カーン カーン カーン カーン カーン カーン
私が船室で寝ていると突然甲板の方から大きな鐘の音が鳴り出した。
「ふぁ?何この音?」
あまりの音の大きさの為に私は目を覚ました。船室の窓からは朝日が眩しく映ってい
る。
もう朝なのか。昨日もそうだったけどベッドの寝心地が悪いのかあまり寝た気がしな
い。
今はもう止んだがさっきの音は何なのかと部屋から出て確かめようとすると、
トントン
外から誰かが私の部屋のドアをノックしてきた。
「はい?誰?」
何となく誰かが分かっていたが、いちおドアの外にいる人に聞いてみるとやっぱりそ
れはアスだった。
「そろそろ港に着くってよ。俺は先に甲板に行ってるから早く来いな」
そう一言言うとアスは甲板へ向かっていった。
なるほど。さっきの音は到着の合図だったわけか。
私はあまり荷物が無いのですぐに出発の準備を済ませ船室から出て甲板へ向かっ
た。
甲板に出ると少し向こうにいくつかの大小様々な船が留まっている大きな港が見え
た。
その中には誰が乗ってきたんだろうかヨットも留まっている。
「ふぁ〜。やっと着いたー」
私は長い3日の船旅を終えてグラン国の港街、ラクーン・シティに着いた。
この街もセーム・シティと同じで色々な国の人が出入りしており人がたくさんいる。
いや、近いうちにこの国でお祭りがあるためなのかセーム・シティよりは明らかに多
そうだ。
今は朝の競りの時間であちこちで「こいつは今日取れた一番の大物!さあ競った競っ
た!」などと大勢の人が魚の競りをやっている。なのでその辺りはかなり魚臭い。
「しかし予定より早く着いちまったな。今からどうする?」
「うーん。どうしよっか」
予定では昼頃到着だったのだが、今回は船足が思ったより良かったらしく早めに着
いてしまった。予定では昼に着くということだったので、今日はこの街を観光してそのま
ま泊まり、明日の朝になったら大きなお祭りをやるグラン国の王都グラニアへ向けて出
発しようと思っていたのだが、今から出発するとすれば夜までに次の街まで行けなくも
ない。
「まだお祭りが開催されるまで日数はあるんだよね?」
「まあな。確かあと3週間後かな」
「なるほど」
ちなみにこのセーム・シティからグラニアまでは歩いて平均14日くらいの距離があ
るので、多少の時間の余裕はあると言うことになる。馬車などの移動手段を使えばもっ
と早く着くのだが、旅をするならやっぱり歩いていかないと面白くないので使わない事に
した。
私的にはせっかく来た街なので観光をしたい。でも早く王都に行ってみたい気もする
んだよな〜。
「アスは今からどうしたい?」
アスの意見も聞いてみて、「何でもいいよ」というような返答だったら観光にしようとし
たのだが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「時間があるならギルド行って仕事受けてきたいな。俺金もって無いしさ」
そういえばそうだった。確かにここまで来る船代はアスがお金を持ってなかったので、
貸しと言う形で私持ちだった。
なるほど。ここで仕事して貸してたお金を返そうって言うことか。うーん、予想外の答え
だ。どうしよう。
「何ならお前は今日一日観光してきてくれてもいいよ。今日中に終わらせられる軽い仕
事受けてくるからさ」
まあ、アスがそういうならそうしよっかな。また何しでかすか心配なとこもあるけど・・・
多分大丈夫でしょ。
結局今日は夕方まで別々に行動することになった。
私はアスと別れてから街のあちこちを歩き回っていた。
別に買うわけではなかったが武器や防具の店に行って売ってる品を見たり、街外れ
にあるそれなりに大きい公園に行ったりした。
この公園は緑が多く、ある意味小さな森林公園だった。
中に入り整備された道を歩いていると左右に様々な種類の木が植えられている。し
かしそのほとんどが名前も知らないような木だった。
まあ木の名前なんて初めからほとんど知らないんだけどね。
整備された道を少し歩いていくと公園らしく遊具や砂場がある空間に出た。そこでは
小さな子供たちが楽しそうに遊んでいる。子供たちの浮かべる笑顔はホントに無邪気
で可愛く、見てて思わず顔がほころんでしまっていた。
やっぱり旅するっていいな〜。王宮じゃ感じられない事いっぱいあるもん。
そんな風景を近くにあったベンチに座って少し見た後、人がたくさんいる大通りに向
かった。
街の大通りに出ると、露天がたくさん並んでおりどこも繁盛している。それらの露天を
見ながら歩いていると、八百屋・肉屋・魚屋など生活に必要なものを売ってるところが
主だったが、中には焼きそば・フランクフルト・綿菓子などとお祭りのときに出てくる屋
台もちらほらあった。
「そこの可愛い子。これ買っていかない?似合うよ〜」
色々な露天を見ていたら突然後ろから声をかけられた。
声をした方を見ると、そこには銀髪のかなりルックスのいい(ジャ○ーズにいそうな)
青年がこっちを見ていた。ちょっとタイプかも。
この人も露天を出しているらしく、売ってるものを見ると指輪やブレスレットなどのアク
セサリーだった。どれもデザインが精巧に細かく作られており、素人から見てもこれは
高いと分かる。
「これなんかどう?似合うよ?」
そう言って指輪やらネックレスやらを勧められた。私は服に興味はあっても装飾品の
方にはあまり興味がないのだが、この人がカッコいいために断りづらく少しだけ付けさ
せてもらうと、
「おっ!すっげー似合ってるよ。これは君の為に作られたんじゃないかってくらいにね」
何か大げさ過ぎて嘘っぽいと思ったが、その後も色々褒め称えてくれたものでつい有
頂天になっちゃって、気付くと天使がモチーフの銀指輪《シルバーリング》を買わされて
しまっていた。
それもかなり高いやつを、だ。
お、お金が一気に5分の1くらいになってもう3万ギルしかないや。これじゃあ次の
街に行けるか分からないかも・・・。
現在私は後悔ながら大通りを歩いていた。もう後の祭りだと分かってても後悔せずに
いられなかった。商売人の話術は怖いです。
まあ不本意とはいえ買ったことだし折角だから右の薬指にはめてみる。
キラッ
ん?はめたときに指輪の天使の目が赤く光ったような。気のせいかな?
