第8話 運命の赤い糸(遊園地前編)

 


  夏休みに入ったある日。彰から一本の電話がかかってきた。

『遊園地の特別無料優待券があるんだけど、日にちが合うようなら一緒に遊びに行く?タ

ダでほとんど乗り放題になるけど』

 どうやら話を聞いてみると、彰の父親がどこからか遊園地の特別無料優待券を何枚か

貰ってきたらしい。さらに近いうちにその遊園地の方に仕事で出かける事があるようなの

で、その日に合わせて行く事にすれば遊園地まで送り迎えしてくれるという話だった。

 入場料とアトラクション料金がタダになるに加え、交通費まで浮くという話になれば断る

理由など微塵も無かった。むしろ暇を持て余していた俺にとっては渡りに船だ。

 迷いもせずにその誘いを受ける事にした。

 

 

 

 

 

 夏休み某日。俺たちは遊園地―――富士Pハイランドの入り口へ来ていた。
 
 少し早く着いたためにまだ開園していなく、入場の列に並んで待っている状態である。

 今ここにいるメンバーは男4女2の計6人。すべて俺たちのクラスメイトだ。

 どうやら持っている枚数の許す限り彰はクラスメイトを誘っていたらしく、そして誘いに乗

ってきたのがこの4人なのだ。しかしこのメンバーの中に唯はいない。

 別に誘わなかったわけではない。仮にも唯は俺たちの仲間なのだ。いくら俺でもそんな

事はしないさ。

 もちろん唯にも俺から電話をかけてみたのだが、長いコール音の末に留守電に切り替

わってしまった。それが自分でメッセージを吹き込めるタイプのものらしく、そのメッセー

ジを聞いていたら1週間は家族で家を留守にするような内容だった。

 そんな経緯があったために、今日この場に唯はいないのだ。

 せっかくの場に唯がいないのは・・・何か寂しい気もするな。唯も来れれば良かったんだ

けど・・・。どこに行ってるんだろ?

 でも今更考えても仕方ない。今日は思いっきり楽しむ事にしよう。

 

 

 今日の予定では、午前はみんなで有名アトラクションを乗り、午後は各自自由行動で

好きなアトラクションに乗るという事になっていた。やっぱり有名どころはみんなで乗りた

いのだ。

 ここの有名アトラクションは大きく見て4つ―――「カメハメハ」「FUJISAN」「超・戦慄迷

Q」「トンデミーロ」である。

 どれも人気があるので必然的に混む事になる。そのためにいかに効率良く回るかが大

事だ。その点では、彰がバッチリ調べてきてくれたらしく、特に異論もなく回る順番は決ま

った。

 まず最初は『発射直後、わずか1.8秒で時速172km/hの圧倒的な加速、思わず腰が浮

くほどの0Gフォール』などが売りの「カメハメハ」に乗り、次に彰が「カメハメハ」の順番待

ちの間に整理券を貰ってきてくれた『世界最長ホラーハウス』の「超・戦慄迷Q」へ行き、

次にかなりの列になっていた『最大速度130km/hでギネスに載ってる』キング・オブ・コー

スター「FUJISAN」で、最後に『アームが振り子のように左右に振れ、その先端に取り付

けられた円盤型座席が同時にグルグル回転するアトラクション』である「トンデミーロ」の

順に回ったのだ。

 どれも初めて乗った物だけに楽しかったと思う。

 「カメハメハ」は最初の瞬間的な加速が気持ち良かったし、「超・戦慄迷Q」は自分で歩

く形のホラーハウスでハラハラドキドキ感が堪らなかった。特に面白かったのが彰の怖が

りようだった。ゾンビ役の人が後ろから現れると俺にしがみ付くし、血まみれの病院服を

来たゾンビがノソノソとひたすら後を付いて来た時なんて失神寸前だった。

 あの時の彰の表情といったら思い出すだけでも笑えてくる。

 それと「FUJISAN」はすごい速さで走り抜けるのが快感だったし、「トンデミーロ」も視界

が逆さまになっていて面白かった。

 うん。どれも人気アトラクションなのが理解出来るな。

 

 

 4つ全部乗り終わった後、俺たちは少し遅い昼飯を食べて、その後各自別れて別行動

を取る事になった。といっても、俺は彰と行動をするのだが。

 それは他の4人も同じで、それぞれ男女のペアになってお互い好きなアトラクションを乗

りに向かっていった。

 その光景を見ると、なんか俺たちだけ野郎2人のペアってのが寂しい。

「まあ細かい事考えずに楽しもうよ」

「そうだな。せっかく来たし、楽しまなきゃ損だよな」

 彰に励まされ、俺たちは今日を楽しもうと次のアトラクションを探しに歩き出した。

 

