第24話 試験終了


 残り3分。俺は必死に逃げる。

 懲りずに土人形で騙そうとするが、同じ手はもう食わない。

 冷静に判断してれば気配の有り無しで本物か偽者かは分かる。

 ネタがバレてしまえば、もう何の意味もない。

 しばらく走っていると、木が周りになく大きく開けた場所に出た。

「スタート地点に戻ってきたのか」

「そうだね。アスお兄ちゃんはぐるっと回ってきたんだよ〜」

「あとどれくらい逃げればいいんだ?」

「2分だよ〜」

 シンシアは俺の後ろの方で答える。

 2分か。何とかギリギリの時間だった。

 この8分の間、ほとんど止まらずに逃げ回ったり、シンシアの妨害をしたりと、予想以上

に魔力を消費していた。

 普通ならこれくらいでは魔力が尽きる事はないのだが、さっきの銀虎との戦いで魔力を

すでに消費していたので、結構辛い状態なのだ。

 このまま今のように逃げてるだけなら問題ないが、シンシアはまだ何かをしそうで油断

がならなかった。

 そして案の定、

「ちょうど広いとこに出たし、最後にすごいのいっちゃうよ〜」

 すると、俺の周りの地面から続々とさっきの土人形が生まれ始め、シンシアの姿を模っ

ていく。

 数にして20はあるだろうか。

 完全に回りを囲まれ、逃げ場がなかった。

「これならもう逃げ場がないよね〜。じゃあこれでお終い!」

「くそっ!」

 そして一斉に俺目掛けて、シンシアの姿をした土人形が襲い掛かってきた。

 しかし俺は逃げ場がないと分かると、すぐに魔法で防御壁を作り、俺へのタッチを防い

だ。

 こうなったらもう逃げることは出来ない。完全に護りに入るしかなかった。

 あとは粘り勝負だ。この防御壁が破れるのが先か。それとも時間が来るのが先か。

 後者に賭けるしかない。

「護りに入ったのか〜。それならそれを破らないと、だね」

 シンシアはさらに土人形を生み出す。

 しかし今度はシンシアの姿を模らず、そのままの土人形の状態で出来る。

 その数は50を超えていた。さっきのを合わせて70体。

 シンシアの魔力はやはり人間を超えている。

「これが今の私に出来る精一杯の数だよ〜。これが・・・一斉に攻撃〜!」

 すべての土人形が再び一斉に防御壁を破ろうと攻撃してくる。

 力押しで破ろうとしてるようだが、そう簡単に破らせるわけにはいかなかった。

 俺はさらに魔力を込めて防御壁を頑丈にするが、それでも徐々に防御魔法の壁にヒビ

が入っていく。

「ぐっ!ヤバイ・・・このままだと・・・」

 俺はありったけの魔力を込めて破られないようにするのだが、

「もうダメだ!」

 魔力不足のためか、単に数が多かったためなのか、ついに破られてしまった。

「はい。これでお終い!」

 防御壁が破られると、すかさずシンシアが俺に近づきタッチをした・・・ように思えた。

 だが、その触ろうとしてた手は俺に触る寸前で止まっていた。

「・・・?」

「あーあ、もう少しだったのにな〜」

 シンシアは残念そうに俺から離れていく。

 少しの間、何で触らなかったのか分からなかったが、

「・・・時間切れか」

「うん。あと1秒あれば触れたのに。運が良かったね〜」

 

 

 長いように感じた鬼ごっこも終わりを告げ、しばらく待っているとロイとアリシアが戻って

きた。

 その顔には満足したように笑みが浮かんでいたので、結果は聞かずとも分かった。

「お疲れ様」

「お前も逃げ切ったんだな」

「まあね。正直危なかったけど・・。しかしアスたちはすごい事してたんだね」

 ロイは呆れたように俺の周りにあった土の塊たちを見る。

「これって土人形だったのでしょ?この数相手によく触られなかったね」

「まあな。これくらい大したこと無かったぜ?」

「へぇ〜。さすがアスだ」

 俺は少し見栄を張って自慢してみるが、横にいたシンシアが、

「何見栄張ってるのさ、アスお兄ちゃん。あと1秒もあればあたしに触られてたくせに〜」

 すぐにロイに本当のことをバラした。

「何だ。ギリギリ逃げ切ったのか。関心して損しちゃった」

「おい!バラすなよ!」

「ダメダメ。嘘は泥棒の始まりだからついちゃいけないんだよー。ってこんな事してる場合

じゃないね」

 急にシンシアは真面目な顔をした。

 そうだ。今はこんな雑談して和んでる場合じゃないんだった。

 どうもこの子供っぽいシンシアといると事の重大さが薄れてしまう。

「アスお兄ちゃん。今失礼な事考えたでしょ?」

「気のせいだ」

「そう?ならいいけど」

 一瞬心を読まれたのかと思ったが、気のせいだったようだ。

「ではさっそく神剣を抜いてもらいます」

 アリシアは再び神剣を出現させ、地面に突き刺す。

「どちらから抜きますか?」

「アスからでいいよ」

「いや、ロイからでいいよ」

 お互いに先を譲ろうとしたために意見が食い違う。

「時間もないし、元気なロイお兄ちゃんから行こうよ」

 そのためにアリシアが勝手に順番を決める。

 しかし別に反論する理由もないので、ロイから神剣を抜く事になった。

 

 

 ロイが神剣の前に立つ。

 そして思い切って柄を握り、神剣を引き抜こうとする。

 だがしかし神剣は全然抜けるような気配は無かった。

「どうやらロイさんには無理のようですね」

 アリシアは落胆の表情を浮かべることなく冷静に言った。

 逆にシンシアの方は、

「ロイお兄ちゃんなら抜けると思ったのに〜」

 と、落胆しまくっていた。

 しかし今の言い方からして、俺には抜けないと思ったと言ってるように聞こえたのは気

のせいだろうか?

