第8話 解けない呪い

 
 はぁ〜。お金は無いし、わけの分からない呪いにはかけられるし運が悪いな〜。元は

と言えばこの指輪を買わせたあの男がいけないんだよ!文句言ってやるんだから!

 私は急いでこの指輪を買ったとこに戻ってみるが、さっきの場所にはもう露天はなく

あの青年はいなかった。

 悔しい!逃げられた!文句言ってやりたかったのに!

 怒りのぶつけどころが無くなって私の怒りはどこへ向ければいいのだろうか考えてい

ると、後ろから誰かが私にぶつかってきた。

ドン


「いったーい。誰よ!いきなりぶつかってきたのは!」

 私は怒鳴ってぶつかってきたやつを見ると、そこにはまだ可愛らしい10歳くらいの

少年がいた。

 私はてっきりどこかの大人がぶつかってきたと思ったのだがまさか子供だったとは。

「ごめんなさい。ちょっと急いでたからぶつかっちゃったんです。ホントごめんなさい」

 私が怒鳴ったために少年は半分泣きながら謝ってきた。 ちょっと可哀相な事しちゃっ

たな。

 これが大人だったらガンガン文句を言ってやったところなのだがさすがに子供相手に

怒るわけにもいかないのですぐに許してやった。

「いいよ。私も怒鳴ってゴメンね。ちょっと嫌なことあったもんでつい怒鳴っちゃったんだ

よ。でも全然怒ってないから大丈夫だよ」

「ホントに?」

「うん。許してあげるよ。でも急いでるからって言っても今度から人にぶつかっちゃダメ

だぞ」

 そう言って軽く少年のおでこを小突いた。

「うん。ありがと、お姉ちゃん。これから気をつけるね」

 少年は私が怒ってないことが分かると笑顔になって言った。そして急いでるためかま

た走り出して私から遠ざかっていった。

 そして私も少年が見えなくなるまで見送った後、そろそろ夕方になるのでアスと待ち

合わせをした宿屋に向かう事にした。

 あっ、そうだ。アスならこの呪い解けるかも。事の成り行きを話すのは嫌だけど仕方

ない。聞いてみよう。

 

 

 あの少年のおかげで私の怒りはどこかに消えていた。しかし完全に消えたわけでは

ないので思い出すとまた怒りが沸いてくるのだが。

 私が宿屋の1階にある酒場で食事を取りながら待っていた。外はもう暗くて夜になっ

ていた。約束の夕方はもうとっくに過ぎていた。

 遅いな。どうしたんだろ?何かあったのかな?

