「抜けちゃった」
「ああ。抜けたな」
凍りついたような沈黙を破り、私は呟いた。
私では抜けない、アスでも抜けなかった神剣が、2人で抜いたら抜けちゃったのだ。
これは夢だろうか。
アスの頬をつねってみるが痛くない。
ああ、それなら夢かと思ったのだが、
「いてて。夢か確かめるなら自分のをつねろよ!」
うん、それもそうだ。アスをつねって自分に痛みが来るはずがない。かなりパニクってい
るようだ。
周りを見ると、ロイどころかアリシア・シンシアも呆けた顔をして何も声を発しない。
そんな時間がしばしの間静かに流れた。
「驚きましたね。まさか2人で抜いたら神剣が抜けるとは。予想にもしてませんでした」
「うん。驚きだよ〜」
2人が驚きを隠せない口調で言った。
「これは誰でも驚くと思う。まさか2人で1つの神剣の持ち主なんて予想出来ないよ」
それに反応してロイがポツリと言う。
確かにそうだ。てっきり1人の誰かが神剣の持ち主になると思いこんでいた。
それが私とアスの2人1セットで持ち主になっちゃうなんて人生何が起きるか分かった
ものじゃない。
とりあえず神剣を持ち上げてみようとしたのだが、重くて1人では持ち上げれなかった。
これはやっぱり・・・・・・。
「アスも神剣持って」
予想通りアスと一緒に持つと今まですごく重かった神剣が軽々と持ち上がった。
「2人じゃないと神剣が使えない以前に持ち上げることも出来ないのか」
「そうみたいだな」
あれから色々試してみた。その結果お互いが柄を握っていなくても、体の一部が触れ
ていれば持ち上げることは可能だった。
しかし神剣がどれほどの力があるのかは知らないが、2人一緒にいないと使えないの
ならあまり実用的ではない。宝の持ち腐れだ。困ったな〜。
『神剣の持ち主よ』
突然どこかで誰かの声がした。私よりもっと年上の女の人の声だ。
「「誰?」」
私とアスがハモった。アスにも今の声は聞こえたようだ。
しかしロイには聞こえないらしく、「何?どうしたの?」みたいな顔でこっちを見ていた。
「2人が聞いたのは神剣の声です」
「「神剣の声?」」
「ええ。神剣は意思を持っています。その意思が使い手であるあなたたちに話しかけた
のでしょう。神剣の声に耳を貸してください。その声があなたたちに神剣とは何かを教え
てくれるはずです」
そうするとアリシアは口を閉じた。
よく分からないが言われた通りに神剣の声を聞いてみよう。
私は目を閉じて神剣の声に耳を貸してみる。
『神剣の持ち主よ』
目を閉じて声を聞こうと集中すると、神剣の声がさっきよりもはっきりと聞こえた。
『神剣の持ち主よ。我が名はゼクシア。神剣ゼクシア』
とても威厳に満ちたような声が頭の中で聞こえた。
『『・・・ゼクシア』』
あれ?声がおかしい。私が呟いた声が誰かと重なっているように聞こえる。
それだけじゃない。これは誰かと意識が混同しているようだ。
私が考えていないような事が頭の中に流れ込んでくる。
考えるまでもない。その誰かはアスだろう。
神剣に耳を貸すときに一時的に融合してしまったらしい。
『つい先日、魔剣を持つものがこの聖域を訪れました。私の使命は魔剣を滅ぼし、魔族
を滅する事。汝、我と意思を同するものとして持ち主となりて共に魔を滅ぼしましょう』
『『ちょっと待った!1つ聞きたいことがあるんですけど』』
神剣が使命がどうこう言っているのだが、それよりも先に知りたいことがあった。