「あはは。僕には抜けなかったよ。次はアスが頑張って」

 ロイは残念そうに俺のところへ来ると、俺の肩を押して神剣の方へ向かわせた。

「次はアスさんですね」

「アスお兄ちゃん頑張れ〜」

 シンシアに応援されているが、ただ剣を抜くだけなのに、どこをどう頑張ればいいか全く

分からなかった。

 いざ神剣の前に立つと緊張する。

 ただ剣を抜くだけなのに、この神剣が持つ神秘的な魔力を近くで感じると緊張しないで

いられなかった。

「よし」

 覚悟を決めて神剣の柄を握り、引き抜こうと上に上げる。

 しかしまるで剣が持ち上がらずにいた。

 まさか俺も抜くことが出来ないのか?!

「くっそー!」

 今ある魔力をフルに腕力の強化に回すが、

「やはり無理のようですね」

 どうしても抜くことは出来なかった。

 

 

「困りましたね。こうしてる間にもどこかで魔族が暗躍してるかもしれないと言うのに肝心

な神剣の持ち主が見つからないとは」

 アリシアはやや眉をかしめて困った顔をした。

「他に候補となりそうな人はいませんか?」

「そう言われても・・・いないな〜」

 俺は心当たりがないのでそう答えたのだが、

「各国の最強騎士団の団長なら僕たちよりは強いと思う」

「だけど俺の知る限り、あのエスペリアには敵わないと思うぞ」

 ロイの意見も最もなのだが、どうしてもこの世界にエスペリアを越えるやつがいるとは

思えなかった。

「それはアスが騎士団長の本当の力を知らないからだよ」

「まあ確かに本気の力を見た事はないかもしれないけど、エスペリアの本気も見たことな

いからな〜。3年前に俺の兄貴を殺したときも、俺と戦ったときも本気じゃなかったし。正

直、魔剣の男に負けたのも信じられないくらいだ」

 憎んではいたものの、強さに関してだけは昔から認めていた。

「それにエスペリアだって騎士団長が強いのは知っていたはずだ。それなのに候補とし

ては俺とお前しか選ばなかった。つまりは候補からは外されていたんだ。恐らく無駄だと

判断したんだろう」

「ふーん。エスペリアの事憎んでたって聞いてたけど、結構信頼してるだね」

 ロイは意外そうな顔で俺の意見を聞いていた。

「今はそんな事はどうでもいいだろ」

「ごめん。そうだった」

 それから少し考えてみるが、やはり候補となりそうなやつは浮かばなかった。

 

 

 ここで考えていても仕方ないので、エスペリアと同じように候補そうなやつを見つけたら

ここに連れてくることにして、俺とロイは王都グラニアに戻ることにした。

 今は一刻も早くグラニアに戻ってリンの生死を確かめたかった。

 まだあいつにかけてある探知の魔法は有効なので、死んでいない限りは近くにいれば

すぐに分かるのだ。

 願わくばグラニアで探知の魔法を使い、反応してくれればいいのだが。

「それでは私たちがグラニアまで転移させます」

「転移?」

「ええ。ここからなら私たちの力で、この世界のどこへでも一瞬で飛ばすことが出来るん

ですよ」

「そんな事が出来るのか」

「しかし『誰かのところへ』飛ばすことは出来ず、あくまでも『どこかの場所へ』ですけど」

 最後のは俺に対して言ったのだろう。

 最初にどこへでも一瞬で飛ばせると言われたときに、『それならリンの場所へ行けない

か』と思ったのだが、それはどうやら無理のようだ。

「まあいいさ。それなら俺たちをグラニアへ飛ばしてくれ」

 俺はアリシアにそう告げると、

「はい。分かりました。それでは―――」

「・・・?」

 何かを言おうとしていたアリシアの動きが急に止まった。

「誰かこの聖域に来たみたい。それも大怪我した状態で!」

 シンシアが大きな声を出してそれを告げると、どこかへ向かって急いで走っていってし

まった。

「すいません。少し転移は待っててください」

 シンシアに続いてアリシアも同じように走り去っていく。

「何だろ?嫌な予感がする。僕たちも行ってみようか」

「ああ。そうだな」

 そして俺もロイに言われて、2人が走り去った方へ向けて走った。

 

 

 そして向かった先で見たのは、体中を大火傷していて所々皮膚がただれている人間。

「まさか・・・リン!?」

 そう。それは間違いなくグラニアで生死が不明になったリンだった。
 

 

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