京君に告白されてから1ヶ月が経とうとしていた。
最初の頃は恥ずかしがって京君が自分の意思で私のところへ来ることはなかった。
そのために何かと幸子たちが京君を無理矢理連れてきての4人組だったが、最近は
京君も私たちといることに慣れてきたのか少しずつながら自分から私たちのところへ来
るようになってきた。
そして毎日会って話してるおかげで、私はだいぶ京君の事を知ることが出来てきた。
一緒にいて気付いたことだが、京君はかなり正直者らしい。嘘をつこうにもすぐに顔に
出てしまうし、隠し事も出来ない性格だった。
それに毎日色々話をしていてたまに京君を困らせるような質問をすると、京君はすぐ
に困った顔をするんだけど、その時の顔がすごく可愛かった。
可愛い子犬みたいな感じに見えて、私の母性本能をくすぐってるみたいだ。
それでも今のところはやっぱり付き合うとかって気持ちにはなれないけど・・・。
しかしそんな私の気持ちが京君に傾くこととなった事件が起きたのだった。
高校に入っての初の中間テストが終わり、私は溜まったストレスを発散すべく、日曜の
よく晴れた休みの日に気分転換で燐華と一緒に街に繰り出し、デパートなどを回り買い
物などを楽しんでいた。
いや、正確には買い物を楽しんでたのは燐華の方だ。
私はあまり服とかに興味がなく、どちらかと言えばデパートの横にある大きなゲームセ
ンターで私は楽しむ派だった。
いくら仲のいい親友とは言ってもやはり違う人間。ストレスの発散方法は違っているの
だ。
そんなわけで最初は燐華と一緒に服や靴・アクセなどを見ていたが、途中で別れて私
はゲーセンで遊んでいた。
「うっ、この!」
カチッ、カチッ
「よしっ!ステージ1クリアだ」
私はシューティングゲームをやっていた。
これが私の中では一番得意なジャンルであり、スコアは最後までクリア出来れば必ず
5位以内に入っている。
そんなわけでいつもの調子でやっていたのだが、高校入ってからゲーセンに来ていな
かったので腕が鈍っていた。いつもなら軽く最後のステージ5までいけるのに、今日は
何回やってもステージ4でゲームオーバーになってしまう。
「あぅ。ショックだー」
「久しぶりだもん。仕方ないって」
さっきから見ていたのか、私の嘆きに燐華が答えてきた。
「あれ?もう見終わったの?随分早いけど」
「うん。大体見て回って欲しいものは買ってきたよ」
しかしそういう燐華の手には買ったらしき荷物はない。
私の視線で考えていることが分かったのか、
「荷物はデパートのロッカーに入れてあるの。私も久しぶりにここで遊びたくなってね」
「おお、珍しいね。いつもは見てるだけなのに」
「うん。昔みたいに明日香と少し『アレ』を勝負してみたくなったんだよ」
「いいよー。私は燐華が止めてからもシューティングと一緒に、密かに『アレ』も練習して
たから今度は負けないよ〜」
実は燐華も中学生の頃は私と一緒にゲーセンでちょくちょく遊んでいた。
しかし3年になってからは受験生だからと言って、ゲーセンに来てもほとんど見ている
だけのようになってしまったのでここ最近は1人で遊んでいたのだが。
しかし燐華が止めるまで必ずゲーセンに来てやってたのが、お互いの得意なゲームで
の勝負だった。
私の得意なシューティングではもちろんの事、他の格闘やUFOキャチャーの勝負でも
運が悪くない限り燐華に負けたことがない。ただ1つを除いては。
それの名は『Dance Dance Revolution』。
簡単に言えば、BGMのリズムに合わせて目の前の画面に現れる矢印オブジェが画
面の上のステップゾーンで同じ方向オブジェに重なったとき、それに合わせ自分が立っ
ているステージのフットスイッチパネルを踏むというゲームである。
これだけは昔から何回やっても燐華には勝てなかった。
燐華が言うにはリズム感がないと無理だとか。
そんなわけで私は打倒燐華で日々練習をしてきたのだが、今日はお互い久しぶりの
ゲーセンなのでまあ条件は互角だと思う。
「あれれ?明日香全然成長してないんじゃない?」
「そ、そんなバカな・・・」
勝負したのだが結果は見事に敗北。
いや、私は確実に成長してたよ。だって昔はBAD連発だったのが、今ではGOODとか
PERFECTがよく出るようになってるんだから。少なくとも昔の燐華には追いついてるは
ずだった。
それなのにだ。燐華は1年以上もブランクがあるにも関らず、PERFECTの連続が続い
ていた。はっきり言って化け物ですよ、あんた。何で久しぶりでそこまで恐ろしいほどう
まくなってるんですか?
