け好きって事なんだろう。

 だけどはっきり言って私はこの男子の事を何も知らない。それこそ名前すらもだ。

 外見だけで見れば顔ははっきり言って悪くない。まあカッコいいとは言うより可愛いっ

てところだけど。その顔に眼鏡かけてるせいかもしれないけど、すごく真面目そうに見

える。それに温厚で優しそうだ。

 それにいかにも文化系で、すごくひ弱そうな感じにも見えた。

 制服はしっかり着ていて、他の人はズボンからシャツを出しているのにこの男子は出

してないし、髪も真っ黒。総合的に見れば優等生に見える。

 あっ、でも服をしっかり着ているのは告白するからちゃんとしたのかも。

 さあ、どうしようかな。付き合うべきか、断るべきか。

 私は普段使わない頭をフル回転させて考える。

 そしてついに決断を下した。

「告白してくれるのは嬉しいんだけど・・・私さ、君の事全然知らないんだよ。その・・・名

前すらもね」

 その言葉を聞き、男子は焦ったような顔をした。

「え・・・あっ!手紙に書くの忘れてた・・・」

「だから返事の前に君の名前を教えて」

「ぼ、僕の名前は京・・・相沢京です」

「相沢・・・京」

 その名前って前にどこかで聞いたことあるような。ただの気のせいかな?

「そっか。京君って言うんだね」

 私に名前を呼ばれると何故か京君は顔を赤くしていた。

「あのさ、告白してくれるのは嬉しいよ。でもさっき言ったとおり、京君の事何も知らない

んだよ。だから付き合うことは・・・その・・・出来ない。ゴメンね」

 そして私は京君に頭を下げて謝った。 

 私の出した決断。それは『断る』だった。

 人間は外見だけで判断できるものじゃないと思う。やっぱり人間中身が1番大事。だ

から私はよく知らない人とは付き合うべきじゃないと思ったのだ。

「そんな頭を下げたりしないで下さい。いきなり告白した僕がいけないんですから」

 そして頭を上げ京君を見ると、京君はすごく悲しそうな顔をしていた。

 好きな人に告白してフラれたらそんな顔にもなるよね。

 ただそんな顔にさせたのが私自身だと思うと良心の呵責というものが・・・。

 何かすごく悪い事をした気分だった。告白されて断るとこんな気持ちになるのものな

のだろうか。

 そんな顔の京君を見ていられなくなり、

「でもさ、別に京君の事嫌いってわけじゃないよ。だからまずは彼氏候補として友達か

ら始めよ。それで私が京君の事を段々知っていって、それで私も京君の事好きになった

ら付き合おうよ」

 その言葉を聞き、京君は一気に笑顔になった。

「ありがとうございます。明日香さん」

 そして私と京君はある意味、友達以上恋人未満の関係になった。

 

 

 

 

 

