第12話 聖域での出来事(中編)


 男は私の潜んでいる方に向かって言葉を投げかけてきた。

 失敗しましたね。気配を消して魔力も抑えていたというのにまさか見つかるなんて。

 私は見つかっているなら隠れていても仕方ないので姿を見せることにした。もうさっき

みたく体が呪縛にかかったようにはなっていなく、すんなりと体を動かすことが出来た。

「女か」

 男は私を見て一言そう言った。

「あなたは一体誰です?この聖域の結界を破ったのもあなたなんですの?」

「貴様に答える必要などない」

「いえ、答えてもらいます。結界を破るどころか魔族を復活させるような者を放って置け

るわけありませんから」

 私は纏っていたフードを取る。フードを取ると私専用と言える赤い甲冑が姿を現した。

 これは前にドワーフに特別に作ってもらい、イース国の聖騎士の甲冑並の防御力を

誇る甲冑である。

 そして長年使っている愛剣クリムゾンを抜き、男に向かって構えた。

 横に魔族がいるのもあるが、この男も只者ではないと私の直感が言っていた。最初

から全力でいかないと勝てる相手ではなさそうだ。

「ふん。俺と戦うのか。無駄なことを」

 男は余程の自信があるのか、私が剣を構えても剣を抜くことをせずただ立っている。

「マスターが戦う必要ない。私がやる」

 代わりに魔族の女が私に対して攻撃的な意思を現した。

「時間が無い。すぐに終わらせろ」

「分かった」

 そう言い終わるや否、魔族の女の姿が消えた。

 次の瞬間には私の後ろに現れ、鋭い手刀を突き刺す。

「それくらいではやられませんわ」

 すばやく避け魔族の女を斬りつける。

「ぐっ!」

 魔族の女はすばやく避けた。それでも多少の手応えはあったが、ただかすった程度。

あちらも反応速度はいいようだ。

「油断しないでください。私はそう簡単にはやられませんわ」

 追い討ちをかけるように接近して斬りつけるが今度は完全に避けられる。

「それなりに早いけど・・・やっぱり遅い。これなら倒せる」

 魔族の女は私から少し離れ、目を閉じる。すると魔族の女の周りに卓球の玉くらいの

球が現れ始めた。これはさっきサギアが使っていた攻撃だ。

 さっき見たところ、あの攻撃は速いには速いが避けれないと言うわけではなく、魔法

を使い移動速度を上げれば問題ない。

 私はすばやく歌い移動速度を上げる。

「喰らえ」

 かけ声とともに球からレーザーが飛んで向かってくる。

 私は軽々と避けてレーザーは私に掠ることすらなかった。

「遅いです。そんな攻撃を何度しても私を倒せませんわ」

「今のは練習。次が本番。今度は当てる」

 再び魔族の女の周りに球が現れ、レーザーが飛んできた。

「なっ!?」

 さっきと同じように避けようとしたのだが、さっきとは比べ物にならない程の速さでレー

ザーが飛んでくる。正に目にも止まらぬ速さだった。

 攻撃が見えていなく正確に避けることが出来なかった。そのために勘だけで避けるし

かなくいくつかの攻撃は掠ってしまった。だが戦うに問題ない程度であり、予想以上に

ダメージが少なく自分でも驚いてしまう。

 そしてここにも驚く魔族がいた。常に無表情だった顔が驚きの表情になっている。

「バカな!?あれを避けただと・・・」

 驚きの為に動きが止まる。そこの隙を見逃さず私はすばやく斬りかかった。

ザシュ

「がぁぁぁ!」

 今度は手応えあり。魔族の女の右腕を切り落とす。

 魔族の女は腕を切り落とされもがき苦しみ倒れる。そこに再び大きな隙が出来た。

 すかさず何度も致命傷となる傷を与えていき、ついに地面へと倒れる。

「これで終わりです」

 そして止めを刺そうと剣を振り落ろす。

 しかしあと少しのところで体が金縛りにあったように動かなくなり硬直してしまった。こ

れ以上剣を振り落ろすことが出来ない。

 一体何が起きたのです?

