第4話 ちょっとやりすぎ?

 
 もうだいぶ日が暮れ、空は暗くなってきていた。

 しかし空は暗くなってもこの街の明るさは消えることはない。

 この街は昼だろうが夜だろうが大通りの人の数は変わらない。いわゆる眠らない街で

ある。

 しかし少し道を外れ裏通りに入ると人はほとんどいなく真っ暗な空間がそこにある。

 

 

 私はアスを置き去りにして宿屋へ向かっていた。疲れているためか足取りはやや重

い。

 何だろう?今日はすごく疲れた。いつもはこんな疲れないのに。きっとあいつに会った

せいだ。

 そう考えながら大通りを歩いていき宿屋に着いた。

「あっ、リンさんお帰りなさい。今すぐご飯用意しますね」

 宿屋のドアを開けると宿屋の娘のミーナが客の注文した料理を運びながら私に言っ

てきた。

 なぜ宿屋なのに注文した料理を運んでいるかと言うと、ここは一階が食堂(と言うか

酒場)になっていて二階が泊まるところになっているのだ。

 もう夜という事もありそれなりに酒場は賑やかになっていた。そのために少しアルコー

ルとタバコ臭い。

「今日は疲れてるからいらないや。早く寝たいし」

 私はミーナにそう言うと早く寝るために二階へ上がっていった。

「そうですか。ではごゆっくりお休みください」

 部屋に入るとすぐに破れたローブを脱ぎ、持ち物を置きベッドへ倒れた。

 そして私は疲れの為にすぐに深い眠りへと落ちていった。

 

 

 ちぇっ、嫌なやつに会ったもんだぜ。 こんなところであいつに会うとは・・・。

「久々に嫌な事を思い出しちまった」

 そう呟きながら俺はリンを探していた。

 あいつ、どこに泊まるかも俺に教えないで消えちまうし、明日はどこで待ち合わせする

かも言わなかったよな〜。

 まぁ、昼間森であいつに会ったときにどこへ逃げても無駄なように探知の魔法かけと

いたからすぐ見つかると言えばそうなんだけど。

 探知の魔法を使いリンのいるところへ向かいながら街の様子を見ていたら、向こうか

ら来た大男に気付かず肩がぶつかった。

「あっ、悪い」

 すぐに謝ったのだが大男は、

「痛ぇ、痛ぇよ、にいちゃん。これ骨が折れちまってるぜ」

 ぶつかった左肩を押さえながら俺に変な言いがかりをつけてきた。

 はい?あんた骨大丈夫か?今ので折れるわけないだろ?

 大男を見るととてもマッチョで筋肉ムキムキな体をしている。絶対に折れてないって。

「これは慰謝料もらわないといけねぇよな」

 そう言って俺に迫ってくる大男。

 さらにこの大男の仲間であろう。六人の見た目から思いっきりゴロツキな男たちが俺

の周りを囲んできた。

 すると俺たちの周りにいた通行人たちは関りを持たないように離れていき、少し離れ

たところで俺たちの様子を見ている。

 断れば集団リンチってわけですか。ここは人が多い分治安が悪いな。

 何も答えない俺に対して大男は俺の胸倉を掴み怒鳴ってきた。

「おい!聞いてるのか!俺の骨が折れたんだ。慰謝料貰おうか!」

 さて、どうしようか。ここで騎士らしくゴロツキを成敗してもいいけど・・・後々面倒になり

そうだし逃げよっと♪

 そう思い、胸倉を掴んでいる手を振りほどき逃げようとしたら、何も言わない俺に痺れ

を切らしたのか殴り飛ばされてしまった。

 右で胸倉を掴んでいる状態で殴られたのだから、もちろん折れたと言ってる左でだ。

 俺は地面に倒れたまま、「何だ。そっちで殴ってこれたってことはやっぱり折れてない

じゃん」と言うと大男の気に障ったのか、倒れてる俺を蹴り始めそれにゴロツキたちが

加わり、結局集団リンチにあってしまった。

 何で肩がぶつかったくらいでここまでされないといけないんだ?