リンリン ピピピピ ドンドン ピーポーピーポー・・・・・・

 私は目覚ましの音で目を覚ました。昨日の告白の為になかなか寝付けなかったので

まだ眠くてたまらない。そうはいうものの私はいつも眠いけど。

 私はうるさい目覚ましの音をすぐに止め、また眠ろうとした。すると―――

ドタドタドタドタ

 慌しく階段を駆け上がる音が聞こえてきた。そして和哉がドアの前で大声を上げる。

「姉ちゃん!おい!姉ちゃん、起きろよ!京って男が姉ちゃん迎えに来てるぞ!」

「・・・えっ!京・・・君?!」

 その言葉を聞き、私は慌てて布団から起きた。

「な、何で京君が家に来るの?てか何で家を知ってるのさ」

「そんなの俺が知るかよ。とにかく早く起きて来いよ」

 そう言って和哉は1階に戻っていった。

 本当に京君来たのかな?もしかして和哉の新手の起こし方とかじゃ・・・って昨日私が

知り合った京君を和哉が知ってるわけないしな〜。 

 何かよく分からないけど、とにかく仕方ないから起きよう。

 私はベットから出て急いで制服に着替える。

 そして1階に降りて洗面所で顔を洗いリビングに行くと、そこにはソファーに座り色々

話している和哉と・・・京君がいた。

「あ、おはようございます」

 京君は私に気付くと挨拶をしてきた。

「うん。おはよー。てか、1つ質問。何で私の家知ってたの?」

「それは昨日の夜、僕の家に幸子さんから電話があったんですよ」

「幸子から?」

「はい。それで「明日香さんと親密な仲になりたいなら毎朝お寝坊さんの家に迎えに行

くといいですよ」って言われてここの住所を教えてもらったんですよ」

「そんな電話が・・・」

「はい。突然の電話で僕も驚きましたよ」

 私も驚きだよ。私が京君に告られる前に帰ったはずなのに何で『友達から』って言った

ことを知っているんだろうか。しかも京君の家の電話番号まで。

 お金持ちだけあってその情報網は侮れないのかもしれないな。

「ここで話してないで早くご飯食べてくれよ。話なら行きながらでも出来るだろ?」

「あ、うん。分かった」

 和哉に急かされテーブルに座ると、私は並べられていた朝ご飯を食べる。

「良かったら京さんもご飯どうです?まだおかず余ってますし」

「いえ、僕はもう食べてきたから」

 私が食べている間2人は始終話をしていた。まあ正確には和哉が京君を質問攻めに

しているようだ。色々当たり障りないような事を聞いてはいるが実際には私との関係を

知りたいんだろうな。

 

 

