第2話 こいつって馬鹿なのか?


 山賊はみんな倒したのであの後もう一度山賊のアジトに戻って残りの奪われた物も

取り返し、今はこの森を抜けて山賊から取り返したものを届けるため街を目指してい

る。

「そういえば、王女様は何でさっき山賊に追われてたんだ?」

「うん?それは今向かってる街で依頼を受けてね。山賊から奪われたものを取り返して

欲しいって言われたから取り返しに行ったのさ。そしたらちょっと手違いがあって・・・」

「へぇ〜、それであんな事になってたわけだ」

 ちょっと嫌味を言う風にアスは言った。

 それにちょっとカチンとくるとこはあったが、まあ助けてくれたし我慢我慢。

 しかしこいつ何だろ。私いちお王女なのに会ったときからほとんどタメ口なような気が

する。仮にも聖騎士なんだから王女には常に敬語使うものなのでは。

 敬語使ってたのは自分の任務を遂行しようとしてた時だけだったと思うし。

 気になるから聞いてみると、普通にこう言ってくれちゃいましたさ。

「だって王様から呼び戻せって言われて王女様の顔写真もらうまで顔知らなかったし。

で、実際会ってみると普通の小娘にしか見えないからかな」

「な、な、な」

 私は声が出なかった。予想にもしない答えが返ってかなり驚いた。

 聖騎士のくせに王女の顔を知らないって・・・しかも普通の小娘って。

 私これでも王宮の中では15歳には見えないほどお美しいって言われたこともあり

容姿には自信があったのに。

 この破れたローブ姿がいけないのだろうか。

「はぁ。写真で見たときは年の割りにもっと色っぽいと思ったのにこんな小娘だったと

は」

 私に聞こえないように小声で言ったのだろうが、私はその言葉を聞き逃さなかった。

 なんかかなりショックだ。

 まあ背はやや低いし、胸もやや小ぶりなのは認めるけどさ・・・。

「まあそんな気にするなって。それに人前で俺が年下のおまえに敬語使ってると何か

怪しまれるかもじゃん?」

 私が言葉に詰まってると笑いながら そんなことを言ってくれましたよ、こいつは。

「まあそんなわけだから王女様って言うのもやめとくな。これからは・・・えーっと・・・」

 アスは言葉の途中で何か考え始めた。

 これってもしかしてのもしかして、私の名―――

「名前何だっけ?」

 予感的中。

「このっ!馬鹿騎士がー!」

 さっきの怒りも込めてすかさず容赦なしの本気でこいつの顔めがけて殴ってやった。

「がはっ!」

 アスは後ろへ倒れ、「ふっ、いいパンチ持ってるじゃねぇか」とどこかのスポ根みたい

なセリフを言い残し気絶した。

 こいつ絶対馬鹿だ。と言うかホントに聖騎士なのだろうか?

 うぅぅ。これからこいつと旅するのか。何かこいつにペースを持っていかれそうでイヤ

だな。

 そんなことを考えながら気絶しているアスに未だ晴れぬ怒りを込めて蹴りを入れ続け

た。

 

 

 アスが意識を取り戻すのを待って私たちは再び街へ向かった。

「いや〜、さっきのパンチは効いたなー。しかし顔の他にもあちこち痛いのは何でだ?」

 アスが少し腫れた頬を擦りながら言った。

「ふん!知らないよ。私を怒らした罰なんじゃないの?」

「悪かったって。さっきのはほんの冗談。名前くらいは知ってるよ。リンだろ?リン=ディ

ア=エル=イース」

 さっきのが冗談ね〜。どう見てもホントに忘れてた顔にしか見えなかったけど。

「まあこれくらいの痛みなら治癒の魔法を使えば一発だからいいか」

 そう言うとアスの体が少し光ってみるみるうちに顔の腫れなどが癒えていった。

「はい、完治」

 すごい。私の治癒の魔法だと顔の腫れを治すのに多少時間かかるのにアスの魔法

は一瞬で治してしまった。

 馬鹿だけどいちおは聖騎士ということか。

 私が関心していると、アスが思い出したように聞いてきた。

「そういえば依頼の品って何だったわけ?」

 そう聞かれたので私はアスに皮袋の中にしまってあった、山賊から取り返したテニス

ボールくらいのものを見せた。

 それを見てアスは一瞬目を見開いた。その顔がちょっと面白く心の中で笑ってしまっ

た。

「これってオリハルコンだよな」

「うん。そうだよ」

 オリハルコンとは絶対不滅の金属であり、金よりもはるかに高価なものでかなりのレ

ア物である。おそらく世界中で見てもそれほど存在していないだろう。

 今私の手の中にあるオリハルコンだけでも、小さな城くらいなら買えてしまうくらいの

値打ちがあるだろう。

「すごいな。これの依頼人ってどんな人なんだ?」

「よく知らないけどえらい人らしいよ。直接会ったわけじゃないからどんな人か分からな

いけどね」

「なるほど。資産家ってわけか」

「依頼受けたのはギルドだったけど、返しに行くときは実際その人に会うからどんな人

か見れるはず」

 ちなみにギルドとは色々な仕事を紹介してくれるところで、旅をしてる人はそこで仕事

を受けてお金を稼いでいる。

 アスから何か返事が返ってくると思ったのに全然返事が返ってこなく、アスの方を見

てみると難しい顔をして私の手の中のオリハルコンを見て何か考えてる様子だった。

 よく見ると時折にやけたりもしている。

 もしかしてこいつこのまま・・・。

「なあ。これ返さないで俺たちで貰っちまわないか?これだけあれば当分遊んで暮らせ

るぜ。どうだ?」

 やっぱりそれを考えていたか、この馬鹿騎士は。

「いいわけないだろー!」

 今度はすかさず火炎球を打ち込んでやった。

 それは一直線に飛んでいき、アスの体に着弾するとアスの体は一気にと燃え上がっ

た。

「アチッ、アチッ!」

 アスはたまらず悲鳴を上げたが、体をクルリと一回転させるとアスの体を燃やしてい

た炎はすぐに消えた。

 あんな簡単に火を消すとはやっぱりこいつ強い。

「いきなりひどいな〜。あれはやりすぎだろ?軽い冗談なのによ。大体・・・」

 アスが私に非難の声を浴びせてきてるが私はあえて無視した。

 ん?よく見るとさっき燃えてたはずなのにアスの服や髪は全然焦げた後がない。

 さっきの火炎球って実は全然効いてなかった?

 って事はさっきの『アチッ、アチッ!』ってのは演技だった?!

 何か馬鹿にされた気がして悔しいぞ。

「おーい。聞いてるか〜」

 そんなことを考えていてアスの言うことに何にも反応していなかったことを不思議に思

い、アスが私の顔を覗きこんできた。

「きゃ!」

 いきなり目の前いっぱいにアスの顔が現れたので思わず悲鳴を上げてしまった。

 その悲鳴を聞き、アスはニヤニヤ笑いながら

「ふふ、可愛い声上げちゃって可愛いな〜」

 私は恥ずかしさ一杯と、さっきの悔しさを込めて再びアスの顔めがけて殴りかかっ

た。

「この馬鹿騎士がー!」

 今度は拳に炎をまとわせて炎のパンチという形でだ。

 そしてアスはまともに喰らい再び後ろへ倒れ、「おまえのその熱いパンチは最高だ

ぜ」などとまたスポ根みたいなセリフを残して気を失っていった。

 

 

 はぁ〜。こいつといると疲れるよ。マジで。
 

 


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