「それなりに大きい街だな」
街に入るとアスが言った。
「この街は港町だからね。人の出入りが激しいし自然とこうなるんでしょ」
ここはイース王国のセーム・シティという港街で、船で色々な国との交易の中心となっ
ている街である。
色々な国との交易の中心のためにこの街には色々な国の人がいる。
白人もいれば黒人もいるし、普段は滅多に大勢の人の前に現れず自分たちの村で
静かに暮らしてる物作りのエキスパートと言われているドワーフまでいたりする。何で
も時折ドワーフの中での変わり者が自分たちの作ったものを売りにくるらしい。
まあ人が沢山いればいるだけ事件も起きるわけで、まあ毎日のように喧嘩がどこか
で起きていて治安は少し悪い街なのかもしれない。
「そういえばあれはどうしたの?」
「あれ?」
「うん。さっきまで着てた聖騎士団の甲冑」
この街に入る少し前にアスは「ちょっと先に行って入り口で待ってて」と言いどこかに
姿を消した。
そして言われたとおり街の入り口で私が待ってると五分くらいして戻ってきたのだが、
そのときにはさっきまで着ていた聖騎士団の甲冑を着ていなかった。それと剣も持って
いななかった。
それなので今のアスの格好はTシャツにズボン姿で、はっきり言ってそこら辺にいる
街の青年と何ら変わりなかった。
城にいたとき見た他の聖騎士は普段着でいるときもどこか聖騎士らしいオーラを放っ
ていたのだが。
この姿で「自分は聖騎士だ」と言って信じる人はまずいないだろう。
「ああ、あれ着てると聖騎士ってすぐバレるから土の中に埋めてきた」
アスはさらりとそんなことを言った。
「マジデスカ」
私は呆れたね。もう心底呆れたね。また殴りたいけどもう疲れて殴る元気ないや。
王から授かった大切な聖騎士の甲冑を土に埋めるとは。絶対にこいつ聖騎士でいる
べきでないよ。
何でこんなやつが聖騎士になれたんだろう。
今すぐ城に戻って親父に聞きたいとこだけど、戻ったらもう城から逃げれないだろし
戻れないか。
「あれ?殴ってこないのか?」
おそらく殴られると思たのだろう。殴ってこない私にアスは不思議そうに聞いてきた。
「今日はもう疲れて殴る元気ない」
私は力なく答えた。
「そっか。今日は山賊に追われて逃げてたしさすがに疲れたよな〜」
その言葉を聞き、『違う!それは違う!私が疲れた原因は9割方あんただよ!』って
言う元気もないくらい疲れてるみたいだ、私。
これの依頼の品は明日届けることにして今日は日が暮れてきたしさっさと宿屋に戻っ
て寝よっと。
「今日はもう疲れたから宿屋に戻って寝る」
一言そう言って私が宿屋に戻ろうとすると、
「ちょっと待った!」
アスが私を引き止める。
何かと思いアスの方を向くと、アスは苦笑いをしながらこう言った。
「俺さ、金持ってないんだよね。だからお前の部屋に一緒に泊めて」
もう突っ込む元気がなかったので少し酷いと思ったが、「いやです。お金がないなら野
宿してください」と言い私はさっさと人ごみの中へ紛れた。
「ちょっと、おい。それはいくらなんでもないだろ。戻ってこいって」
アスが何か言っていたが無視して私はそのまま宿屋へ向かった。
俺が引き止めてるのにリンはどんどん人ごみの中へ入っていき消えていった。
もう見えなくなり1人残された俺。
「あーあ、ホントに俺を置いて行っちゃったよ。冷たいやつだな、もう」
そう言いながらも口元は笑っていた。
「でもなかなかあいつといると楽しいかもしれないな」
そんなことを思っていると俺の目の前で全身を覆うようなフードを被ったやつが立ち止
まった。深くフードを被っているために顔は見ることが出来ない。
「あなたはこんなとこで子守でもしてるんですか?」
フードを被ったやつが俺に問いかけてきた。
とても澄んでいて綺麗な声だった。声を聞く限りどうやら女らしい。しかしその声は前
にどこかで聞いたことがあるような気がする。
「ん?お前は・・・」
俺が少し考えていると、女はフードを少し上げて顔を見せた。
金色の髪とどこぞの両家のお嬢様みたいに整った綺麗な顔立ちだった。間違いなくフ
ードを取り、それなりの身なりをしていれば男がイヤでも寄ってくるだろう。いや、ちゃん
とした身なりでなくとも今ここでフードを取って歩いているだけでもすぐに男たちが寄って
くるだろう。
しかし俺にとってこの顔は見たくない顔だった。
「私の顔をお忘れになって?戦場の悪魔よ」
「その顔は忘れたくても忘れられない顔だ。それにその名で俺を呼ぶのはおまえだけ
だしな。戦場の歌姫」
「ふふふ、思わぬところで再会したものですね。最後に会ってからもう3年くらい経ちま
したかね」
そう言われると俺は思い出したくない3年前の事を思い出してしまった。俺にとっては
辛い過去。
俺は少し苦そうな顔をして 、「そうだな」と答えた。
俺のその素振りを見て、こいつは少し笑いながら言った。
「ごめんなさいね。あなたにとっては思い出したくない事でしたね」
それはおまえが一番知っているはずだろ?いちいち思い出させるようなことを言う
な。
俺は怒りを覚えていた。
「俺に喧嘩売ってるのか?」
「いえいえ、あなたとここでやり合うつもりはありません。あなたは相変わらず頭に血が
上りやすいですね。これ以上お話をしていると戦いになる危険があるので今日はこの
辺で失礼しますわ」
そう言うと人ごみの中へ消えていった。去り際に一言残して。
「再びあなたと戦場で戦う日を楽しみにしています」
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