第14話 3年前の間違った歴史


「―――ということが聖域であったんです」

 

 

 エスペリアは聖域で起きたことを多少略したところもあるだろうが話した。

 しかし話が長かった。それほど頭の良くない俺にはやや難しい話だったのだが、

「なるほど。つまり聖域の結界を一時的に解いていたのは魔剣で、その魔剣を持つ男

が聖域に封印されていた魔族を解き放ったと。そしてその男がこれから何か良からぬ

ことを始めようとしているからその何かを食い止めるため、魔剣に唯一対抗できる神剣

使いを探しているってわけだな」

「そうですわ」

 魔剣・神剣などの話は古文書で出てくるくらいのものだ。実際に魔剣や神剣を持って

るやつの話など聞いたことが無い。そもそもこの世界にはもう存在していないと言われ

ているくらいなのだから。それこそ異世界に飛ばされたと伝えられていた。  

 確かに魔法をかけた剣を魔剣と言ったりもするのだが、正確には魔剣を真似してい

るだけの魔法剣である。

 しかし正直言って今の話は信じられなかった。だが、サギアが復活していたこともあ

り信じるしかないのだろう。

「で、今のとこ候補としての当てはあるのか?」

「ええ。今のところ2人ですね」

「ほう。それは誰だ?」

「それはあなたのよく知るグラン国の現騎士団長ロイと、もう一人は・・・」

 エスペリアは言葉を止め俺の顔を見る。

 これってもしかして、

「もう1人は俺か?」

「ええ。そうですわ。私の現在知る限りではこの2人が有力候補です」

 驚きだ。まさか俺が候補に選ばれるとは。3年前にこいつと戦ったときは俺が劣勢状

態にあったはずなのに俺を選ぶなんて。

「まあ何で俺を選んだか気になるところもあるが、この際それはいいとしよう。で、俺は

どうすればいいんだ?」

「すでにグラン城に行ってグラン王に事の成り行きを話してきたのですが、どうやらロイ

は今城にはいないらしく、3日後の朝にならないと戻らないそうですわ。それなので、す

ぐに馬車を使って王都へ行き、ロイと合流次第聖域へ向かってください。私に言われ

て来たと言えば守護者の2人に会えますわ」

「お前はどうするんだ?」

「私は今からすぐ他の国の王にこの事を伝えに行きます。これから何が起きるか分か

らないですし一刻を争いますので」

「そうか。分かった」

 突然どこからか俺たち2人ではない声が聞こえてきた。

「ん〜」

「おや、どうやらお姫様が起きたようですね」

 リンが目を覚ましたようだ。

「おい、リン大丈夫か?」

 俺はすぐにリンに近づき、リンに呼びかけた。 

 リンは寝起きのためなのか目の焦点が合っていないようだった。

 そしてその目で俺を見た第一声が、

「あれ?ゼ・・・オン?」

 その言葉を聞き、まだ呪いが解けてないのかとゾッとしたが、

「・・・あっ、アスか」

 次の瞬間には焦点が合い、いつも通りの呼び方をしてくれたのでホッとした。

「体のどこか痛くありませんか?癒しの魔法でほとんど痛くないとは思いますが」

 エスペリアが心配そうにリンに聞いた。

「え?あっ、はい。大丈夫です」

 リンにしては珍しく敬語で答える。

「そうですか。良かったですわ」

 そして俺の耳元で、「この人、誰?」と聞いてきた。

 まあつまりは誰か分からないからとりあえず敬語を使ったってわけか。

「歌姫エスペリア」

 俺が一言そう言うとリンは、

「あー!この人がエスペリアなの!?」

 突然耳の近くで大声を上げたためにビクッとした。そんな俺を見てエスペリアは笑って

いる。

「はい。私の名前はエスペリアです。昔は戦場の歌姫と呼ばれていましたね」

「へぇ〜。聖騎士団長だったリオンを抜けばこの世界の有名人に初めて会ったよ〜」

 リンは感心そうにエスペリアを見ている。しかも憧れの眼差しで、だ。

「そんなやつをそんな憧れの眼差しで見るな」

 俺はリンの行動に理解が出来ずについ口から思ったことが零れてしまった。

「え?」

 リンは『突然何を言い出すの?』とばかりの顔で俺を見た。

 何でこいつはエスペリアに憎しみの感情を抱かないんだろう。あの3年前の出来事を

忘れたわけじゃないだろ?