『何ですか?』
『『どうして1つの神剣に2人の持ち主を選んだんだ?』』
私が言おうとしたことをアスが言う。とはいっても、声は相変わらず重なっているんだけ
どね。
『・・・・・・どういう事ですか?』
『『だから何で私とアスの2人でないと使えないのに、2人の持ち主を選んだのかって事
だよ。あれだと満足に神剣持って戦えないよ!』』
『そんな・・・そんな・・・うぅぅ。ウワーーーーン』
『『え?』』
私たちが質問していると、突然神剣ゼクシアが泣き出した。
『やっとあたしを使ってもらえると思ったのに、2人じゃないと使えないなんて過ち犯すなん
て・・・・・・ウワーーーーーン。あたしのバカ〜〜〜〜〜〜!!!』
最初の威厳に満ちたようなゼクシアはすでにどこにもいなかった。
今ここにいるのは泣きまくってる子供のような誰か、だ。
『『あ、あの〜。もしも〜し。とりあえず泣き止んでくださーい』』
調子が狂う。すごく狂う。何でここで泣き止ませないといけないような状況になるんだろ
う。相手が神剣とは思えない。
世界を護る神剣なのに、その意思がこんなだと力の程が不安で堪らない。
『グスン。ゴメンね。もう大丈夫。あたしがそれは何とかするから。じゃあ仕切り直し』
やっと泣き止んでくれた。
全く。人の頭の中で泣かれると五月蝿くてたまらなかった。
『神剣の持ち主よ。我が名はゼクシア。神剣ゼクシア。『つい先日、魔剣を持つものがこ
の聖域を訪れました。私の使命は魔剣を滅ぼし、魔族を滅する事。汝、我と意思を同す
るものとして持ち主となりて共に魔を滅ぼしましょう』
あ〜。本当に最初から仕切り直してるよ。
しかもさっきまで泣いていたなんて嘘みたいに威厳に満ちた声に戻ってる。
今更威厳に満ちた声しても遅いのに。ファーストインパクトで失敗しちゃったからね。
その後神剣について詳しく知り、私たちは聖域へと意識を戻した。
さて、意識を戻してからがまた驚きだった。
3人の話によると、何と私とアスの体が融合したというのだ。
私たちが神剣と話をしている最中に急に私たちの体が光りだしたかと思うと、その場に
いたのは融合した私たち1人だけだったらしい。
ゼクシアが「何とか」するといったのはこういう事だったのか。
ちなみに私たちの融合後の姿は体のベースが男のアスで、髪はアスの赤髪で瞳は私
の緑色って、全部アスの体になってんじゃん!
瞳は2人とも同じ色だからな〜。どっちとも取れるんだよな〜。
まあアスの短かった髪が長くなったとこだけは私の姿を次いでいるんだけどね。
もしかしたらこの可愛い輪郭も私譲りなのかもしれない。
「そういえばこの姿で私が話してるけどアスの意識みたいなのはどこだろ?」
「ここにちゃんといるぞ」
自分の口からアスの声がした。
「うわっ!なんか自分の口から違う声が出ると不気味だ」
「それは同感だが、この姿だとほとんど俺そっくりだから、お前の声で喋る方が他人から
見れば不気味なんじゃないか?」
「そうなの?」
他人の3人に聞いてみる。
「えーっと、僕は否定しないよ。そもそも同じ口から違う声を発することに不・・・違和感じ
るからね」
「私はアスさん似の人からリンさんの声がするのは別に不気味とは思いませんよ」
「あたしは変だと思うよ。でも腹話術で稼げそうだからいい体だね」
最後のは何だろう。スルーでいいのかな?
