「―――って事があったんだよ。それと、あの爆発で目の前が真っ白になったところで記
憶が無くなってるから、何で自分がここにいるのかは分からない。それは私が知りたいく
らいだよ」
俺たちはリンから詳しくグラニアで何があったのかをリンから聞き出した。
しかし分かった事と言えば、疾風からは知りえることの出来なかった地下牢の中で何
が起きたのかくらいだった。
それなので、リンがどうやってここまで来たのかは知ることは出来なかった。
リンの違和感の正体が分からないので、実際に戦ってみればリンの違和感の正体が
分かるかもしれないと考え、軽く肩慣らしに俺とリンは戦ってみることにした。
今回はお互い剣がないので、体術と魔法で勝負だ。
「最初は避けるだけにしといてやるからドンドンかかってこい」
「う〜。そんな余裕見せたことを後悔させてやるんだから!」
俺の安い挑発に乗って、リンが俺に向かって殴りかかってくる。
その動きは思ったよりも早い。最初から本気のようだ。
それでもまだまだ動きは見え見えだし、型がなっていないので俺に攻撃が当たること
はない。
最初は思っていたのだが、段々と避けるのも必死になってきていた。
俺の動きが遅く―――いや、リンの動きが次第に速くなってきているのだ。
この速さは前にリンがサギアに操られて、潜在能力以上の力を出していたときと同等
の速度になってきている。
まさか違和感ってのは自分の疲れが感じなくなったためなのか?!
すでに俺に近い速度で動くリンは、今までのリンからは想像がつかない。
気付かぬ内に限界超えをしている危険もありえる。
「何か体がすごく軽い。これならもっといけそうだ」
俺が内心ヒヤヒヤしていると、そんなリンの呟きが聞こえた。
何だろう。最初は動きがぎこちなかったけど、今はすごく体が軽くて、今までにないほ
どの速い動きが出来るようになっている。
まるで自分の背中に羽が生えているようだ。
それにこんなに速く動いているのにそれほど疲れがない。
「何か体がすごく軽い。これならもっといけそうだ」
私はそう呟くと、どこまで自分は動けるのか限界に向かって動きを速めていった。
徐々に速めていくと、次第にアスの顔色が変わっていく。
今まで避け続けていたはずのアスだったが、時々避けずに護るようになったのだ。
「避けるだけじゃなかったの?」
「もうサービス期間はお終いだぜ。そろそろこっちからも攻めさせてもらうからな」
アスが火炎球を地面に撃ちつけ、その爆発で土煙が辺り一面に舞う。
しまった。この土煙のせいでアスの姿を見失ってしまった。
一瞬の隙をつかれてアスが背後から回し蹴りを繰り出し、私の背中に衝撃が走った。
「レディーにはもっと優しくしなさいよね」
何とか倒れるのを堪えて、アスがいた場所に向かって振り向きざまに裏拳を繰り出し
たが、すでにアスはその場にいなく、その拳は空しく空を切るだけだった。
そして再び爆音の後に土煙が舞った。
また目くらましのつもりなのだろうが同じ手は食わない。
すぐに自分の周囲に風を巻き起こし、宙に舞う土煙を吹き飛ばした。
「おわっ」
しかしその風が思ったよりも激しく巻き起こり、土煙の中に紛れていたアスまで一緒に
吹き飛んでいった。
おかしい。この魔法で人を吹き飛ばすような事は出来ないはずなのに。
それにこの体の軽さ。私の中で何かが確実に変わっていた。
「そこまで」
アスを吹き飛ばしたところでロイが「止め」の合図をした。
「ちょっと待て。まだ勝負はついてないぞ!」
それを不服そうにアスがロイに言葉を投げるが、
「勘違いしないで。これは肩慣らしなんだからもう十分。それにリンさんの違和感の正体
が分かったし、これ以上やる意味がないよ」
「だけどやられっぱなしで引き下がれない」
「そんな事言ってる場合じゃないよ。あまりのんびりしてる時間もないんだから」
「そうだよ。女の子相手にムキにならないの!これじゃあアスお兄ちゃん、子供みたい」
あはは。子供に子供って言われてるよ。
しばらく悔しそうな顔をしていたが、すぐに気持ちを切り替えたらしい。真面目な顔をし
て私に質問をしてきた。
「俺もリンの違和感の正体ってのは何となく分かった。リンは自分で何か感じたか?」
「最初はそれほど感じてはなかったんだけど、動いてるうちにいつもよりもすごく体が軽く
感じたね。まるで羽が生えてるみたいだった。それにあれだけ動いてもそれほど疲れが
きていないし、軽く土煙を飛ばすだけの風がアスを吹き飛ばしちゃったのも驚いたよ」
今も手を抜いたと思えないアスと互角にやり合えてたし、まるで自分が強くなったよう
に感じた。
「間違いなく、リンさんは格段に強くなったんだよ。これは想像だけど、サギアに操られた
ときに自分の体の限界を超え、魔力封じの腕輪を壊すときに魔力の限界を超えた。それ
がきっかけになって自分の力を今以上に出せるようになったんじゃないかな?」
「俺も強くなったようには感じたけど、そんなすぐにこんな力を使えるようになったって事
は体に負荷がかかってんじゃないのか?あれだけ動いておいて疲れを感じないってはお
かしいだろ?」
「それもそうだね。体に異常とかはないですか?」
「・・・大丈夫みたい」
言われてから体のあちこちを曲げたり捻ったりとしてみるが、特におかしいところは感
じられなかった。
痛みを感じないとかではなく、普通は曲がらないような方向に腕を曲げたりすれば当た
り前のように痛みは感じるので、痛覚がおかしいわけでもない。