 そんな心配をしていると、酒場の扉が開いてやっとアスが来た。見ると朝の凡人スタ

イルではなく甲冑を着ていた。

 しかし聖騎士の甲冑ではなく、普通にお店で売ってるような安いとは言えないが高く

もないような甲冑だ。それと腰にはやはり初めて会ったときとは別の剣であるロングソ

ードを持っている。

 おそらく丸腰じゃさすがにマズイと思って今日の仕事の報酬で買ったのだろう。

「遅い。もう夜なんですけどー」

「悪いな。ちょっと思ったより時間かかっちまってさ。あっ、借りてた金返すよ。ちょっと

利子付けて5万ギルで」

 私の正面の席に座りながらアスは5万ギル入った袋を渡してきた。

「えっ!」

 私はその言葉に驚いた。実際に私が貸したの3万ギルのはずだ。なのに利子でさら

に2万もくれるなんて太っ腹・・・じゃなくてどういう事だ?そもそも1日で少なくとも五

万稼ぐのは普通きついはずなのだが。それに装備も買ってるわけだし、さらに稼いだ

のだろう。

 余程の危険な仕事でもないと1日じゃ稼げない額だ。そう例えば、様々なモンスター

の貴重な部分を取ってくるとか、ある程度悪どいことしたやつに賭けられる賞金を狙っ

て賞金首を捕まえるとか、がある。

 この前私が稼いだ50万ギルってのは稀にある特別な仕事なのだ。

 まあよく考えればこいつならそういう仕事した可能性がありえなくないな。

 とりあえず私は素直に利子付きの5万は貰っておいた。

「こんなくれるなんて太っ腹だね。実際どれだけ稼いできたのさ」

 興味本位で聞いてみると、

「それは秘密♪」

「えー!いいじゃん、教えてよ」

「だから秘密だって。そんな事よりその右手の指輪はどうしたのさ?何か嫌な魔力を帯

びてるけど」

 うわっ!すごい。こっちが言う前に言ってきたよ。さすがだ。って、また話をはぐらかさ

れた。

 まあこっちの話がメインだからこのまま戻さず話そっと。

 そうして私は事の成り行きを『売り手の男がカッコよく、さらに煽てられて買わされた』

というところはうまく誤魔化して、『可愛かったから自分の意思で買った』として説明し

た。

 

 

「なるほどね。しかし魔法協会の魔道士でもその呪いが解けないなんて余程強い呪い

がかかってるんだろうな」

 余程強い呪いって・・・。怖いことをさらっと言わないでほしいものだ。

「どんな呪いがかかってるかも分からないんだってさ。アスならどんな呪いか分かる?

てか、解ける?」

 半分期待して聞いてみると、

「ん〜。呪いの事ははよく分からないな。俺は神官じゃないし。あっ、でも2つの魔力を

感じるから2つの呪いがかかってるかも」

「2つもかかってるの?!」

 アスの言葉に驚き聞き返すと、

「ああ。違う魔力を2つ感じる」

 そう言いながら私の指輪を触ろうとすると、指輪の天使の目が赤く光り、私の中に何

かが入り込んでくる感じがした。それと同時にアスの驚いたような声が聞こえた。

「うわっ!」

「どうしたの?」

「今指輪に触ろうと手を近づけたら天使の目が赤く光っただろ?その時指輪に魔力を

少し吸われたみたいだ。体から魔力が抜けていった」

「えっ!?ホントに?じゃあ今私の中に入ってきた感じがしたのはアスの魔力だったの

か」

「へぇ〜。なるほどね」

 アスはうんうんと頷いた後、何かを考え始めた。

 そして少しの間、無言の時が過ぎる。

「なるほど。1つは魔力吸収だな。厄介な魔法がかかってるもんだ」

沈黙を破りアスが喋った。

「厄介?」

 アスの言葉がいまいち分からないので聞いてみると、

「ああ、どうやら魔力吸収の魔法がかかってるらしい。これはまあ呪いじゃないな。い

や、見方によれば呪いだけど、これはきっと指輪の元からの付加効果だな」

「じゃあやっぱり呪いは1つって事なの?」

「そうだな。しかし厄介だよ、これは」

 さっきも言っていたが何が厄介なのだろう。呪いの知識がほとんどない私にはさっぱ

り分からない。

「何で厄介なの?」

「おそらくこれにかかってる呪い自体は普通に魔法協会の魔道士でも解けるはずなん

だ。でも呪いを解くことが出来なかった。何でか分かるか?」

 うーん。質問に質問で返されたような気がするがいちお考えてみよう。

 呪い自体は魔道協会の魔道士でも解けるはず。でもそれなのに実際は一番強力な

解呪の魔法を使っても呪いを解く事が出来なかった。それは何でか、って事だよね。

 呪文が間違ってた・・・ってわけないか。じゃあ、あの魔道士の力不足だった・・・わけ

もないよな。。

 なかなか答えが見つからず悩む私。しばらくアスの言ったことを思い出しながら考え

ていると、何か引っかかるものがあった。

 ん?そういえばよく考えてみると、さっきアスは呪いの事じゃなくて魔法吸収の付加効

果で厄介って言ってたはず。それを視野に入れて考えると・・・・・・なるほど。

 私はやっとアスの言いたいことが分かった。

「つまり、いくら解呪の魔法を使って呪いを解こうとしても、その解呪の魔法の力を指輪

が吸っちゃうから解くことが出来なかったって事?」

「その通り。だから解けなかったんだよ」

 なるほど。やっぱりそうだったのか。

 あれ?でも呪いだって同じ魔法に違いはないはずなのに何で指輪に呪いをかけれる

んだろう?

