第22話 リンの最後?!


 再び銀虎が牙を光らせ襲い掛かってきた。

 それを何とか剣で受け、隙あれば反撃に出ようとするが、素早く動くためにやはりこっ

ちの魔法は当たらない。

 何回か受けては反撃を繰り返していて分かったが、今の俺ではやはり攻撃を受けて

から反撃では遅いのだ。

 銀虎の強力な攻撃を受けるにはどうしても両手で剣を持って耐えなければならない。

 その攻撃を受けた後で、すぐに左手を剣から離して魔法を撃つのでは時間がかかって

しまう。

 それにこのまま防戦一方を続けていると、こっちの体力が持ちそうになかった。

 それならばどうすればいいかと考えると、やっぱりこの方法しか思いつかなかった。

「捨て身の戦法になっちまうけど仕方ないな」

 そして俺はその方法を行動に移す事にした。

 次の攻撃が来たら最後の勝負だ。

 俺が覚悟を決めると、すぐに銀虎の尻尾が迫ってきた。

「これで―――どうだ!」

 尻尾を剣で受けると同時に、剣に電撃魔法を打ち込む。

「ぐぉぉぉおおおお!!!」

「ぐっ・・・!」

 電撃が俺の剣から銀虎の尻尾へと、そして体全体へと伝わっていき、銀虎が大きな咆

哮をあげる。

 しかし、もちろん逆に俺の剣から俺の体へも電撃は流れたので、俺にもかなりのダメー

ジが襲った。

「おおー。考えたね〜。でも残念でした。それくらいじゃ、銀虎は倒せないよ〜」

「それくらい・・・自分でも分かってるぜ」

 そう。俺の攻撃はこれで終わりではない。

 シンシアの言うとおり、俺の捨て身の電撃攻撃によって銀虎は一時的に動きが止まっ

ているが、まだ完全に倒すには至っていない。

 そして次が本命の攻撃だ。渾身の力で最大電撃魔法を放った。

「これで止めだ!出でよ、白雷(びゃくらい)!!!」

 そう叫ぶと、俺の手から今までの電撃とは比べ物にならない程強力な電気で模(かた

ど)られた一角獣(ユニコーン)が現れ、銀虎に向かって襲いかかった。

「ぐぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 白雷の攻撃が当たるや否、銀虎は強力な電撃に焼かれ、見る見るうちに黒焦げにな

り地面へと倒れた。

 しばらく待ってみるが、動いてくる気配はない。

 どうやら俺の勝ちらしい。

 それを確信すると、ふっと体の力が抜けて地面へ仰向けに倒れた。

「あーあ、あたしの銀虎もやられちゃった〜」

 シンシアはそう言いながら指をパチンと鳴らすと、黒焦げになった銀虎はその空間に溶

け込むようにして姿を消した。

 そして息も耐え耐えで倒れている俺のところへ来て、

「よく出来ました。1つ目の試験は終了だよ」

 笑顔でそう言った。

 

 

 俺は銀虎を倒した後、シンシアから命の泉の水を飲ませてもらい、傷が癒えるのを地

面で横になって待っていると、しばらくしてロイが戻ってきた。

 そして俺の姿を見た第一声が、

「修行不足じゃないの?」

「うるせー」

「そんなにダメージ受けちゃって。僕はそんなにダメージないのに」

 確かにそう言うロイの体には、甲冑の胸の辺りに大きく引き裂かれた跡以外には目立

つ傷はなかった。

「僕の思うところ、魔法の発動時間で苦戦したとかだね」

「う・・・」

 見事に図星だった。何で分かったんだろうか。

「アスの魔法って威力は強いけど、普段は使ってないせいで発動までの時間がちょっと

長いからね。電撃が弱点の相手みたいだったし、何となく分かるよ」

 当たってるだけに何も反論が出来ない。

 今までは大抵剣だけで何とか出来るとこが多かったため、攻撃魔法を使う機会がほと

んど無かった。

 それに比べてロイは騎士をやってるわけだから、訓練中に頻繁に攻撃魔法は使ってい

たのだろう。

 俺が何も言えない事で調子に乗ったらしく、

「しかし、いつの間にか僕の方が強くなってたみたいだね。アスの敵よりも強い敵を先に

倒しちゃったわけだし」

 満面の笑みを浮かべて言ってきた。

 その顔が憎たらし過ぎる。

「ふん!たまたま偶然俺よりも早かっただけだろ。次の敵はお前より先に倒してやるか

らな!」

「はいはい。頑張ってくださいな。ア・ス・君」

 常にこんな顔をされてたら苦痛なので、絶対にロイに劣る事実を認めないためにも、次

はロイより早く勝たなくては、と俺の中で闘志が燃え上がった。

 