 

 面白いアトラクションがないかと歩き回っていると、特設広場でヒーローショーが始まる

アナウンスが流れた。

 特撮物が好きな俺はその言葉に反応する。そして彰に提案。

「ヒーローショー見に行かないか?」

 すると彰は「やっぱりそう言うか」みたいな顔をしたが、

「僕も少しは興味あるし、行ってみようか」

 特に呆れた風もなく、お互い意見が一致したため、すぐに特設会場へ向かう事にした。

 

 

 特設会場へ着くと俺は絶句した。

 まさか・・・信じられない。

 何とステージの上に、普通いるはずがない人物―――唯が立っていたのだ。

 それも、子供服のような赤い上着とスカート姿の、MCのお姉さんとして、だ。

「あれって・・・唯ちゃんに見えるけど・・・目の錯覚かな?」

 彰も半信半疑で俺に聞いてくる。

「いや、お前の目は普通だぞ。俺にも・・・そう見える」

 あいつ、家を留守にしていると思ったらこんなとこに・・・。

 そんな俺たちがいる事に気付かず、唯は子供相手にショーを進めていく。

「ねえねえ、ところでみんなは、いつもTVで仮面ライダー威部鬼(イビキ)、観てますか?

観てるお友だち、ハーイ!」

 唯が手を上げるると、子供たちも同じように「ハーイ!」と言って手を上げる。

「あ、いっぱい手が挙がったね〜。じゃみんなは、怪堂子と妖妃って知ってますか?知っ

てる?怪物である―――」

 この後、ゆっくりと子供たちに分かりやすく、唯は仮面ライダー威部鬼の話の設定を語

り始める。そして話の設定を話し終えると、今度は主役の威部鬼を呼んでみようと子供

たちに提案をする。子供たちは素直に唯の言う事に従い、

「じゃあね、みんないいかな?お姉さんが「せーの」って言いますから、そうしたら大きな

声でイービキーって一緒に呼んでくださいね。応援できますか〜?いくよ〜!せーの」

「「イービキー!」」

 こういう光景を見てると、見てるこっちが恥ずかしくなってくるのはなぜだろう。

 てか、彰も一緒に叫んでるし!

 さすがにそれは止めて欲しかった。ほら、そのせいで周りからジロジロ見られてるし。

 そんな俺たちの事情をよそに、ステージ上ではドンドン話は進む。

 呼んだはずの主役は出てこなく、変わりに変な声がどこからか聞こえてきた。

「鬼を呼びたいならこう呼びな……」

「誰の声?」

「おーにさーんこーちらー……」

「なに?なんだろう?」

 これも予定のうちなんだろうが、唯はすごく困惑したような声と表情で、観客の子供たち

を不安がらせる。なかなかの演技派だ。

「さあ……言ってごらん……。おーにさーんこーちらー……」

「どこにいるの?」

 すると会場に突如怪人たちが現れ、子供たちを襲おうとする。子供たちはそんな怪人

たちを怖がるために、なかなかいい反応を返してくれる。中にはあまりの恐怖に泣いてい

る子供もいるようだ。

 うわ〜。ありきたりのパターンだ事。まあ、こういう展開がヒーローショーだよな。

 すると唯がセオリー通りの言葉を叫ぶ。

「みんな大きな声で威部鬼を呼ぶよ!せーの」

「「イビキー!」」

「もっと大きな声で!せーの」

「「イビキー!!!」」

チーーーン

「そこまでだ。君たち」

 そして子供たちの叫びによって、鈴の音と共に正義のヒーローは現れたのだった。

 

 

 その後は怪人とのアクションが始まり、怪人を追っ払うと今度はMCの唯からのお礼で

始まった主役直々の武器の説明などがあった。その後ステージから主役が去っていった

ので、後は握手会で終わると思いきや、まだまだステージは続くようだった。

 また沸いて出てきたのだ。さっきの怪人たちが。

 今度は怪人たちが唯を人質に取って威部鬼に勝とうとしたりと、趣向を練った舞台運び

となったが、子供たちの応援によってこのピンチを脱して最後は当然の如く怪人を追っ払

う事でステージは幕を閉じたのだった。

 冷静に後で考えてみれば子供だましだが、実際に見ている間は臨場感溢れたステー

ジでかなり素晴らしかったな。たまにはこういうの見るのも面白いかも。

 ステージが終わった後、サイン会や記念撮影会を始める威部鬼。TVのヒーローなだけ

あって、かなりの人気者だった。ついでにMCのお姉さんだった唯も一緒に撮影とかをし

ている。意外とお姉さんの方も人気があるのか?