 俺の中で再び収まりかけてた怒りが込み上げてきた。

 ここまでされれば正当防衛でこいつら痛めつけても問題ないよな?

 そう自分に問いかけ、俺は反撃に出た。

 地面で蹴られ続けていた俺は常人には見えないようなすばやい動きで一瞬にして大

男の後ろへと移動した。

 ゴロツキたちは突然今まで蹴っていた俺がいなくなって驚き呆然として動きが止まる。

「あれ?あいつどこいったんだ?」

 ゴロツキがぽつりと呟くと同時に、

「腕が折れるってのはこういうことを言うんだ」

 俺はそう大男の耳元で囁き大男の左腕を折った。

ボキッ
 ボキッ

「ぐわー!」

 大男が腕を折られた痛みで叫び、気を失った。

 あらら。気絶しちゃったよ。まあ2ヶ所折ってやったしそれが普通だな。

 それを呆然と見ているゴロツキたち。

「お前たちにも蹴られた借りがあるし・・・ただで帰さない」

 呆然としているゴロツキたちに俺がそう言うと、「このっ!」と俺に向かってゴロツキの

1人が殴りかかってきた。

「遅いね」

 俺はその攻撃を難なく避け、多少手加減して殴り返した。

 一発で気絶してもらってはつまらない。一発くらいじゃ借りを返し足りないからな。

 俺に殴られ倒れたゴロツキは再び立ち上がりナイフを懐から出した。他のやつらもそ

こらにあった棒などを武器にし、今度は六人全員で向かってきた。

 ふぅ。こっちは剣も埋めてきて丸腰だっていうのに卑怯なやつらだ。

 しかし難なくまたも避け、ゴロツキたちに次々と蹴りを喰らわせた。またも起き上がっ

てこれるくらいに手加減して。

「はい。残念でした。お前らちゃんと目が見えてるのか?俺はここだぞ」

 軽く挑発してゴロツキの怒りを買い、攻撃を避けては気を失わない程度の蹴りを入れ

続けた。

 何回か繰り返しているといい加減ゴロツキもあちこちから血を流し、起き上がってこれ

なくなったので『これくらいにしておこう』とこの場を去ろうとしたら、後ろからおそらく鉄

パイプであろう硬いもので頭を殴られた。

 俺は頭から血を流し再び地面へと倒れていった。

殴ったのはさっき俺が腕を折った大男だった。ゴロツキをいたぶってる間に意識を取り

戻したのだろう。

「へへっ、よくも俺の腕を折ってくれたな。このまま殺してやる」

 そして倒れてる俺に向かって鉄パイプを振り下ろした。

 しかし鉄パイプは俺に当たることなく地面に当たった。

「殺すなんて穏やかじゃないね。こっちの腕も折っておこうか。おまけでこっちの足もね」

ボキッ ボキッ


「がぁぁぁぁぁ」

 またも一瞬で大男の右側に移動していた俺は右腕と右足をさらに折ってやった。

 今度は気を失わず、骨が折れた痛みに苦しんでいる。

 その姿を見て最初はいい気味だと思ったが、さすがにこっちもやりすぎたなって気

持ちが生まれたので仕方なしに治癒してやるため大男に近づこうとした。

 すると、いきなり誰かに右腕を掴まれた。

 腕を掴んだやつを見るとそれはこの街の警備兵だった。

「お前を暴行罪の罪で逮捕する!」

 そう言われ手首にカシャンと手錠をかけられてしまった。(ちなみにこの手錠には魔法

を封じる力もあり、これをかけられると魔法が使えなくなってしまう)