 

 そんな会話をロイとしていると、アリシア・シンシアの2人が何やら神妙な面持ちで俺

たちの前に現れた。

「えっと・・・どうしたんです?」

 ロイにもそれが感じられたらしく、2人に問いかけた。

 するとアリシアが驚愕の出来事を言った。

「ついさっきグラン城が消えました。恐らく魔族の仕業でしょう」

「なっ・・・!?」

 それはあまりに突然で、あまりに突拍子のない事だった。

「「消えたってどう言う事だよ(です)!」」

 俺は即座に体を起こし、アリシアに向かって半ば怒鳴るような口調で聞き返した。

 それと同時にロイも怒鳴るような口調で聞き返す。

 その口調に怯えるわけでもなく、アリシアは淡々と答える。

「言葉の通りです。強力な広範囲の魔法によって、グラン城のあった場所は跡形も無く

消し飛ばされました。城の側にあった街の一部も少し消し飛んだようですが、城を消した

以外には直接街への攻撃は無かったようです」

 それを聞き、見えない何かで頭を思いっきり殴られた気分になった。

 嘘だろ?あそこにはリンがいたんだぞ。まさか一緒に消し飛んだのか?

 また俺は魔族のせいで大切な者を失ったのか。

 俺は強い絶望に襲われた。

 そんな中、ロイが冷静に質問をした。

「何でそれを知ってるんですか?さっきまでずっと僕たちと一緒にいたのに」

「それはこの子が見てたからだよ。出ておいで、疾風(はやて)」

 シンシアが銀虎ではない、他の召喚獣を出す。

 召喚されたのは鳥の召喚獣で、ツバメのような姿をしていた。

「この子は偵察用の召喚獣で、事の次第は全部この子から教えてもらったの。この子が

見たものは全部私たちの頭の中に流れ込んでくるから。でもさっきはちょっとこの子との

接続を切ってたから知るのが遅れちゃったけど・・・」

 シンシアが悲しそうな声で言った。

「その疾風の見たことを、出来ればもう少し詳しく教えてもらえませんか?」

 ロイがもっと詳しく知ろうとシンシアに聞くと、

「私たちが話すよりも実際に見た方が早いでしょう。疾風に触れれば事の次第を見ること

が出来ます」

 アリシアがロイにそう告げる。

「それなら・・・アス、一緒に見よう」

 ロイが俺に対して何か言っているようだが、自責の念に駆られている今の俺には何も

する気が起きなくなっていた。

 俺の心中を察したのか、ロイは1人で見ることにした。

 そして言われたとおりにロイは疾風に触り、事の次第を見始めた。

 

 

 5分くらい経った頃だろうか。

 ロイが見終わったのか、疾風から手を離した。

 そしてすぐに俺のところへ寄ってきて、

「アス!大変だ!今見た映像の中にリン王女が映ってたよ!」

「何!?それは本当か!」

 自責の念に駆られていた俺を、その言葉が現実へと戻した。

「うん。あれは間違いなくリン王女だった。それと・・・後は見れば分かるよ」

 ロイは途中で言葉を濁らせた。

 何か言いづらい事でもあるのだろうか。

 いや、今はそれを考えてても仕方ない。見ればすべてが分かるんだから。

 そして俺も疾風に触り、事の次第を見ることにした。

 

 