至って普通の状態であった。
その後も私の体の事について色々話していたのだが、ここで考えても仕方ないのでそ
の話は終わりになった。
そしてその後に突然アスが思い出したように言った。
「お前も神剣の試験受けてみたらどうだ?」
「神剣の試験?」
いきなりそんな事を言われても私にはさっぱり分からない。
それを察したアリシア・シンシアが丁寧に説明をしてくれたので理解をし、アスに出来
たなら私にも試験は出来ると強気になって受けてみることにした。
最初はアリシアの召喚獣で獅子の姿をした「白帝」が相手だった。
剣がないのでロイに借りて戦っていたのだが、白帝の表面が金属で出来ているらしく
剣では傷一つ付けられないでいた。剣は使えないらしい。
さて、どうしたものか。攻撃速度は速いけど今の私なら気をつけていればそれほど焦る
こともないと思う。でも表面が金属で出来ているから普通の剣では切れないそうにない。
そうなると魔法を使うしかないのか。
そうなると有効そうな魔法は・・・・・・。
「電撃(サンダーボルト)!」
金属には電気だと思い魔法を放つが・・・・・・電撃を吸収されたらしい。
「無駄ですよ。この白帝は電撃だけではなく、他の魔法も吸収します」
それ、反則でしょ。
アリシアに突っ込みを入れたくなるが、今はそんな事を考えている場合じゃない。
少なくともロイはこれを倒したんだから、何か攻略法はあるはず。それを考えないと。
そうは思いつつも、アリシアの言ったことを信じれなかったので試しに他の魔法も使っ
てみた。
しかしどれも効果なし。本当に吸収されていた。
困ったな〜。何か私の知らない魔法じゃないと倒せないのかな〜。
でも確か最近すごく反則的に使えるような魔法を使ったような気がしなくもないんだけ
ど・・・どこで使ったかな?
「リン!危ない!」
「えっ?!」
考える方に気がいってしまっていた。
目の前を見ると白帝の爪がすぐ目の前に迫っていた。
これは間に合わないと思ったが、ギリギリ剣で受けることが出来た。が、剣にヒビが入
り使えなくなってしまった。
一瞬の気も許せないな。考えてるせいで反応速度も若干落ち気味だ。
でも今はこの記憶の片隅にある記憶が倒す手がかりになるかもしれない。何としても
思い出さなくては。
ん?・・・剣。・・・ああ、そうだ。
使えなくなった剣を見て私は思い出した。
そして私はすぐにそれを実行する事にした。
次に白帝が来たときがチャンスだ。一撃で決めてやる。
「グオォォォォ!」
無防備になり白帝の攻撃を誘う。
案の定、隙を見せたことで白帝が接近して、そして鋭い爪で襲い掛かってきた。
「今だ!」
すかさずその攻撃をギリギリで避け、手に持っている『剣』で白帝の体を上半身と下半
身の2つに切り裂いた。
そして2つに体を切り裂かれた白帝は咆哮を上げながら空間に溶け込むように姿を消
していった。
「ふぅ。これで1つ目突破だね」
白帝を倒し緊張の糸が切れたためにその場に座り込んだ。
「お前『アレ』を使えるようになってたんだな。全くどこまで強くなってんだよ」
「最後のはすごかったですね。噂では聞いていたけど、実際には初めて見ましたよ」
「リンお姉ちゃんすごーい。人間で『アレ』を出来るなんてそうはいないよ〜」
「『アレ』を使えるなら他の試験はいりませんね。使えるだけで十分実力は分かります」
4人が座り込んでいる私に向かって言葉をかけてくる。
「でもかなり疲れちゃったよ。魔力を一気に消費した気分」
みんなが『アレ』と言っている、最後に私が白帝を切り裂いた『剣』。
あれはサギアに操られたときに使っていた魔力で出来た短剣の剣バージョーン。
あの時はアスの剣を一瞬で溶かすほどの恐ろしさを持っていた。それなので白帝がい
くら金属で出来ていて硬くても溶かせるだろうと思って使ったのだ。
予想は正解。しかし溶かして切るはずなのに、何事もないようにスパッと切れたのはす
ごかった。
あの剣なら何でも切れるような気がする。
サギアに操られていたときの事をさっぱり忘れていたら魔力の剣は使えなかったし、こ
こは魔族サギアに感謝しておいてあげよう。
さっきアリシアが言った通りこの後の試験はなくなり、私は神剣を抜くために神剣の前
に立っていた。
「さあ、どうぞ抜いてみてください」
「うん」
柄に手をかけ握った。その瞬間に軽く痺れがあったが、それはすぐに収まる。
少し落ち着いてから引き抜こうとするのだが・・・・・・全然抜けなかった。
「あぁ、お前もダメだったのか」
アスが諦めたような口調で言う。
「ちょっとアス!こっちに来て一緒に抜くよ!」
「おいおい」
私の言葉に呆れながらこっちを見ている。
いや、アスだけじゃなく他も呆れていた。
「こっちに来て一緒に抜くよ!多分私の力が弱いせいだと思う。男のアスが来れば抜け
るかもしれないじゃん」
「そんな事したって意味ないって」
ブツブツ呟きながらも私の方に来て一緒に柄を握った。
「無理だと思うけどな」
「ここまで来てグチグチ言わないの!ほら、抜くよ。えぃ!」
2人で抜くっていうのは軽い冗談だった。
ただ単に抜けなかったのが悔しいから「一緒に抜こう」とアスに言っただけなのだ。
本当に単に冗談だったのだ。
ただ冗談だったのに・・・・・・冗談だったのに・・・・・・なぜか私とアスの手の中には地
面から抜かれた神剣があった。
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