第28話 最後の戦い


 俺たちが転送されてきたのはグラン国の港街、ラクーン・シティの街外れにある森林公

園だった。ここには最近来たことがある。

 そう。ここはあの魔族サギアと戦ったところだ。

 そうなるとルイに取り付いた魔族というのはもしや・・・。

「待っていたぞ」

 声と共に空中から姿を現したのはルイの姿をしたサギアだった。

 ゆっくりと地面に降りてくる。

「ここで待ってても来なかったかもしれないだろ?何で王都で待っていなかったんだ?」

「あのままあそこにはいるとやつに見つかるからだ」

 どこか怯えた様子で語るサギア。

「奴ってのは魔剣を持った男の事か?」

「そうだ。神剣を持った貴様にならすでに分かっているのだろうな」

 どうやら俺の持つ剣の魔力で神剣と分かったらしい。

「じゃあすぐにお前はやられるって事も分かっているんだよな?」

 俺は神剣をサギアに向かって構える。

「ま、待て。この小娘の体は返そう。だか―――」

「だから見逃せってか?それは出来ないぜ」

 何を言われようが見逃すつもりはない。

 ここで仮にルイを殺すような素振りをしようとも、全神経を集中している今はそれよりも

先にサギアを倒せる自信があった。

「うぐぐぐ・・・」

 それをサギアも本能で悟っているのだろう。唸るばかりで何も行動に移せないでいる。

 そして問答無用でサギアを倒そうとしたとき、サギアに向かってロイが叫んだ。

「俺と戦って勝てたら見逃してやる!」

「ロイ?!何言ってるんだ?」

 ロイの言葉を俺は疑った。

「頼む。俺にこいつはやらせてくれ。ルイは返すって言ってるんだ。だから神剣の力は必

要ない。仲間の敵を俺の手で取りたいんだ」

 そう俺に語りかけるロイに負けて、俺はあえて勝負を認めた。

 あの決意の瞳なら負けることはないだろう。

「ふぅ。分かったよ。俺は手を一切出さない。すべてお前に任せる」

「こっちの話はついた。だからルイを返して俺とサシで勝負しろ!勝てば見逃す」

「今の話は本当だろうな?」

 サギアが俺に向かって聞いてくるのを軽く受け答えてやった。

「ああ。ロイが負けるとは思わないしな。だがもし仮にロイに勝てたら見逃してやるよ」

「分かった」

 そしてサギアはルイの体から抜け出した。

 

 

 ロイとサギアの戦いは明らかにロイが勝(まさ)っていた。

 これは勝負にならないような戦いだ。

 リアにやられたときの傷が癒えていないのだろうか?

 おそらくそうに違いない。だからこそ自分の身の隠し場所として人間の中に入り込んで

いたのだ。

『一方的だね。もしロイが剣を持ってたらもうやられてるんじゃないの?』 

『多分そうだろうな。それでももうすぐ決着がつくな』

 サギアお得意のレーザー攻撃も出す気配が無い。それほど弱っているのだろう。

『何か一方的でサギアが可哀相』

『魔族に同情するな。あいつはこれまでに何人もの人間を殺してきたんだ』

『うん。そうだよね』

『・・・・・・』

 静かにロイとサギアの戦いを見守っていた。

「弱いな。こんなやつに仲間がやられたのか。くっそ!」

 時折ロイの嘆きが聞こえてくる。

 それと同時にサギアの声も聞こえてきた。

「まだここでやられるわけにはいかない。いかないのだ」

 サギアはどれだけ傷つこうとも勝てないと分かっているはずなのに必死に戦っていた。

 その姿を見て何かおかしいと思った。いくらなんでも生にこだわり過ぎる。

 魔族はこの世界でやられても魔界で長い時間をかけて復活することが出来ると聞いて

いる。それならばここまで生にこだわらなくてもいいのでは?