『いいよ。ガキのいう事は無視しとけば』
私の疑問に頭の中でアスが答えた。
こんな芸当も出来るのか。すごいというより、頭の中を覗かれているから怖い。
『勝手に人の頭の中覗かないでよね!』
『心配するな。大丈夫だよ。お前が思ったことがそのまま俺に伝わるだけで、記憶とかは
一切覗くこと出来ないからよ』
『そう断言したって事は覗こうとしたね?』
『・・・・・・』
はぁ。ノーコメントは肯定の意味だ。
殴って文句を言いたいところだが、体を共有している限りはそれは叶わない。
「リンさん!」
ロイに呼ばれて私はこっちに戻ってきた。
「どうしたんですか?急にボーっとしちゃって」
「いや、頭の中でアスと話してた」
「へぇ〜。そんな事出来るんですね」
「そうみたいだね」
そっか。アスと頭の中で話すときは体が無防備になるのか。気をつけないとだ。
地面に刺さっていた神剣を再び抜こうと柄を持ち引き抜く。
今度は簡単に抜けた。やっぱりアスと私は体が融合したんだな〜と改めて実感。
『ところで俺は外に出れないのか?』
『ん〜。どうなんだろう。変わり方分からないし』
私もそれは思った。でもやり方が分からず変わることが出来ずにいた。
すると、私たちの頭にゼクシアの声がした。
『それは外に出ている方が入れ替わっていいと思い、中にいる方が入れ替わりたいと思
えば出来ますよ。ただし、我を持っている時限定であり、入れ替わるごとにあなたたちの
魔力を必要としますけど』
言われたとおり試しに入れ替わってみた。
「おお。本当に出てこれたぜ。魔力は・・・減ってるな。変わった瞬間に体から魔力が抜け
た感じがしたわ」
「でもこれくらいなら1日に何回かは変われるね」
「そうだな」
『あと言い忘れましたが、1日に1回は入れ替わらないと死ぬので気をつけてください』
それは忘れずさっき言いなさいよ。もしこのまま忘れられてたらとんでもない事になって
たじゃん。
ここでの用事もパプニングがありながらも済んだ。
それなので魔族を探しそれを退治。それと魔剣の持ち主を探し破壊するために聖域を
去ることにしたのだが、不可思議な事が起きていた。
魔族の居場所は神剣の力で知ることが出来るのだが、その魔族の数が13体いたはず
がすでに残り3体になっているのだ。
「どういう事だ?」
「僕に聞かれても知らないよ」
「アリシアたちは何か知らないのか?」
「いえ。エスペリアさんが道中で戦っていると思われるので少しは減ってると思いました
が、ここまで減っているのはあきらかにおかしいですね」
ゼクシアが突然話しかけてきた。
『おそらく魔剣の仕業でしょう。魔剣は強いものを斬るとその力を自分の力にする事が出
来ます。そのために魔族を切り殺していると思われます』
『『でもそれなら何で封印石から開放したときに殺さなかったんだ?』』
『時間つぶしに遊んでいるのでしょう』
『『時間つぶし?』』
『ええ。おそらくあの魔剣がこの世界に来た目的は神剣である我を破壊すること。互いに
互いを破壊することは、神剣・魔剣の本能なのです。それに魔剣にはさっき言った通り、
強いものを斬るとその力を自分の力にする事が出来ます。それは神剣である我も例外で
はありません。我が、汝が、魔剣に敗れることはこの世界の危機に晒されるかもしれませ
ん』
『『なるほど』』
つまりは神剣が破壊されると魔剣に力を吸収されて、もう手も足も出なくなってしまうの
か。
さっき神剣から聞いた事をロイたちに伝えた。
魔剣が魔族を狙っている以上、魔族に取り付かれたルイも危ない。
幸い、神剣の力があれば取り付かれたルイを救い出すことが出来るらしい。
それなのであっちよりも早くルイを見つけ出し救わなければならない。
あっちは人間に取り付かれていようが、人間の体ごと平気で斬るに違いない。
しかし魔族の居場所はそれぞれ離れた位置にいるので、1回で当たらないと先にあっち
に殺されてしまう可能性もある。
神剣の力をフルに活用して、魔族に取り付かれたルイを判断出来ないか試してみる。
少しの時間の末、れっきとした確信は無いが他の2つとは若干気配の違う魔族の気配
を感じた。
いちかばちかの賭けになるが、そこに行ってみるしかない。
「例の事、早急に頼んだぞ」
「ええ。一刻も早くやります。それまでは生き延びてください」
そして俺たちは魔族の下(もと)へシンシアたちによって転送された。
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