「こいつが3年前に何をしたか知ってるだろ?それなのに何でそんな尊敬にも値するよ

うな目でこいつを見ることが出来るんだ?」

「何そんな怒ってるのさ。エスペリアって言ったら3年前の陰の英雄でしょ?」

 俺はリンの言ってることがさっぱり分からなかった。

「こいつが・・・英雄だと。そんな事あるか!こいつは3年前俺の兄貴を殺したんだぞ!

それが英雄だなんてふざけるな!」

 俺は耐えることの出来ない怒りに自分でも思った以上の声で叫んだ。

 リンはそんな怒り狂う俺の姿を見て目をまん丸にしていた。

そしてエスペリアの方を見て、

「今の話本当何なんですか?」

「ええ。あの時は仕方なかったんです・・・とは言えないですね。あれは完全に私が悪

かったんですから。だからあなたに憎まれて当然です」

「当たりま―――」

 エスペリアは俺の方を見て本当に後悔しているような表情をしていたために、言葉が

途中で出てこなくなってしまった。

 少し俺の方を見ていた後、今度はリンの方を向き、

「それに私はリン王女にも怨まれて当然な女です。それなのでそのような目で見られる

と、とても申し訳なくなってしまいますわ」

「え?どういう事ですか?」

 リンはさらに分からないような顔をした。

「それに答える前に1つ質問なんですけれど、3年前に起きたイース国とザキオス国の

戦争についてリン王女の知ってる事を教えてください」

「えっ!?あっ、はい。正直ほとんど人から聞いた話になりますけど、

確か戦争の始まりになった事件が、ザキオスの第2王子が何者かに暗殺された事だと

思いました。で、その何者かが暗殺した後ザキオス城から逃げるときに何人かの兵士

に目撃されていて、その兵士が口々に『イース国の聖騎士の甲冑を着ていた』と証言し

たことからイース国がザキオス国を侵略しようとしてると考え、イース国の言い分を全く

聞かずに2国の戦争になったと聞きました。そして2ヶ月くらい戦争が続いたけれど、膠

着状態が続いたためにザキオスがエスペリアさんがその時に入っていた最強兵団を出

して一気に決着をつけようとしたんですよね。でもイース国も身に覚えのない事で国を

滅ぼされるわけにはいかないから、聖騎士団を出して最後の戦いを起こしたと聞きまし

た。その戦いの末、何とか聖騎士団が勝利を収めてザキオス国とちゃんと話し合いが

出来るかと思った矢先、今回の事件を起こした張本人である魔族が現れて聖騎士団

長と戦ったと聞きました。でもその時、もう団長はかなりの怪我を負っていて満足に動

けない状態だったけど、エスペリアさんの歌魔法で一時的に体を万全な状態にして戦

い、魔族を石化させたと聞きました。でも団長はその時無理したせいでしばらくして死

んでしまいましたけど・・・。

これが私の知ってる3年前の事です」

 リンは長い話を終えて少し疲れたような表情をした。

 しかし今の話は誰から聞いたんだ?最初の方は合っているが、後半はかなり違って

いる。これでは確かにエスペリアに対して憎しみなど抱かないだろう。

「それって誰か―――」

「誰からその話を聞きましたか?」

 エスペリアが俺の言葉を遮り、俺の聞こうとしていたことを聞く。

「誰って。それは私の父である現国王ですけど」

「やはりそうですか。私が旅しているときに他のところで同じように3年前の話を聞いた

ことがありますが、今のリン王女と似たような事を言っていたんですよ。どうやら両国で

嘘の話を作って私たちに気付かれないように広めたのでしょう」

 国自体が情報操作していたのか。それは俺も知らなかった事だ。正直あの事は思い

出さないようにしていたしな。

「嘘の話?」

 リンが興味深そうに聞いてくる。当然だろう。今まで嘘の過去を教えられていたんだ

から。

「ええ。前半は合っていますが、後半はかなり違っています。今から話すのが本当の、

真実の出来事です」

 

 

 そしてエスペリアは3年前の真実を語りだした。
 

 

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