指にはめてマジマジと銀指輪を見ると、天使は何故かは分からないが後ろに手を縛
られているように見える。さらに見ると天使の拡がる羽の一枚一枚にまで精巧に表現
されており、この精巧さなら高い値段だとしても妥当なのかもしれない。
でも別に旅に必要な物じゃないし買う必要なかったんだよな〜。はぁ。
とりあえず右の指だと少し邪魔なので左の指に付け替えようとした。しかし―――
あれ?これ外れない。
そう。指輪が取れないのだ。別に指が太くて抜けないわけではない。付けるときはす
んなり入ったのだから。
では何故だろう?
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
私は考えた末、1つの仮説が浮かんだ。
それを確かめるために私は魔道協会へ向かった。
「はい。残念ですがこれは何かの呪いがかかった指輪ですね」
「や、やっぱりそうなのか」
もしやと思いここに来て呪い専門の中年くらいの魔道士の男に鑑定してもらったら、
案の定私の仮説は当たっていた。これはやはり呪いの指輪。何らかの呪いがかかって
るために呪いの副産物みたいな感じで外れなくなったのだ。つまり外すにはこの指輪
にかかっている呪いを解くしかない。
しかし解呪の魔法はかなりレベルの高い魔法なので私には使えない。これを使える
のは癒し系の魔法を主として使う神官や僧侶、巫女などだ。
それなので解呪専用の部屋へ案内された。その部屋の床一面には大きな魔方陣が
描かれていた。きっと解呪専用の部屋なので浄の力が増幅されるような陣なのだろう。
さっそく解呪してもらうことになったのだが―――
「彼の《かの》ものに宿りし悪しき力よ。立ち去りたまえ!」
シーン
「・・・・・・」
指輪に解呪の魔法をかけてもらったが何も起きなかった。成功すれば『壊れる』又は
『自然と外れる』はずなのだが、自分で取ろうとしても
一向に外れる様子はない。
「あの〜、外れないんですけど」
「おかしいですね。これで普通の呪いの類は解けるはずなんですが・・・」
魔道士は意外そうな顔をしていたが、すぐに隣の部屋に入っていった。おそらく隣は
色々な魔法の道具が置かれている部屋なのだろう。
しばらくすると魔道士は何かを持って戻ってきた。その手には牛乳瓶くらいの大きさ
の透明な瓶を持っていて、その瓶の中には透明な液体が入っている。
「普通の解呪では解けない強力な呪いが指輪にはかかってるみたいですね。それなの
で今度はこの特別な聖水を使ってさっきより強力な解呪をやってみます」
そして指輪をはめている私の右手に聖水をかけ、再び解呪の魔法を使った。
「彼のものに宿りし邪悪なる力よ。立ち去りたまえ!」
シーン
「・・・・・・」
また何も起きない。自分で取ろうとしてもやはり外れなかった。
「あの〜?外れないんですけど」
「えーっと・・・」
私が聞くと魔道士は困ったような顔をして私と目を合わせようとしない。どうやら今の
がこの魔道士の使える最大の解呪の魔法だったらしい。
というか、この魔道士がこの街の魔道協会では一番の呪いの専門家らしいので、こ
の協会ではもう解くことは出来ないのだろう。
その後も同じ事を何回かやってみたがやはり指輪の呪いは解けなかった。
この呪いを解くにはもっと強力な力を持つ魔道士のいる王都グラニアや、街よりも大
きい『都市』と呼ばれるところに行くしかないようだ。
ところで指輪に呪いがかかってるからその為外れなくなったのは分かったのだが、指
輪にかけられてる本当の呪いは何だろうか?
それを魔道士に聞いてみたが、
「それは残念ながら私には分かりませんね。しかしこれだけは言えます。この呪いは死
に繋がるような呪いではないので大丈夫ですよ。でも早めに解呪してくださいね。死な
ないと言っても呪いは危険な物ですから」
やっぱり聞いてみても分からなかった。てか、解呪に失敗した人が『大丈夫』って言っ
ても信用出来ないんですが・・・。
結局呪いは解けず、どんな呪いかも分からずに私は魔道協会をあとにした。
私って当分呪われたままなのかな(泣)
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