第6話 船酔い最悪


「う〜、気持ち悪い。吐くかも」

「おいおい、ここで吐くなよ」

 現在私たちの周りは見渡す限りの海。上を見れば太陽の日差しが強いくらいの雲1

つない青い空。周りを見ても、上を見ても青い。

 そう、私は今船に乗っていた。グラン国へ向かっている途中なのだ。

 もう少しイース国を旅しても良かったのだが、アスの話だともうすぐグラン国で大きな

祭りがあり色々なイベントが催されるらしいので、それを見る(あわよくば参加する)為

にイース国に別れを告げ、グラン国に行くことにしたのだ。

 それでその国に行くには船を使った方が早い(というか船を使わないと間に合わな

い)ので船に乗ったのだが、今まで1度も船に乗ったことがない私は船酔いで苦しむこ

とになっていた。船が揺れるおかげでどんどん船酔いは悪化していく。

 一方アスは船酔いなんて全然関係なくピンピンしていた。羨ましいぞ〜。

 ちなみにアスは船に乗った今でも Tシャツにズボン姿で凡人スタイルだった。乗る前

に甲冑や剣はどうしたのか聞くと、「知り合いが取りに来て預かってくれるから大丈夫」

と言っていた。

 まあそれはいいんだけど、いくら強いって言ったって旅するに丸腰はどうかと思うんで

すけど。だって、その格好だとすごく弱そうに見えて野党とかに襲われそう。私が野党

でもいいカモだと思って襲いそうだし。

 今にも死にそうなくらい青い顔して苦しんでいる私を見てアスは呆れながら言ってき

た。

「乗る前に腹一杯食べるからそんな苦しむんだぞ」

「だって船に乗ったことないから船酔いがこんなキツいものとは思っていなかったんだ

よ。うっぷ」

 船に乗ると船酔いするかもってのは予想していたけれど、船酔いがこんなに切なく苦

しいものだったとは思わなかった。もう私の予想を遥かに超えており、何で船に乗る前

にお腹が膨れるまで食べてしまったのだろうと後悔していた。しかしそうは思ってももう

後の祭り。済んだことを今更考えても仕方ない。

「だからさっきあんな食べるなって言ってやったのに。あっ!吐くなら海に向かって吐け

よ」

「絶対吐かないもん。仮にも一国の王女。こんなとこで吐いてたまるもんか〜」

 無理して強気で言ってみたものの、あまりにも弱弱しい声であり自分で情けなく思え

た。

「まだ強気でいられるなら大丈夫・・・なのかな?」

 アスはそう言うが、実のところはもう我慢が出来そうにないくらい限界に近かった。

 そして―――

「やっぱ無理みたい。もう吐きそう・・・」

 限界はついにやってきた。

 


 ただ今放送出来ないようなお見苦しい映像が流れておりますので、しばらくお待ちくだ

さいm(_ _)m

 


「う〜。まだ気持ち悪い〜」

 ある程度はスッキリしたが、船の揺れが治まったわけではないのでまだ気持ち悪い。

 第二波が来るのも時間の問題であろう。

 この船は出発してまだ1時間。目的の港街までは約3日かかるらしい。

 普通の人から(それこそ船乗りから)見れば3日の船旅はごく普通なのかもしれない

が、私からすればかなりの長旅だった。おそらく1ヶ月に相当するだろう。

 この調子だと港街に着く頃には私昇天してるかも。

「とりあえずこれでも食べとけ。少しは楽になると思うからよ」

 突然アスから小瓶に入った何かを渡された。

 小瓶の中を見ると赤い物がいくつか入っている。

「梅干?」

 そう。小瓶に入っていたのは梅干だった。しかし何故梅干なんだろう?

「ああ。何でも『胃酸の分泌を促して胃腸を動かすことにつながる』らしくてさ、食べれば

少しは気分が良くなるはず」

 なるほど、と思いながら私は渡された梅干を口に含んだ。

 すごく酸っぱかったが、普段は食べることがあまりないためかおいしく感じた。アスに

少し感謝だな。

「ありがと。てか何で梅干なんて持ってるのさ」

「ふふふ、何を隠そう俺は梅干マスターだからな。梅干は常備品さ」

 アスは左手を腰に当てて右手は親指をビシッと上げ、いつも通りの冗談であろう事を

自信満々に言ってきた。

「うわっ!何かツマんない事自信満々に言ってるし。何?梅干マスターって」

 聞き流そうと思ったのだが、もう癖になってしまったせいで元気がないのにもかかわら

ず無意識に突っ込んでしまう私がいた。こんな突っ込みの癖なんていらなかったんだけ

どな。

「おっ、突っ込む元気出てきた?」

「やっとの事で突っ込んでるんだよ」

 あっ、でも少しは梅干のおかげで良くなってきたかもしれない。

 そういえばアスも船に乗る前にそれなりに食べていたはずなのに何で酔ってないんだ

ろう。酔わない体質なのかな?