 私の考えてる事が顔に分かったのか、アスは私が聞く前に説明をしてくれた。

「そこで疑問なのが、何で魔法を吸収する指輪に呪いがかけれたか、 だな」

 私は頷いて静かにアスの説明を聞く。

「これは・・・はっきり言って俺にも分からない。普通じゃ考えなれない事だしな。でも現

にここにあるんだから何か方法があるんだろうけど」

 そ、そうなのか。アスが分からないなら私には分からないと思うけど、確かに存在して

るんだから方法はあるはず。それが分かれば呪いを解けるのに。

「魔法吸収の付加を付ける前に呪いをかけてた、とかじゃないかな?」

 思いついた可能性をアスに聞いてみるが、

「それは無いね。呪いがかかった物は特別な力で守られてて、他の付加はかからない

ようになってるから。それにもしその方法だったとしたらお手上げだろ?」

 アスの言葉の意味が一瞬分からなかったがすぐに理解した。

 つまりは私の考えた方法だったとしたら、呪いの後に魔法吸収の付加を付けるのだ

から、方法が分かったとしても同じような方法で解くことが出来ないわけだ。

「うん。そうだね」

 うぅぅ。これ以外に違う方法が思い浮かんでこない。困ったぞ。

「今ここで考えていても仕方ないし、明日になったらこの国の国立図書館にでも行って

何か方法がないか調べてみようぜ」

 私が悩んでいるとアスがそう言ってきた。

 確かに今悩んでも仕方ないか。国立図書館に行けば色々な資料がいっぱいあるし何

か分かるかもしれない。これは明日に持ち越しにするしかないな。

「そうだね。そうしよう」

 そうして私たちは今日はもう寝るためそれぞれの部屋へ戻っていった。

 

 

 部屋に戻るとすぐに荷物を置きベッドへ倒れた。

「はぁ。今日は災難だったな〜。まさか呪いの指輪を買わされるとは・・・」

 そう後悔しながら私は呪いの指輪を見る。呪いがかかっているためか私には指輪の

モチーフになってる天使は今や堕天使に見える。

 いや、この天使は後ろに手を縛られているので実際に堕天使なのかもしれない。

 うぅぅ。旅に苦労は付き物だと言うけど、まさか呪いにかかって苦労するとは思ってな

かったな〜。

 恨めしそうに指輪の天使を睨んでいるとまた突然天使の目が赤く光りだした。そして

同時に頭の中に直接誰かの声が聞こえてきた。

『・・・・・・・・・せ』

 えっ、誰の声?何て言ってるの?

『・・・オ・・・・せ』

 うまく聞こえないよ。何て言ってるの?

『・・・オン・・・せ』

 段々と鮮明に声が聞こえてくる。

『・・・オン・・・こ・・・せ』

 そしてついにはっきり聞こえた。

『ゼオンを殺せ』

 聞こえてくる声はそう言っていたのだ。

 そしてはっきりと何を言ってるか聞こえたとき、天使の目がさらに強く光り、私はその

光を浴びて意識を失った。

 

 

 強く光っている天使の目の光が弱くなると意識を失ってるはずのリンの体が突如動き

出した。そしてベットから起きてどこかへ向かおうとドアへ向かって歩き出す。

 しかしその足取りはフラフラしており、目も焦点が合っていなく、明らかに正気ではな

い。

 そしてドアに向かってるリンがこう呟いた。

 

 

「ゼオンを殺す」
 



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