「じゃあ行ってくるね〜」

「お邪魔しました〜」

 朝ご飯を食べ終わり私たちは家を出て学校に向かう。

 起きた時間が早かったためにのんびり歩いても余裕で登校出来る時間だ。

 いつもならこんな早い時間に起きたりすると眠くて堪らないのだが今日は違っていた。

 何故なら隣に京君がいるからだ。私に好意を持ってくれている人だからってのもある

けど、何より男子と2人きりで登校しているのだ。これは人から見れば恋人みたいに見

えるだろうし、はっきり言って恥ずかしくて眠くなんてなってる暇が無い。

 そうか。幸子はこれが狙いだったのかも。

 しかし何も話さないでただ歩いていると気まずいし、何か話さないと。

「そういえばさ、よく私の家に迎えに来てくれたね。何か昨日会ったばかりでこういうのも

悪いかもしれないけど、京君って『行きたくても恥ずかしくて行けない』って内気な性格

かと思ってたよ」

「いや、恥ずかしいけど実際にそうですよ。昨日幸子さんから電話もらった後、すごく行く

べきか止めるべきか悩みましたから」

「でも考えた末にやっぱり行こうと思ってくれたわけだ」

 その事に少し嬉しく思ったのだが、

「それが違うんです。結局考えた末に、やっぱり知り合って1日で家に迎えに行くのはマ

ズいかと思っていつも通り1人で行こうとしたんですよ」

「じゃあ何で来たの?」

「家を出たら外にメイド服来た年上の女の人が立っていたんですよ。えーっと、名前は月

詠さんって言ってたかな?その人に「明日香様の家に迎えに行くんでしょうか?」って聞

かれたから「恥ずかしいから行かない」って答えたんです。そしたらいきなりロープでグ

ルグル巻きにされて車に乗せられて―――」

「で、私の家の前まで運ばれてきたんだね?」

「はい。それでロープを解いてもらって、「ここまで来たらあとは頑張ってくださいね」って

言葉を残して月詠さんは消えていったんですよ。で、いざドアの前に立つとやっぱり勇気

が無くてドアベル押せなかったんですよね。だから明日香さんとかに見つからないように

ドアの前から去ろうとしたら、「ドアベルの押し方知らないんですか?こうやって押すんで

すよ」って、いつの間に戻ってきたのか月詠さんがドアベル押しちゃって・・・今に至るわ

けですよ」

「あはは。そうなんだ」

 京君から成り行きを聞いていると、

「はぁ〜。せっかくあっちゃんへのポイントを稼がせてあげようとしたのに・・・相沢君、そ

れを正直に言っては意味ないじゃないですか。ちゃんと電話であれほどアドバイスして

あげたと言うのに」

 後ろから呆れたような声が突然聞こえてきたので、ビックリして思わず私は声をあげて

しまった。

「うわっ!」

 すると後ろから幸子が現れた。

「朝から心臓に悪いことしないでよ。ただでさえもうドキドキしてんだからさ〜」

「あら、それはごめんなさいね」

 幸子はクスクス笑いながら謝ってくる。きっとホントは悪いと思っていないのだろう。

「それより何でここに幸子がいるのさ?」

「私も学生ですわよ。学校に行くのは当たり前でしょう?」

 さも当然のように答える幸子。

「いや、そうじゃなくて、何でいつもは車で学校まで行ってるのに今日は歩きなのかって

事だよ。それに幸子の家って私の家と方向違うのに何でこの道歩いてるのさ?」

「・・・・・・」

 無言の後、私から京君に視線を変えて、

「ダメですわ、相沢君。正直に言っては」

「すいません。やっぱり明日香さんに嘘はつけないですから」

「おーい、私の質問は無視かな〜?」

「ふふふ。冗談ですわ。何でと聞かれれば2人の事が気になったと言う事でしょうか」

「だからって無理矢理京君を家に持ってこなくても・・・」

 私がそう言うと幸子は私の耳元に口を近づけてきて小声で、

「あら?迷惑でしたか?てっきり好きと思ってくれてる人がわざわざ迎えに来てくれるの

は喜んでくれるとばかり思ったんですけど」

 それに対して私も京君には聞こえないように小声で、

「それはまあ嬉しいんだけど・・・。でもいきなり来られても共通の話題が何か分からな

いから、この登校の時間が気まずい」

「いつものあっちゃんらしくないセリフですね。いつもなら共通の話題がないなら自分か

ら話して探していくというのに」

「さすがに男子相手・・・と言うか、自分に好意持ってくれてる人だと話は別」

「あらあら、女の子らしい事言ってますね〜」

「私、女だし」

「そこを素で返さないで欲しいですわ」

「あの?何を話してるんですか?」

 私たちがヒソヒソ話をしてると京君が怪訝そうな顔で聞いてきた。

 それなので私たちは近づけていた顔を離していつも通りの距離をとる。

「何でもないよ、あはは」

「そうですわ。お気になさらないで下さいな」

「う、うん」

 そして私たちは学校に着くまでの間、幸子のフォローなどもあり気まずい感じもなく、

他愛無い話をしながら登校していった。

 

 

 京君は私とは違うクラスであるので私の教室前で別れ、私は自分の教室へと入って

いった。そして席に着くと1人の男子が私の元へやってきた。

「おい、明日香。一緒に登校してきた男って誰だよ?」

 この男子の名前は神楽陽一(かぐらよういち)。私と同じクラスメイトであり、昔からの

幼馴染である。

 昔はよく一緒に遊んでいたが、小学校の中学年くらいからは遊ぶ事はなくなった。そ

れでもよく学校では話をしているので、私の中ではかなり仲のいい友達である。

 昔は鼻垂れ坊主だったが、中学になる頃には女子にも人気のあるナイスガイになって

いた。今までに何人かの女子に告白されてるらしいのだが、常に断っているらしい。

 フラれた子に聞いてみると、他に好きな女がいるらしい。でもそれが誰かは幼馴染の

私も知らない。

「ん?私の高校に入ってからの新しいお友達」

 正確にはやや違うがそう答えると、

「それにしては随分仲良さそうにしてたよな〜。俺とだって中学に入ってからは一緒に登校していなかった

のに


 陽一はどこか羨ましい(?)ような顔をして言ってきた。でも最後の方はちょっと声が小

さくて聞こえなかった。

「まあね。ちょっと事情があって幸子が無理矢理連れてきたの」

「ふーん。で、事情って?」

 いつもなら流すのだが珍しく陽一は突っ込んで聞いてきた。

「それは秘密だよ」

 てか、何だか恥ずかしくて言えない。

「いいじゃんか。幼馴染の仲だろ?」

「秘密ったら秘密なの。乙女の秘密を暴こうなんて失礼だぞ!」

「お前のどこが乙女なんだよ」

 陽一がポツリと言った言葉を私は聞き逃さなかった。

「なにおー」

 私はちょうど持ってた教科書で陽一の頭を叩いた。

「いってー。こういう事するから乙女に思えないんだよ!」

「うっ!言い返せない・・・」

「そんなんじゃいつまで経っても彼氏なんて出来ねぇぞ」

「そんな事ないもん!私だってその気になれば彼氏、すぐに出来るもん」

 そう言いながら私の頭の中に浮かんだのは京君だった。

 

 

 午前の授業が終わり、昼休みになった。

 私と燐華のいるクラスは少し早く授業が終わったので、先に屋上へ上がって幸子を待

つことにした。

 しかしチャイムが鳴ったにも関らず、今日の幸子はなかなか屋上に上がってこない。

「幸子遅いね〜。授業長引いてるのかな?」

「違うよ。今日はき―――っと危ない、危ない」

 そう言うと仕切り直しをしたのか咳払いを1つして、

「さあ?どうなんだろ?」

「ちょっと待て。どうなんだろ?って言ってるけど、その前に何か言おうとしてたでしょ!」

「・・・・・・えっ?何の事?」

 燐華はしらを切ろうとしているが、今の間もすごく怪しいし。絶対何か隠してるな。

 私が言及を始めようとすると、私たちの方へ幸子がやっとやって来た。

「お待たせしました。少し手こずりまして」

「手こずる?」

 何の事かと思ったがその理由がすぐに分かった。

 何故ならば、幸子の後ろには弁当箱を持つ京君が立っていたのだから。

 はぁ。どうやらこの2人はどうしても私と京君をくっ付けたいらしい。

 何で周りがそんなに積極的に行動するんだか。

 

 

 そんなわけで燐華と幸子の変な後押し(?)があり、この日からいつもの仲良し3人組

み(?)ではなく、仲良し4人組みになったのだった。
 

 

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