「貴様なかなかやるようだな。サテラに勝つとは」

 サテラとはあの魔族の女の名前だろう。男は半ば関心したような口調で言ってきた。

「これであなたと戦える権利をもらえたのかしら」

「ふん。動きを封じられている割には威勢がいい」

「なるほど。私が動けないのはあなたのせいですか。ではさっき私が隠れていたときに

動けなくなったのもあなたのせいだったんですね」

「そうだ」

「このまま動けない私を殺す気ですか?」

「それでは面白くない。動けるようにしてやるさ」

 男の剣が妖しく光ると体が動けるようになった。あの剣の力で動きを封じていたのか

もしれない。

「マスター。私・・・はまだ・・・やれる」

 目の前で倒れていたサテラは体の至る所に傷を負い、大きく力を失っていた。それで

も何とか立つが、今や立っているのが精一杯に見える。

「お前は負けたんだ。邪魔をするな」

 男は剣を抜くとサテラに一閃。剣の風圧によってサテラの体が後ろへと飛ばされる。

「魔族とはいえ瀕死の仲間をさっきは助けたのに今度はそういうことをするんですね」

「ああ。今は俺の獲物だからな」

 男は私に対して剣を構える。そして同じように私も剣を構えた。

 しかしお互い構えたまま動かない。いや、あっちはどうか分からないが、少なくとも私

は動くことが出来なかった。

 男から感じる力はとても強く、今までで戦ったことのある相手なんかと比べ物にならな

いくらい強力だった。油断なんてすれば一瞬で殺られるだろう。

「どうした?来ないのか?それならこっちから行くぞ」

 男が私に向かって動き出した次の瞬間―――

ズシュ

「がはっ!」

 気付いたときにはすでに脇腹(わきばら)を斬られていた。決して浅い傷ではないが、

深い傷というわけでもなかった。

「期待外れだな。手加減して多少外して斬ってやったが、今のすら避けれんようでは話

にならないな」

 全く動きが見えていなかった。動いたと判断した次の瞬間にはすでに脇腹に痛みが

走っていた。魔法で能力を上げているにも関らず、まるで強さの桁が違っている。

 それでも私は何とか痛みを我慢して剣を再び構える。

「これくらい・・・何ともありません」

「やせ我慢をするな。すでに今ので力の差がはっきりしている。向かってくるだけ無駄

だ」

 男はすでに私に対しての意欲が失せたのか、私が剣を構えているというのに剣を構

えない。

「まだですわ。死ぬまで諦めるような事はしません」

 男はゆっくりと私の方へ歩いてくる。

 私は近づいてくる男に斬りかかるが完全に見切られており当てることは出来ない。

 そして私の目の前に来ると、

「望みどおり殺してやる」

 剣を振り上げ、私に目がけて振り下ろす。

 必死で避けるが近距離の上に傷が大きいためもあり、避けることが出来ず確実に私

へ剣が向かってくる。

 しかし私に剣が突き刺さることはなかった。見ると男の剣が私に刺さる寸前で止まっ

ている。さらに男は剣を引き、鞘に収めた。

「女。運がいいな。時間が来たからここで終わりにしてやる」

 男はサテラの倒れている方へ向かい、気絶しているサテラを蹴り起こす。

「おい。起きろ」

「うぅぅ・・・分かった」

 サテラは意識を取り戻し、よろけながらも立ち上がった。

「時間だ。ここを出るぞ」

「待ちなさい。まだ勝負がついていないわ」

 私は去ろうとする2人を引き止める。

「諦めが悪いやつだな。時間が来ていなければお前は俺に殺されていた。力の差は歴

然だ」

 そしてかなり離れていたはずの男が一瞬で私の目の前に現れ、強烈な蹴りを放つ。

避ける暇なくまともに喰らい、私は後ろにあった大木に激突する。

 今の動きも全然見えなかった。男の言うとおり力の差は歴然だ。

「今日は見逃してやるが、もし再び俺の邪魔をするようなら次は確実に殺す」

 その言葉を残し2人はこの場から去っていった。

「悔しいですね。ここまでの惨敗なんて」

 

 

私は後悔の中、意識を失っていった。
 

 

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