 疾風に触ると一瞬体がフワッと浮くような感じがした。

 そして次の瞬間には俺は空の上を浮いていた。

「ここはどこだ?」

 周りを見渡すが、前後左右を見ても雲があるだけだった。

 それはそうか。ここは空の上だしな。

 気を取り直して下を見ると、そこにはグラン城があった。

 しばらく見ていると、城門付近に人垣が出来始めた。

「あれは何だ?」

 ここからでは少し高すぎてよく見えない。

 もう少し近くで見たいと思うと、自然と体が下へと降りていった。

「なるほど。自分の思うように移動が自由ってわけか」

 そのまま降りていき、城門で俺の見たものは、

「あれって俺たちだ」

 そう。俺の見たものはリンとルイの喧嘩の現場だった。

 ここから始まってるって事は、疾風は結構前からいた事になる。

 しばらくその喧嘩を傍観してると、ロイが2人を束縛魔法で拘束した。

 そしてそのまま地下牢へと運ばれていった。

「俺が知ってるのはここまでだな」

 俺もリンと一緒に地下牢の中へ行こうとするが、なぜか中に入れなかった。 

「何でだ?」

 俺が不思議に思っていると、どこからかシンシアの声が聞こえてきた。

『どんなに頑張っても無駄だよ。アスお兄ちゃんは疾風が見た景色の中でしか移動出来

ないから』

 なるほど。そういうわけか。

 それなら仕方ないので、再び空の上に戻ってこれから起こることを待つ事にした。

 どこから魔族は来るんだ?

 そんな風に気を張らして待っていると、突然地下牢の出口から火柱が上がった。

「何だ?!」

 すぐにそこを見ると、火柱のすぐ近くにはリンが立っていた。

 ホッと安心したのもつかの間、リンの近くにはルイの姿が無かった。
 
「マジかよ。ルイの姿が無いなんて。逃げ遅れてまだ地下牢にいたなら今頃・・・」

 そうか。さっきロイが言葉を濁したのはこれがあったからか。

 そんな事を思い、ロイの心中を察していると、火柱の中から何かが姿を見せた。

「まさか・・・あれは・・・」

 火柱から姿を見せたのはルイだった。

 そしてルイはリンに向かって業火の炎を次々と放っていた。

 それを見て俺はロイが言葉を濁した本当の意味を理解した。

 ルイは昨日のリン同様、魔族に操られてしまっているのだ。

 いや、少し違う。ルイは魔力を持ってないのだ。性格には乗り移ってるのだろう。

「止めろ!ルイ!」

 思わず叫ぶが、俺の声はもちろん届かない。

 それでも叫びたい気分だった。

 今のリンには魔法が使えないのだ。このままではすぐに殺されてしまう。

「くそっ!今の状況をただ見ているしかないなんて!」

 リンを守ろうとした騎士も殺され、またルイを倒そうとした兵士も殺されていく。

 そして次第にリンを追い詰めていき、最後の止めとばかりに凄まじいほどの魔力を手

の平に込め始めた。

 そして空高く舞い上がると、その魔力球をリンに向かって放った。

 リンの方を見ると、逃げる様子は無かった。

 いや、例え逃げたとしても間に合わないだろう。

「くそっ!やっぱりリンは・・・」

 顔を背けたい気持ちを抑えて、せめてリンの最後を看取ってやろうと見ていると、リン

が突然手を前に突き出した。

「何をする気だ?」

 見ていると、リンの手へと魔力が集まっていくのが感じられる。

 そうか。魔法封じの腕輪を無理矢理壊して何とかしようと考えたのか。

 作戦としてはいいかもしれないが、力不測は否めないだろう。

 しかし俺の予想とは裏腹に、リンは魔法封じの腕輪を壊すことに成功し、今まで溜まっ

ていた魔力が一気に放出された。

 リンはその魔力を盾にして、魔力球の軌道を変えようとした。

 しかし見ていて分かる。溜まっていた魔力はすぐに放出され、魔力がすでに弱まり始

めていた。

 あれでは軌道を変える事は無理だ。

 それでもリンは諦めずに魔力をフルに放出しているが、ついには魔力が底を尽き、リン

は轟音と共に光の中へ消えていった。

 そして光が消え、土煙が消えた後には、もうグラン城はなく、まるで月のクレーターの

跡のようなものがあるだけだった。

 

 

 そう。アリシアの言ったとおり、グラン城は跡形も無く消されてしまったのだった。

 

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