 とりあえずそれはいい。まずは唯に見つかる前にこの場を去る事にしよう。

 唯といると何となく面倒に巻き込まれそうだしな。

「そろそろ行こうか」

 足早に去ろうとする俺に、彰は不思議そうに聞いてきた。

「え?唯ちゃんに会わなくていいの?」

「なんか気付いていないようだし、それに仕事の邪魔しちゃ悪いだろ?さっさと何か乗り

に行こうぜ」

「うーん。少しくらいの挨拶なら別にいいと思うんだけど・・・」

 そんな事を言っている彰を無視して、俺はさっさとその場を去っていった。

 

 

 午前は有名アトラクションに乗るのが目的だったために、待ち時間が多くて他のアトラ

クションはほとんど乗れなかった。だから午後はなるべく多くのアトラクションを乗る事に

彰と決め、人の比較的少ないアトラクションを次々と乗り回していった。

 いくつ目かのアトラクションを乗り終わった後、彰がトイレに行くというので、近くの木陰

になっているベンチで座って待っている事にした。

「ふ〜。久しぶりにこんな歩いたぜ。疲れるな〜。それに暑くて死にそうだ」

 この暑い中、広い園内を歩き続けているのだ。汗だくだし、疲労も多少なりとあった。

「やっぱり夏場は辛いよね。威部鬼さんも変身した状態で激しく動くのは死ぬ程辛いって

嘆いてたよ」

「だろうな。こんな暑い中であんな物を着てたら―――って、唯?!」

 下を向いていたために気付かなかったが、俺の目の前に唯が立っていた。

 さっきまでの赤い子供服っぽい服装ではなく、ジーパンのような生地で出来たコートワ

ンピースに、ロングブーツを履いた―――唯にしては珍しく一般的な普通の格好である。

 こうやって普通の姿をしてれば、何の問題なく可愛いやつだと改めて思う。

「あっ、あんまり服をジロジロ見ないで。この格好、ちょっと恥ずかしいから」

 が、唯はこの格好が気に入らないらしくモジモジとしていた。さっきの子供服の方がま

だマシだという事らしい。

 うーん。やっぱり中身は問題有りか・・・。さっきの格好で普通に歩く方が、絶対に恥ず

かしいに決まっているのにな。

「それにしても、こんな遠いとこにいても会えるなんて、きっと運命の赤い糸でしっかり結

ばれてる証拠だね!」

 唯は嬉しそうに左手の小指を立てて満面の笑みを作る。それに反抗してつい、「腐れ縁

だろ」と返すが、それはスルーして勝手に話を進める。

「そうそう。赤い糸って、男の人は右手の小指で、女の人は左手の小指にあるんだよ。そ

うする事によって、赤い糸が絡まる事なく2人が寄り添って歩けるっていう神様の親切心

なんだって」

 嬉々として説明する唯だが、俺は冷静に答えを返す。

「神様の親切心以前に、赤い糸なんて見えないんだから絡まる心配はいらないだろ」

「そんな事無いよ。私には智幸の小指と赤い糸が繋がってるのが見えるもん!」

 自信満々に言い張る唯。それが本当なら唯の見る世界はどうなっているんだか。

「あ、嘘だと思ってるでしょ。いいよ、智幸にも見えるようにしてあげる。ちょっと目を瞑っ

てて!」

 強引に俺の目を塞いで瞑らせ、俺の右手の小指を触って「赤い糸〜、赤い糸〜」と唱え

る。そして唯の「もういいよ」の合図で再び目を開けると、俺の右手の小指には赤い糸が

結ばれてあった。その赤い糸の先はもちろん唯の左手の小指に繋がっている。

 が、これは単に持っていた赤い糸をお互いの小指に結びつけただけ。馬鹿でもなけれ

ば普通に理解出来る。

 しかし、

「ね!これで本当に私と赤い糸で繋がってるのが分かったでしょ?」

 こうも無邪気な笑顔で自信満々に言われると突っ込みづらいな〜。
  

 

 

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あとがき

今回は遊園地を舞台にした前後編の前半部分です。

1話にまとめようと不必要な部分は削りに削ってみたんですが、
ヒーローショーのMC唯のところでかなり字数取ってしまいました。
舞台にした遊園地って着ぐるみの可愛いキャラいないんですもの。
いるとしたら、「ハイランダー」ってダサいヒーローくらい(笑)
試しに唯に着させて使おうと試みましたが、
そのヒーローの事よく知らないので使うに使えませんでした。

後編は今書いていますが、衣装のネタないです。
普通にシリアス(青春)ネタで順調に書かれておりますね・・・(汗)

とりあえずこうご期待!


おまけで「ダサいヒーロー」使った没ネタ公開。
変に気張って書かれた8話の一部です。

( ̄ロ ̄;;;)