「・・・上手すぎる」
「ん?」
「燐華上手すぎるよ。最近これやってたでしょ?」
「ホントにやってないよ。私明日香としかゲームセンター来たことないもの」
燐華は勝利の笑みを浮かべながら、
「やっぱりリズム感の問題なんだよ。まだまだ明日香にはそれがないんじゃないの?」
「悔しい。今まで頑張って練習してたのに差が縮まるどころか開いてたなんて悔しい!」
私は意識していたわけではないのだが、床に膝をついて嘆く。
そんな私の姿は人から見ればオーバーアクションに見えたかもしれない。
燐華は人の目を気にしてか、
「そんな落ち込まないでよ、明日香〜。ほら、他のゲームなら私に勝てるんだしさ」
私を立たせてシューティングゲームの方へと連れて行く。
「これは負けなんだから!」
そして私は気合を込めて銃を握った。
ゲーセンで思いっきりストレスを発散した私たちは、日が暮れるまでには時間がある
けどはしゃぎ疲れたためにそろそろ帰ることにした。
「じゃあちょっと待ってて。荷物持ってくるから」
「うん。早くしてね〜」
そして私は燐華が預けてある荷物を取って戻ってくるのを待っているのだが、なかな
か燐華は戻ってこなかった。
「おかしいな〜。もう随分待ってるのに来ない・・・」
それなのでもしやと思い、私もロッカーの方に行ってみると、案の定燐華をナンパして
いる不良たちがいた。
「彼女可愛いね〜。どう?今から一緒にどっか遊び行かない?」
「すいません。もう家に帰らないといけないので」
「そんな事言わないでどっか行こうよ。まだ夜まで時間あるじゃん」
そう言いながら燐華の周りを囲んでいく。
「いえ、もう帰らないと。それに友達も待たせてあるんで」
「いいじゃん。いいじゃん。そんな事言わないで俺たちと遊ぼうぜ」
何とか断ろうとしている燐華だが、不良たちは諦めない。
「何ならその友達も一緒にでいいからさ〜」
そう言って不良が燐華の肩に腕を回す。
それを見て私は当然のごとく、
「ちょっと私の親友に何してるのさ!」
私はすぐに燐華のいるところへ行き、燐華をナンパしている不良に文句を言う。
「あん?」
いきなり声をかけられ不良たちは一斉にこっちを見る。
うっ、一斉に見られると怖い・・・。
でもここで弱気になってはいけないと思い、そのままさらに言葉を続ける。
「嫌がってるでしょ!さっさとその汚い手を離して諦めてどっか行きなさいよ!」
「何だと?いきなりそんな事言われて「はい。そうですか」って引き下がれるかよ」
「いいからその手を離せー!」
私は燐華と不良を引き剥がそうとしたが、
ドン
「うわっ!」
私は不良に突き飛ばせれて地面に尻餅をつかされた。
「ちょっと止めてください。私の親友に手を出さないで!」
「いいよー。ただ俺たちと遊んでくれるならね」
「そ、それは・・・」
「さあ行こうぜー」
不良たちは無理矢理燐華の腕を掴んで連れて行こうとする。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「安心しな。別にお前の親友に変な事はしねぇから。少し遊んでもらうだけだよ」
そのまま私の言うことは無視して燐華を連れて行く。
しかしその不良たちの行く手を阻むように男が立ちふさがる。
「ちょっとお前ら待て」
「あ?何だ、お前?」
「俺の女に何してやがる。ただじゃおかねえぞ」
バキッ!