「ちょっ、ちょっと待ってよ。さっきに喧嘩吹っかけてきたのはあっちだぞ。俺はリンチさ

れたから正当防衛でやっただけだって!」

 そう言って大男たちのいる方を指さしたが、 警備兵は全く信じなかった。

「嘘を言うな!お前は服に血がついていて多少は汚れているようだが、体の方には傷1

つないじゃないか」

 そうなのだ。今の俺の体は治癒した後なので傷一つもない状態だった。普通の人なら

治癒には時間がかかるものなのでそんなすぐには回復しない。それなので警備兵には

嘘に聞こえるのだろう。

 聖騎士の甲冑を着ていない今の俺は見た目ただの青年なのだから。

 まだ聖騎士の甲冑してれば信じてもらえたんだろうけど・・・しくじったな。これなら治癒

しないでいれば良かったぜ。

 何とか説明しようとしたが、結局俺の言い分は空しく留置所行きとなった。

 

 

 昨日は留置所に泊まることになった。

 しかしどうにか周りにいた野次馬の人が俺の正当防衛を証明したらしく、身元引取り

人が来ればここから出れるらしい。

 もちろん身元引取り人はあいつ。

 絶対怒ってるよな〜。どうやって謝ろうか。うーん・・・。

 そんな事を考えていたらあいつは来た。

「よぉ、昨日ぶり」

 俺は何て言えばいいかまだ決まってなかったので何事もなかったように挨拶してみ

た。

「・・・・・・」

 リンは何も言わない。

 ただ受付のところで引き取りの手続きを黙々としている。

「おーい」

 何も反応がないんで呼びかけてみる。

「・・・・・・」

 それでも何も言わない。

 怒ってるのは確かだよな?怒りのオーラは確かに感じるし。

 リンは手続きが終わったのかチラッと一度こっちを見たが俺に声をかけずに外へ出

て行く。

 俺もリンの後を追って留置所の外へ出る。

 そのままリンはどこかへ向かってどんどん歩いていく。

 俺はどこへ行くのか聞こうと思ったが、きっと返事は返ってこないだろうなと思い黙っ

てついていく。

 リンは人で賑わっている大通りを抜け、街から出て行く。

 街から出て少し歩いていくと広い草原地帯に出た。

 そこでリンは立ち止まり俺の方を向いた。

 その目は明らかに怒っている目だ。

「ゴメン!悪かったって、昨日の事は」

 何かヤバイ気がしてすぐに謝ってみるが、

「アーク」

 リンは俺には聞こえないくらい小さい声で何かを呟いた。

 すると俺の立ってたところを中心に魔方陣が浮かび上がった。

 その魔方陣を見てヤバイと思ったがもう遅い。この魔方陣のせいで動きが取れない。

 この魔方陣は多重魔方陣と言って二つ以上の魔方陣が合わさった陣である。

 今この魔方陣は2つの陣が合わさってる。1つは体の自由を奪う束縛の陣。

 そしてもう1つは・・・。

「ちょっとこれはやりすぎじゃな―――」

「この、この、馬鹿騎士がー!!!」

 俺は止めようとしたが、リンが突然ありったけの声で叫ぶと同時に二つ目の陣が発動

し、陣の中から灼熱の業火が噴出してきたのだ。

 もう1つの陣。それはすべての物を焼き尽くす灼熱の炎を噴出させる陣だった。

「うわーーーーーーー!!!」

 そして俺は灼熱の業火に焼かれましたとさ。南無・・・。

 

 

 俺は地面で横になって虫の息状態になっていた。

 こいつは ひどい女だ。かろうじて生きてはいるけど、あちこち大火傷だぜ。

 もしかして本気で俺を殺す気だったんじゃないかと思える。

「絶対これはやりすぎだって」

 地面で横になって火傷の治癒をしながら非難の声をあげると、

「自業自得。まったく馬鹿なんだから」

 そんな事を言いながらリンはやけに真剣に魔道書を読んでいた。

 時々何かボソボソ言っているが少し離れているのでよく聞こえない。

 ただ偶然聞こえたところだと、「これじゃ死ななかったから今度はもっと強力な術を覚

えないと」などと言ってたような気が・・・。

 

 

 次に馬鹿やったら殺されるかも・・・俺。
 

 


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