 そう疑問に思っていると、

『来た』

「ふっ、魔族の恥さらしが」

 ゼクシアの声と同時に、突然聞いたことの無い女の声がした。それとほぼ同時に、サ

ギアと同じレーザー攻撃がサギアの体をいくつも打ち抜いた。

「ぐあぁぁぁぁ!」

 絶叫をあげるサギア。

 それに追い討ちをかけるようにサギアの体は赤き刃により真っ二つに引き裂かれた。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 その絶叫と共にサギアの体は塵のようになり、赤き刃へと消えていった。

 そう。魔族の女サテラと、魔剣を持った男が現れたのだ。

 

 

「お前が魔剣を持つ者か」

 この男の発する殺気は凄まじい。それと同時にこの男の強さも窺(うかが)い知れる。

 さらには魔剣の発する禍々しい魔力も不愉快この上ないが、それが魔剣自体の強さな

のだろう。

「貴様が神剣を持つ者か。あの女はどうした?あの女が持ち主になると思って、そこに転

がってる魔族から殺されるところを助けてやったんだがな」 

 そうか。こいつがリンを助けたのか。

「安心して。私は今この男と融合しているわ」

 俺の口を使ってリンが喋る。

 それを知って興味深そうに男は俺を見た。しかし興味深そうに見た割には淡々と、

「ほぉ。貴様ら融合体か。だがそんな事で力の無駄使いをしているようでは俺の相手に

はならんな」

「やってみないと分からないぜ!」

 俺は神剣を抜き、男に斬りかかった。

 男は魔剣でそれを受ける。

『何万年ぶりだ。貴様とやり合うのは』

『カオス。あなたとはもう2度と戦いたくなかったですよ』

 斬りあうたびに2つの剣は語り合っている。

 どうやらゼクシアは延々と昔にこの魔剣と戦ったことがあるらしい。

『何であなたはこの世界に来たんですか?あなたはこの世界に存在するべき剣ではな

いです』

『力だ。俺は力が欲しいのだ。そして存在するすべての神剣・魔剣を破壊し、その世界も

滅ぼし、俺が最強の剣になるのだ!』

『愚かな。破壊の先にあるのは無だけですよ』

『そんな言葉は聞く耳持たん。俺たち魔剣はすべてを破壊するために作られたのだから

な。与えられた使命を果たすだけだ』

『それならばここから先はもう何もあなたにいう事はありません。我は我の与えられた使

命を果たすのみです!』

『小癪な。返り討ちにしてやる!』

 魔剣の叫びに反応して男はより一層の力で斬りかかってくる。

「くっ!」

 力負けしている。このままだとヤバイ。

 だが突然男が後ろへ引いたために俺は助かった。

 どうやらロイが魔法で援護してくれたらしい。

「あれは邪魔だな。殺すか」

 男はロイの方に向かって走る。

「そうはさせるか!」

 すぐさま男を追って後ろから斬りかかる。が、それは避けられる。

 攻撃は当たらなかったが、ロイの方には俺が先に着くことが出来た。

「ロイ。早くここから逃げろ。魔剣の真の力はこんなものじゃない」

 男からは目を逸らさずにロイにルイを連れて逃げさせた。

「サテラ。あの男を追って殺せ」

「了解。マスター」

 男もサテラを使ってロイを追わせた。

 くそっ!神剣の力なら魔族なんてすぐに倒せるのに、魔剣が相手となると一瞬の油断

もならないので助けることも出来ない。

 生き残れよ、ロイ!

 

 

 ロイを逃がしてから少しが経った。

 まだ相手が魔法を使わないのが幸い。

 今のうちにこの街から離れないと魔法の被害で危険だ。

 だが行動に移すのが遅かった。

「なかなかやるようだが、そろそろ終わりにしよう」

 魔剣の魔力が一気に増大する。

「禁呪『流星』」

 男はその増大した魔力を天に向けて放った。

 その数秒後には天から小隕石の雨が無数に降り注いでくる。

 それを俺は神剣のシールドで防ぎ事なきを得たが、ラクーン・シティは一瞬にして壊滅

状態なってしまった。

 俺のあたりは多くのクレーターだけが存在していた。街の名残なんてものは一切見受

けられない。地形をほんの数秒で変えてしまったのだ。

 ゼクシアに聞いて禁呪(魔剣魔法)の存在は聞いていたが、これは完全に人外の魔法

だ。明らかに普通の魔道士などでは歯が立たない。神剣を持っているからこそ、俺は生

きているんだろうな。

 

 

 これが魔剣の力なのか。恐るべし力だ。
 

 

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