「そういえばアスは酔ってないのか?」

「うん。だって『酔い止めの魔法』使ってるからな」

 あれ?何か今変な言葉聞こえた気がするような。聞き間違え・・・だよね。

 うん。そうに違いない。

「ゴメン。ちょっとうまく聞こえなかったみたい。もう一回言って」

「だから、俺は酔い止めの魔法使ってて酔っ―――」

「馬鹿騎士がー!そんな魔法があるなら早く言えー!って、おわっ」

 アスに向けた攻撃が当たる瞬間に船が揺れた。

ドス(キーン)


「さすがにそこは卑怯・・・だろ」

 今回私の拳が当たったところ。それはアスの股間だった。

 鳩尾を狙ったつもりだったのだが、船の揺れで若干ズレてそこに当たってしまったの

だ。

 余程クリティカルヒットしたらしく、かなりもがき苦しんでいる。見てて哀れだ。

 そう思っていたら急に動いて怒鳴ったためか第二波が突然やってきた。

「うっ―――」

 


 再び放送出来ないようなお見苦しい映像が流れておりますので、しばらくお待ちくださ

いm(_ _)m

 


「で、何でこんな苦しんでる私を見てて今までその魔法を使わなかったのかな〜?」

 あれからアスに酔い止めの魔法をかけてもらい、気分はすっかり良くなった。さっきま

での苦しみが嘘みたいに消えている。

 これならもういくら揺れても酔うことはないだろう。

 そして気分が優れていつもの元気が戻ったところで怒り口調でアスに問いだしてみ

た。

 するとアスは笑って頭を掻きながらあっさりと、

「いや〜、聞かれなかったし」

 こ、こいつ〜。私が苦しむのを心配してるようだったけど、心の中では笑っていたに違

いない。簀巻きにして海に放り出してくれようか。

「普通こんな苦しんでるなら教えてくれるだろ」

 私が少し怒ってアスを睨みながら言うと、

「悪かったって。でも旅するならこれくらいの魔法は覚えてるのが普通なんだぞ。いちお

聞くけど毒消しや麻痺治しの魔法は使えるよな?」

 その質問の答えに私は言葉が詰まった。実は両方とも使えないのだ。毒消しや麻痺

治しの魔法があることは知っていたが、普通の魔道士みたく魔法学校に行ってたわけ

ではないので教わっていなかった。

 その為無言が返事となった。

「ふぅ。魔方陣使えるくらいの技量があるのに初歩的な魔法を使えないとは」

「うぅぅ」

 悔しいけど何も言い返せない。正にその通りだったから。

「あのさ、王宮から逃げて旅もいいけど道中、薬草と間違えて毒草食べることもあるか

もしれないし、厄介な植物の棘とかが刺さって麻痺状態とかになることもあるかもしれ

ないんだから、旅に必要な魔法は覚えないとダメ」

 その為にアスから説教を受ける羽目になった私。もう怒りなんてどっかに消えちゃい

ましたよ。って、これってもしかしてうまくかわされたのかな?

 そんな事考えてる間もクドクド言ってくるアス。こいつって意外とお節介キャラだったの

か。いまいちこいつの性格掴めないかも。

 結局あまりにも私が無知だったために、港街に着くまでの食べる・寝る以外の時間は

ほとんど初歩的な魔法の講座で消えていくことになったとさ。

 座学はキライで結構辛かったけど、おかげで色々な初歩魔法を教わることが出来て

私的には大幅にスキルアップする事が出来た。

 いちおアスに感謝しないと。

 

 

 毒消しの魔法と色々覚えた事だし、さっそく今日の夜にでもアスの食事に毒を盛って

ちゃんと効果あるか試してみよ〜っと♪
 

 


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