男はいきなり燐華の腕を掴んでいた不良を殴り飛ばす。
「な、何しやがる!」
他の不良たちが男に向かって怒鳴りつけるが、男はすぐさま他の不良も同じように殴
り飛ばした。
「ふん。人の女に手をあげやがった罰だ」
そして男は燐華の方を見て、
「大丈夫だったか?」
「はい。ありがとうございます」
「モテる女は辛いな」
そんな冗談めいた事を言った後、尻餅をついていた私の方へ来た。
「大丈夫か?」
私の手を引っ張るような感じで私を立たせる。
「うん。親友を助けてくれてありがとう」
「ああ。だけどもう少し言葉に気をつけた方がいいぞ。あれじゃあ無駄に相手を怒らせる
だけだ」
「ふ、ふん。そんな事言われたって私の親友が不良に絡まれてたんだから・・・」
「親友が大事ってのは分かるけどさっきの行動で事態が悪化したような気がしたけど」
「うっ」
男は私の痛いところをついてきた。
「し、失礼な。初めて会っていきなりそんな意地悪な事言うなんて・・・」
「初めて・・・?ああ、そうか。こっちの俺では初めて会うのか」
男はよく分からないことを言った。
でも意味的には私はこの男と前にも会った事があるような言い方だ。
私は男をよく見てみる。
ジーンズに黒のTシャツ、それにジャケットと、いたって渋くて地味だ。
顔も悪くない。どこか自信に満ちたような感じで、はっきり言ってカッコいい。
確かに私の知ってる誰かに似ているような感じもするけど、それが誰なのか思い出せ
ない。もしかしたら近所の人なのだろうか。
「この野郎っ!待ちやがれ!」
不良が起き上がり後ろから男に向かって殴りかかる。
だが後ろからにもかかわらず男はしっかり避けて再び不良に鉄槌を食らわす。
「止めておけ。お前らじゃ俺の相手は務まらない」
不良にそう言い放つ男の姿はとてもカッコよく、私は一瞬にして心を奪われた。
「さてと、街の真ん中でこんな事してるんだ。そろそろ騒ぎを聞きつけて警官がくるだろ
うしここから去るわ。帰り道気をつけろよな」
「ちょっと待って!」
私は引き止めるが、男はそのままその場から走り去っていった。
「誰だったんだろう?今の男。名前くらいは知りたかったな・・・」
そう呟きながらふと地面を見ると、そこに何か落ちていた。
どこかの学校の生徒手帳みたいだ。もしかしたらさっきの男が落としたのだろうか。
私は拾って中を見ようとしたら燐華が私のとこに戻ってきて、
「私たちもそろそろ行こうか。き―――さっきの人が言うとおりもうすぐここに警察の人く
るだろうしさ」
「う、うん。そうだね」
燐華にそう言われ、とりあえず『この手帳の中を見れば誰か分かるし、後で返せばい
いか』と思い、その生徒手帳はポケットの中にしまい、私たちもその場を去ることにし
た。
「京君。昨日何してた?」
「えっ!?いきなりどうしたの?」
「いいから答えて!」
私は登校途中の京君に問い詰めていた。
なぜ問い詰めているかと言うと、昨日からずっと気になっていた事があったからだ。
幸い、なぜか今日は幸子が一緒じゃないために絶好のチャンスだった。
「えーっと・・・よく覚えてない・・・」
そう言っているが、京君は嘘のつけない人だ。顔を見れば嘘をついているのが一目瞭
然だ。
「嘘はダメ。正直に答えて」
「う・・・」
京君はどうしても昨日してた事を語ろうとはしない。
仕方ない。こっちから切り出すか。
「昨日さ、私と燐華でデパートとかに行ってきたんだよ」
「う、うん」
京君を見ると若干冷や汗をかいているように見える。
「で、その帰りにちょっと燐華がナンパされて私が止めさせようとしてトラブったんだよ」
「・・・・・・」
京君は私の方を見ようとしていない。どこか他のとこを見ていた。
「ちょっと聞いてる?」
「うん!聞いてるよ!」
そういう京君の声は裏返っていて、明らかにおかしい。
だがさらに私は話を続ける。
「その時に私たちを助けてくれた人がいたんだよ」
「・・・へ、へぇ〜。そうだったんだ。良かったね。その男の人に助けてもらって」
「私まだその人が男だって言ってないよ?何で知ってるの?」
「えっ!・・・いや、やっぱり助けたって言うなら男かな〜、と」
京君は凄まじいまでの冷や汗をかきながら必死に答える。
でも悲しいことに嘘だとすぐ分かってしまう。正直者って損な性格だ。
さらに話を続けて、
「その人が助けてどこかに去った後に、こんな物が落ちてたんだよ」
私はバックから昨日拾った生徒手帳を見せる。
「あっ!そ、それ・・・」
「これってさ、よく見たら私の学校の生徒手帳だったんだよ。で、誰のかと開いて中を見
てみると・・・これ誰だろね?」
京君にその生徒手帳を開いて顔写真のところ見せる。
「あ・・・あ・・・」
京君は声を出せずにその場で固まる。
「この顔ってどう見ても京君だよね?名前もちゃんと『相沢京』だもんね〜」
とりあえず私は固まっている京君の手に生徒手帳を握らせる。
「質問変えて聞くよ。昨日助けてくれたのって・・・京君なの?」
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